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2.株主総会決議の瑕疵等(会社法事例演習教材[第2版])

Ⅰ-2 株主総会決議の瑕疵等

【設例2-1 決議取消しの提訴権者と決議取消しの効果】

(1)決議取消しの提訴権

 Q1 本件では,EとGに対する株主総会招集通知がなされなかったことが,招集通知の法令違反(299条1項)として取消事由(831条1項1号)に当たる[1]

   299条1項にいう株主とは,298条2項かっこ書きにいう株主であり,それは株主総会において決議をすることができる事項の全部につき議決権を行使することができない株主を除く株主のことである。本件では,E,F,Gに株主総会の招集の通知がなされていないが,Fについては完全無議決権の株主なので299条1項にいう株主に当たらず,この者に対する招集通知がなされなくとも299条1項の法令違反とはならない。

 

 Q2 判例[2]・通説によれば,株主Iは適法に招集通知を受けていたとしても,決議取消しの提訴権を有する。831条1項の趣旨は,株主総会の公正な決議を求める点にあることから,招集通知を受けた株主であったとしても,瑕疵ある決議の是正を求め,公正な決議を求めることに利害関係を有するといえる[3]。したがって,Iは提訴権を有するといえる。

 

 Q3 株主総会決議取消しの訴えの提訴権は,議決権があることを前提にする共益権だと考えられる。そうすると,株式を譲渡したことによって,この共益権を失ったEは原告たる地位を失い,訴えは却下されることになる。これについて,HがEの株主たる地位を承継しているとして,原告たる地位も承継していると考える見解もあるが,株式の譲受人が取得するのは株式に付随する抽象的な株主総会決議取消しの訴えの提訴権に過ぎず,現に行使された提訴権とは異なるため,HはEの地位を承継しない。したがって,やはり訴えは却下されることになる。

  ⇒ Hはその株主たる地位に基づき,その監督是正権の行使として株主総会決議取消しの訴えを提起することができる。

 

 Q4 株主総会決議取消しの訴えの提訴権は,議決権があることを前提にする共益権だと考えられるため,議決権を有さないFは提訴権を有しない[4]

 

 Q5 Jは平成23年6月27日の株主総会で任期満了し,再任されなかったため,取締役ではなくなっており,提訴権を有しないように思える。しかし,当該決議が取り消されると,他の取締役選任がなかったことになり,取締役会設置会社において取締役となるものが3人に満たなくなる(331条4項参照)ので,Jは任期満了後も権利取締役(346条1項)として,取締役の権利義務を有することになる。したがって,提訴権を有すると解される。

 

(2)決議取消しの効果

 Q6 剰余金配当決議が取り消された場合,配当決議そのものが取り消されることになるので,配当を受けた株主は,その配当について法律上の原因を失い,不当利得返還義務を負う(民法703条)。また,計算書類承認決議が取消された場合も,剰余金の配当が計算書類の承認を前提とする以上,これもまた剰余金の配当が無効となり,配当を受けた株主は不当利得返還義務を負う。

  ⇒1 分配可能額を超える剰余金の配当が無効であるか否かの論点について,有効説をとったとしても,本件はその「分配可能額を超えて(461条1項柱書)」配当がなされたことの問題ではなく,配当決議そのものが取消された場合の問題であるから,結論に差異は生じない。

  ⇒2 ある期の計算書類の承認決議等が無効になると後続期の計算書類等の承認決議に影響が出るのかという問題である。この点について,株主総会決議取消しの訴えには遡及効が認められることから(839条),計算書類の承認決議が取り消された場合は,当該計算書類は未確定となり,それを前提とする次期以降の計算書類の内容もまた不確定なものとなる。また,剰余金配当決議が取り消された場合も,当該剰余金の配当を前 提とする次期以降の計算書類の内容も不確定なものとなる。以上から,ある期の計算書類の承認決議等が無効になると,後続期以降の計算書類も連鎖的に無効となる。

  ⇒3 あらためて,平成23年6月における計算書類・剰余金配当についての株主総会決議を行う必要がある。

  ⇒4 P社は決議が取り消される虞があることを株主に説明したうえで,決議が取り消されることを条件とした⇒3と同様の再議決を行うことが考えられる。これを行うと,取り消しても再議決がなされたことになるので,結局この株主総会決議を取り消す実益がなくなる。したがって,訴えの利益が欠けることになり,株主総会決議取消しの訴えは却下されることになる。

 

 Q7 取締役選任決議(329条1項)が取り消されることで,遡及的にA・B・Cは取締役でなかったことになる。そうすると,それらの者による代表取締役の選定行為(362条2項3号)も当然無効である。したがって,AはP社の代表取締役とはいえないため,その取引行為も無権代表行為としてP社に効果帰属しないとも思われる。しかし,これについては354条の表見代表取締役の規定により,善意の第三者は保護され,取引はP社に効果帰属すると解すべきである。仮にも取締役会という集まりがあった場で代表取締役に選定されている点で,「代表取締役以外の取締役に…会社を代表する権限を有するものと認められる名称を付した」といえるからである[5]

   また,不実の登記をしているのであれば,908条2項による相手方保護を考えることもできる。

  ⇒ 839条の本文かっこ書きにおいて,834条17号の株主総会等の決議の取消しの訴えについて将来効となるものから除くとしている。したがって,旧商法下の少数説は成り立たない。

 

 Q8 Q7と同様に考える。すなわち,表見支配人(13条)の規定ないし908条2項による相手方の保護が考えられる。

 

 Q9 A・B・Cは取締役でないにもかかわらず,取締役としての報酬を得ているのであるから,これは不当利得としてP社に返還しなければならないとも思われる。しかし,事実上A・B・Cは取締役として役務を会社に提供していたのであるから,この返還義務については法律上の原因がないとは言えず,A・B・Cは返還義務を負わないと考えるべきである。

 

 Q10 これは取締役選任決議が取り消されることによって,その遡及効により,A・B・Cは取締役でなかったことになるため,423条1項にいう責任主体になりえないのではないかという問題である。しかし,事実上の取締役として活動していたのであるから,423条1項の類推適用を認めるべきである。したがって,A・B・Cが放漫経営を行ったのであれば,それは善管注意義務・忠実義務違反(330条,民法644条,355条)となり,それは任務懈怠を構成するので,P社に損害が発生していれば,423条による責任を負う[6]

    これは第三者に対する責任でも同様であるから,A・B・Cにおいては,429条1項の類推適用が認められる。

 

 Q11 取締役における退職慰労金は,報酬の後払い的性質を有しており,これは361条の報酬規制に服する。そして,報酬はこの361条による株主総会決議を経てから支給されるものである以上,この決議が取り消された場合は,その決議がない以上,報酬の支払いは認められない。したがって,この場合,Dは退職慰労金をP社に対して不当利得していることになるので,これを返還しなければならない[7]

 

(3)裁量棄却

 Q12 決議①~④が取り消される原因があるとしても,裁量棄却(831条2項)が認められないか。裁量棄却は,取消事由が831条1項1号の法令,定款違反である場合に,違反する事実が重大でないこと,かつ,決議に影響を及ぼさないことが認められる場合に,取消の訴訟を棄却するものをいう。

    前者について,Fの持ち株比率にもよるが,少なくともE・F・Gの持株比率の合計が20%であることを考えると,E・Gの持株比率は決して少ないとは思われず,これらに対する招集通知漏れは株主における株主総会への出席と議決権行使の機会を奪う重大なもので法令違反として重大といえる。

    後者について,E・Gの持株比率が大きいのであれば,これらの者の参加によって,決議の結論が変わっていたことも十分に考えられる。したがって,決議に影響を及ぼさないとは言えない。

    以上から,裁量棄却は認められない。

    本件総会に出席していた株主のほとんどが決議①~④に賛成しており,E・Gの参加にもかかわらず,賛否が変わらないのであるとしたら,決議への影響を及ぼすとは言えない。しかし,やはり法令違反としては重大なものであるから,裁量棄却は認められない。

 

 

【設例2-2 決議取消訴訟における訴えの利益】

Q1 株主総会決議取消しの訴えにおいては,それが形成の訴えであることから,法定の要件をみたす限り,原則として訴えの利益が認められる。しかし,形成の訴えといえども,訴訟制度を利用する限り何らかの具体的な紛争解決の効果も期待されなければならない。そこで形成権発生後の事情の変動により,決議を取り消す具体的な実益がなくなった場合には訴えの利益が否定されると考えられる。

   一方で,株主総会決議無効・不存在確認訴訟においては,それが確認判決であることから,確認の訴えの利益が必要となる。確認の利益は,判決をもって法律関係の存否を確定することが,その法律関係に関する法律上の紛争を解決し,当事者の法律上の地位の不安,危険を除去するために必要かつ適切である場合に認められる。

   これらの判断の仕方は,決議取消しの訴えが原則として訴えの利益が認められ,一定の場合に例外的に訴えの利益が失われるのに対し,決議無効・不存在の訴えは先に具体的な確認の利益の判断が必要となる点で異なる[8]

 

 Q2 P社は,株主総会について,取締役会の決議なしに代表取締役のCが招集を行っている。株主総会は,取締役会の決議により総会の日時・場所・目的等を定め(298条1項,4項),業務執行の一環として代表取締役が招集しなければならない(296条3項,363条1項1号)ところ,本件ではその取締役会決議を経ていないため,招集手続の法令違反(831条1項1号)があり,これは決議取消事由に当たる。また,本件での招集通知は5日前に発せられていることから,299条1項にも違反する招集手続に関する法令違反があり,決議取消事由となる。

   しかし,Aが取消しを求めている第一決議では,C・D・Eの取締役選任が問題となっているところ,これらの者は任期満了によって退任している。そうすると,この取消し訴訟は,特段の事情のない限り,選任決議を取り消す具体的な実益がなく,訴えの利益が認められない[9]。したがって,訴えが却下されることとなり,取消しは認められないと考えられる。

 

 Q3 前記Q2本文にある考え方をする判例は,訴えをする具体的実益があることを特段の事情として証明したときには,訴えの利益があるという判旨だと思われる。そうすると,このようなAの言明が,訴えの利益を失わせない特段の事情に当たるのかという問題として設定できる。

   これについて,役員報酬は取締役として職務を執行した以上は,株主総会決議が取り消されたとしても,役員らがそれを不当利得として返還しなければならないとは考えがたい[10]。したがって,特段の事情に当たるとは言えず,訴えの利益はやはり認められない。

 

 Q4 取締役会も経ずに,平の取締役が招集した株主総会決議の瑕疵はどの程度のものになるのかということであるが,これについては平取締役による招集は権限のある者による招集であるという外観すらなく,また,取締役会決議すら経ていないのであるから,もはや法律上の意義における株主総会とは言えない[11]。したがって,この瑕疵は株主総会決議不存在といえるほどの重大な瑕疵に当たる。

 

 Q5 不存在確認訴訟の場合,第一の取締役選任決議を不存在と確認することで,その不存在が連鎖し,第二決議も不存在とされることになるので,訴えの利益は認められるといえる[12]

 

 

【設例2-3 取締役会決議の瑕疵】

 Q1 取締役会の決議の内容・手続に瑕疵がある場合については,株主総会と異なって,特別の訴えの制度(831条参照)が設けられていないことから,法の一般原則に従い,無効と解される。これは,誰から誰に対しても,何時いかなる方法[13]でも,無効を主張することができる。

   しかし,軽微な瑕疵の場合には,無効とまで解する必要はないといえるし,無効な決議に基づく代表取締役の行為がこれも当然に無効とされるわけではない。特に後者については,Ⅰ-3において取り扱う。

 

 Q2 一般に取締役会の場合は,その招集通知において会議の目的事項として記載されなかった事項を決議したとしても瑕疵があるとは言えない。

⇒ 取締役会においては,取締役は経営の専門家として会社の業務執行に 関するあらゆる事項が議題になることを当然に予測していなければならない。しかし,株主総会においては,株主が日ごろから株主総会で決定しているよう閉鎖的会社でもない限り,議題を示して,出席する権利を保障して,ようやく十分な判断をすることができる(なお,299条4項,298条1項2号参照)。株主総会の場合は,招集通知に無い事項の議決については準備ができないことによって瑕疵となるのに対し,取締役会ではそうならないのは上記の理由による。

 

 Q3 取締役会規程で定めたことに反するとも思われる。しかし,取締役会の招集通知は書面でなされるところ,その通知には会議の目的事項を記載すべき旨規定しているとしても,取締役会においてその招集通知に記載されていない事項について審議又は決議することを禁じていると解することはできない[14]。裁判例[15]においては,定款・取締役会規程等に取締役会の招集通知は会議の目的を記載した書面で行う旨定められていた場合であっても,招集通知に記載のない事項を審議・決議することは,取締役会の制度趣旨に鑑みて,当然に違法とならないとしている。

  

 Q4 解職決議の対象となる代表取締役が一切の私心を取り払って,会社に対して負担する忠実義務(355条)に従い,公正な議決を期待することは困難であることから,369条2項にいう特別利害関係に当たる[16]

 

Q5 特別利害関係人に当たらないとすれば,Aを除いた取締役会決議が瑕疵を帯びるのではないか,すなわち無効とならないかが問題となる。この点について,取締役会は全取締役に出席の機会を与え(368条1項),そこで議論を尽くさせることを要求しているのであるから,解職対象の代表取締役が弁明等をすることにより決議に影響が出ることはままある。そうすると,このような弁明の機会も与えられないなどの場合を考えて,原則として無効となると考えられる。

  しかし,Aが出席してもなお決議に影響が出ないと認められる特段の事 情がある場合には,有効と解してよい[17]

 

[1]招集の手続の法令違反としては,取締役設置会社において取締役会決議に基づかず代表取締役がした株主総会の招集,招集通知漏れ,招集の通知期間の不足,招集の通知・株主総会参考書類の記載不備,定時株主総会における計算書類の不備等がある。

[2]最判昭和42・9・28民集21巻7号1970頁。

[3]これに加えて,文言上株主という以外には制限がないというものがあるが,議決権を有しない株主については提訴権を否定するのが通説であり,その点の平仄が問題となるため,理由としては記載しなかった。

[4]これに対して,当該株主が議決に拘束されるにもかかわらず議決権濫用に対抗できないのはおかしいとして,その違法性を争うために提訴権を認めるとの見解もある。前掲1・江頭347頁註釈(2)参照。

[5]ここでは354条の規定が適用なのか類推適用なのかという議論もある。直接とは何が違うかという問題意識である。この点について,条文の文言上は直接で問題ないと思われる。無論,この条文は本来取締役でない者に代表取締役という名称を付した場合を想定したのであるから,遡及的に代表取締役でなくなった者については,その条文の射程をとりあえず出るわけなので類推と考えることもできる。

[6] 908条2項を媒介にする423条1項の適用も考えられなくはない。しかし,908条2項は対会社責任であるから,会社を第三者として構成することは難しい。429条1項については,908条2項を媒介にして適用をすることにその点での問題はないと思われる。

[7]これらについて,最判平成15・2・21金判1180号29頁,東京地判平成9・8・26判タ968号239頁参照。

[8]決議不存在事由と決議取消事由の差異については,前掲1・江頭354頁註釈(1)参照。

[9]同様の判例について,最判昭和45・4・2民集24巻4号223頁。逆に特段の事情が認められたものとしては,東京高判昭和57・10・14判タ487号159頁に,会社の損害を回復させるための不可欠の手段であったとするものがある。

[10]設例2-1Q9参照。

[11]最判昭和45・8・20判時607号79頁。

[12]これについて,取締役選任決議の不存在確認請求と,その不存在を理由とする後任の取締役選任決議の不存在確認請求が併合提起されている場合は,後者の決議だけでなく,前者の決議についても,民事訴訟法145条1項(中間確認の訴え)の法意から当然に確認の利益があるとするものがある。最判平成11・3・25民集53巻3号580頁,前掲1・江頭355頁註釈(3)参照。

[13]取締役会決議無効・不存在の確認の訴えも提訴が許されている。最判昭和47・11・8民集26巻9号1489頁。また,これについて対世効を認めるかどうかには議論があるが,画一的要請のあるものについては,838条を類推適用して認めるべきである。前掲1・江頭397頁註釈(19)参照。

[14]本件と違い,定款に記載のある場合であるが,これに反対する見解について,吉本健一「招集通知に記載のない議題に関する取締役会決議の効力」民事特別法の諸問題4巻216頁。

[15]名古屋高判平成12・1・19金判1087号18頁。

[16]前掲1・江頭393頁註釈(15)はこの射程を区切り,閉鎖会社の場合は,取締役会の監督権限の行使というよりも,業務執行を巡る二派の争いそのものであることが多いから,代表取締役の議決権を排除すべき理由はなく,特別利害関係人にあたらないとする。

[17]最判昭和44・12・2民集23巻12号2396頁,高松地判昭和55・4・24判タ414号53頁,前掲1・江頭397頁註釈(20)参照。反対説も同江頭参照。