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Ⅲ-13.債権譲渡Ⅱ-抗弁権の問題を中心に

Ⅲ-13.債権譲渡Ⅱ-抗弁権の問題を中心に

1.X→Yへの請求

(1)前提

 AYは請負契約を締結して,その報酬債権としてAはYに対して5000万円の報酬支払請求権を有している(これを「α債権」という。)。そして,資金繰りに窮したAは,このα債権をそのXに対する借入金の返済に代えて譲渡した。これに基づいて,XはYに対して,AのYに対する報酬支払請求権の支払いを求めることになる。

(2)請求原因

 ここでの請求原因は,①AY間の請負契約締結(民法632条),②仕事の完成(民法633条),③AX間の金銭消費貸借契約の締結(民法587条),④③の弁済に代えて,①の債権をXに譲渡(民法482条)である。

 ところで,民法482条によれば,「他の給付をした」ことが代物弁済の効力が生じるための要件であるとされているから,代物弁済契約は要物契約であると考えられてきた。この考え方によれば,Xがα債権を取得したことを基礎づけるためには,さらにα債権の譲渡について対抗要件が具備されたことも主張立証する必要がある。しかし,民法482条は,弁済としての効力の発生,すなわち弁済の目的である債権が消滅するための要件を定めた規定であるにすぎず,代物弁済契約自体は大工性契約であると考えることができる。この考え方によれば,α債権は,代物弁済契約の締結によってXに移転することになる(民法176条参照)。

 以上によれば,XがYに対してα債権の履行を求めるためには,上記の①~④事実を主張立証する必要がある。

(2)抗弁

 Yは,Xの請求を拒むためにどのような事実を主張・立証する必要があるか。

ア 同時履行の抗弁権

 Yは2005年9月半ばの台風で,本件マンションの点ジョンの一部に防水加工の不手際があったことが原因で漏水等の被害が出たとの事実から,YのAに対する請負契約に基づく修補請求権(民法634条1項)の発生を基礎づけ,これをもとにした同時履行の抗弁権(民法533条)を主張することが考えられる。ここでの要件は,①仕事の目的物に瑕疵,②修補請求,③同時履行の権利主張である。

 ところで,債権譲渡が行われ,その対抗要件が債務者に対する「通知」によって備えられたときは,債務者の債権の譲渡人に対する抗弁は,通知を受けるまでに生じた事由に限って,譲受人に対抗することができるとされる(民法468条2項)。しかし,債権譲渡は,通常債務者が関与せず行われるのであり,これによって当然に債務者が不利な地位に立たされるいわれはない。そこで,債務者が債権の譲渡人に対して主張し得た抗弁は,譲受人に対して主張できるのが原則であり,例外としてXが再抗弁によって通知後の抗弁であることを主張するべきである。

 ここでは①,②,③をみたす。

 ここでXは再抗弁として,抗弁権発生前に債権譲渡の通知がなされたことを主張することが考えられる。ここでは通知がなされたのは2005年9月2日であり,台風により修補の必要が生じたのは9月半ばであるから,Xの再抗弁が通りそうである。しかし,そもそもこの防水加工については引渡しの時点で瑕疵があったものと考えられる。そうすると,子の抗弁権発生の基礎となる事実は,2005年3月31日に発生していたのであるから,Xの再抗弁は成立しない。よって,Xの請求は認められない。

 

2.X→Z1への請求

(1)前提

 XはZ1に対してβ債権の履行を求めるために,β債権の発生原因事実とそのβ債権をXが取得したことを主張しなければならない。ここでは,YZ1の賃貸借契約とそれに基づく使用収益で賃料請求権が発生しており,その賃料債権がAY間の金銭消費貸借契約で発生したα債権の譲渡担保に付されたこと,そのα債権がAからXに債務の弁済として代物弁済されたことを主張することになる。

(2)請求原因

 具体的に,Xが主張すべき要件事実は,①α債権の発生原因事実として,a.AY間の請負契約の締結,b.仕事の完成,②β債権の発生原因事実として,a.YZ1間の賃貸借契約締結,b.aに基づく引渡し,各月分の賃料につきその前月末日の到来,③α債権のためにβ債権を譲渡担保に付したこととして,AY間の債権譲渡担保設定契約,④α債権について代物弁済がされたこととして,a.XA間の金銭消費貸借契約,b.XA間でaの弁済に代えてα債権を譲渡するとの合意をしたことである。

 ここでβ債権は,α債権を担保するために譲渡担保に供されているから,担保権の随伴性により,α債権の移転により当然にβ債権も移転するのであるから,XA間の代物弁済契約の合意で足りるとも思える。しかし,譲渡担保権について権利移転的構成をとるのであれば,β債権の譲渡がα債権の担保の目的であることは,譲渡担保設定契約の当事者を債権的伊拘束するにとどまり,β債権の債務者との関係で随伴性の効力を認めることはできないと思える。したがって,Z1との関係でβ債権取得を基礎づけるためには,④bに加えて,c.bについて,Z1の(明示ないし黙示の)同意[1]があることを主張立証する必要がある。

 以上から,Xが上記事情を主張立証すれば請求原因は認められる。

(3)抗弁

ア 対抗要件の抗弁

 Z1としては,β債権がYからAへ,AからXに譲渡されたことについて,それぞれ対抗要件を具備するまでは,その譲渡の効力を認めないという権利主張をすることができる(民法467条1項)。

 これに対して,Xとしては,対抗要件を具備したとの再抗弁を主張することが考えられる。しかし,Z1がYに対して,誰にβ債権が譲渡されたかを特定せずに,「β債権がすべて譲渡されたことにつき,異議なく承諾します」と書かれた承諾書を交付した事実をもって,β債権がYからAへ譲渡されたことについての対抗要件を具備したことになるのかが問題となる。

 民法467条が,債務者に対する通知又は債務者による承諾を債権譲渡の対抗要件とした趣旨は,債権者が誰であるかについての情報を債務者に集約し,債務者をいわば情報センターにすることにより,債権についての権利関係を公示しようとするものであると考えられる。この考え方によれば,譲受人の特定は,対抗要件の具備において本質的な要素となり,譲受人の特定を書く上記承諾書の交付はこれを対抗要件の具備として評価することはできない。

 他方,債務者対抗要件の側面においては,譲受人の特定は,債務者が二重弁済の危険から免れるという専ら債務者の利益のために要求されるものであり,債務者が譲受人の特定をしない承諾によって,譲受人の特定の利益を放棄するときは,債務者対抗要件として譲受人の特定を要求する理由はなく,その承諾をもって債務者対抗要件の具備として評価することもできる。

 したがって,本件の様にZ1が特に異議なく承諾書を交付しているような場合には,対抗要件の具備を認めてよい。

 もっとも,これでYからAへのβ債権の譲渡について対抗要件が具備されているとしても,さらにAからXへの承諾書の交付をもって,AからXへのβ債権の譲渡について対抗要件が具備されたと評価できるかはさらに検討を要する。

 承諾書において,譲受人が特定されていないことからすると,Z1はその承諾書によって,β債権が誰に対して譲渡されることをも包括的に承諾したのであり,AからXへの譲渡についても承諾がされていると考える余地もある。

 しかし,法は,債権譲渡についてその譲渡のたびごとに対抗要件を具備されるべきことを前提としていると考えられる。複数の譲渡について,包括的に対抗要件を具備するような事態を想定はしていないと考えられる。なぜなら,このような対抗要件の具備を認めると,債務者が,誰が債権者であるかを把握することがきわめて難しくなるのであり,Z1の意思の解釈としても,Yがβ債権を譲渡することを承諾したにとどまり,β債権の譲受人がさらにこれを譲渡することまで認めたものではないと解すべきである。

 以上によれば,AからXへのβ債権の譲渡について,Xは対抗要件を具備したとは言えず,Z1の抗弁が認められると思われる。

イ 同時履行の抗弁

 Z1としては,Z1からYに対する同時履行の抗弁権を主張することが考えられる(上述)。しかし,これに対してはXから承諾があった旨の再抗弁がでうる。すなわち,債権譲渡の対抗要件が承諾によって備えられたときは,債務者が債権の譲渡人に対して主張できた抗弁は,債務者が承諾に異議をとどめた事由に限って,債権の譲受人に対して対抗できる(民法468条1項)。したがって,承諾を再抗弁とし,そこに異議を留保したことを再再抗弁としてXとZ1が主張立証すべきとなる。

 本件において,Z1はYに対し承諾書を交付したことにより民法468条1項の異議をとどめない承諾をしているから,Yに対して主張し得た抗弁を,β債権の譲受人に対しては対抗できないと思える。

 しかし,判例は,民法468 条1 項を,債権譲受人の利益を保護し,取引の安全を保障するための規定であると理解し,抗弁事由の存在について悪意の譲受人との関係では,同項の抗弁遮断の効果が生じないとする。これを前提にすると,上記同時履行の抗弁は,賃貸

借契約の締結によって当然に生じる賃借人の地位に基づくものであり,β債権が賃貸借契約に基づく賃料支払請求権であることを知っていた者との関係では,468 条1 項の抗弁遮断の効果は生じないと考えられる。(承諾の再抗弁に対する,悪意・重過失の再再抗弁)

 本件では,A はβ債権が賃貸借契約に基づく賃料支払請求権であることを前提に譲り受けており,A との関係では,抗弁遮断の効果が生じないといえる。

 

3.X→Z2への請求

(1)前提

 訴訟物はYのZ2に対する保証債務履行請求権

(省略)

(2)請求原因

 ①~④に加えて,⑤β債権についてZ2が保証をしたこととして,a.YZ2間での(連帯)保証契約締結,b.aは書面でなされたことを主張立証する必要がある。保証債務は主たる債務に当然に随伴するから,これで足りる。

(3)抗弁

ア 対抗要件の抗弁

保証人については主債務者に対する対抗要件が具備されれば,当然に保証人にも対抗される。しかし,主たる債務者も転々譲渡までは予定していなかったので,AからXに対する債権譲渡については対抗できるのであり,これは保証人も対抗できると考えるべきである。

イ 同時履行の抗弁

 民法468 条1 項の異議をとどめない承諾は,債務者が,抗弁を債権の譲受人に対して対抗できる利益の放棄としての性質を有する行為であるといえるから,承諾に関与していないZ2 がこれにより不利益を受けるいわれは無い。そうすると,Z2 との関係では,異議をとどめない承諾の効果は生じず,Z2 は,対抗要件具備の時点までに生じた抗弁事由であれば,X に対して対抗することができると考えられる。

上記同時履行の抗弁は,賃貸の目的物に不備が生じれば賃貸人がそれを修繕まで賃料の支払を拒むことができるという,賃貸借契約から当然に生じる賃借人の地位に基づくものであり,賃貸借契約の当初から存在していた事由が現実化したものと言うことがでる。そして,β債権のA への譲渡について対抗要件が備えられたとすれば,それはZ1 がY に対し承諾書を交付した時点で,これは賃貸借契約の後か同時である。したがって,上記同時履行の抗弁は,対抗要件具備までに生じた事由であるから,Z2 はこれをA に対して対抗することができ,X はβ債権の譲り受けについて独自に対抗要件の具備をしていない以上,Z2 はX に対しても,上記同時履行の抗弁を対抗することができる。

以上

 

 

[1]αとベータは外観からすれば別であることも理由となる?