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109.引受承継人の範囲

民事訴訟判例百選109事件-引受承継人の範囲

-最高裁昭和41年3月22日第三小法廷判決-

1.事案の概要

 XはYに土地を賃貸して,Yはその土地上に建物を所有している。XがYに対して,Yの無断増築による契約解除及び期間満了を理由として,建物収去土地明渡請求訴訟を提起した。その訴訟係属中に,YがZに前記建物の一部を賃貸して引き渡したので,XがZに対して,建物からの退去を求めて,訴訟引受を申し立てたところ,裁判所がこれを認めた。これに対して,Zは承継人に当たらないと主張している。

2.審理の経過

 訴訟引受について,第一審は,単に当該訴訟の目的である債務そのものが第三者に移転された場合だけに限定されるものではなく,かような義務に関連してさらに第三者がこれと訴訟の目的を一にする新たな義務を負担するに至った場合にも,債務承継の一場合として訴訟引受を許すべきであるとした上で,Zの義務はYの義務とはその発生の経過原因を異にしているとはいえ,等しくXの宅地所有権の円満な状態を復せしめる義務にほかならないから,その訴訟の目的を同一にするものであるから,訴訟引受を許すべきとした。

 原審も同様の判断をして,控訴を棄却した。Y・Z上告。

3.判旨

 上告棄却。

「賃貸人が,土地賃貸借契約の終了を理由に,賃借人に対して地上建物の収去,土地の明け渡しを求める訴訟が係属中に,土地の賃借人からその所有の前記建物の一部を賃借し,これに基づき,当該建物部分及び建物敷地の占有を承継した者は,民訴法74条(現行法50条に相当)にいう…者に該当すると解するのが相当である。けだし,土地賃借人が契約の終了に基づいて土地賃貸人に対して負担する地上建物の収去義務は,右建物から立ち退く義務を包含するものであり,当該建物収去義務の存否に関する紛争の内建物から退去にかかる部分は,第三者が土地賃借人から係争建物の一部および建物敷地の占有を承継することによって,第三者の土地賃貸人に対する退去義務の存否に関する紛争という形態をとって,右両者間に移行し,第三者は当該紛争の主体たる地位を土地賃借人から承継したものと解されるからである。これを実質的に考察しても,第三者の占有の適否ないし土地賃貸人に対する退去義務の存否は,帰するところ,土地賃貸借契約が終了していないとする土地賃借人の主張とこれを支える証拠関係(訴訟資料)に依存するとともに,他面において,土地賃貸人側の反対の訴訟資料によって否定されうる関係にあるのが通常であるから,かかる場合,土地賃貸人が,第三者を相手取って新たに訴訟を提起する代わりに,土地賃借人との間の既存の訴訟を第三者に承継させて,従前の訴訟資料を利用し,争いの実効的な解決を図ろうとする要請は,民訴法74条の法意に鑑み,正当なものとしてこれを是認すべきであるし,これにより第三者の利益を損なうものとは考えられないのである。そして,たとえ,土地賃貸人の第三者に対する請求が土地所有権に基づく物上請求であり,土地賃借人に対する請求が債権的請求であって,前者と後者とが権利としての性質を異にするからと言って,叙上の理は左右されないというべきである。」

4.検討

(1)訴訟承継の場合の承継人の範囲

 訴訟承継には包括承継の場合における当然承継(法124条)と特定承継の場合の狭義の訴訟承継(法49条~51条)がある。本件では狭義の訴訟承継としての引受承継において,その範囲が問題となっている。引受承継(参加承継もだが)の原因は,第三者が,訴訟の係属中その訴訟の目的である権利の全部もしくは一部を譲り受けたこと,または,訴訟の係属中その訴訟の目的である義務の全部もしくは一部を承継したことであるが,この文言の解釈は基本的に法115条1項3号の口頭弁論終結後の承継人の解釈に準じるとされる。

 すなわち,判旨にも示されたように,紛争の主体たる地位の移転を受けたものが承継人の範囲に当たると解する見解が考えられる。定式化すると,新請求と旧請求とが主要な争点を共通にし,承継人との紛争が旧当事者間の紛争から派生ないし発展したものと社会通念上みられる場合に引受承継を認めてよいとする[1]。これは,実質的には,訴訟の目的の同一性や承継をした当事者の行態を衡量して,従前の訴訟状態を利用するべきかどうかといった観点から紛争の主体たる地位を認めるかどうかを判断する。判旨も訴訟の目的として建物を退去する義務に言及し,それに関する証拠関係(訴訟資料)の利用についても言及していることからこうした判断によるものだと思われる。

 一方,承継人の範囲について,訴訟物たる権利義務の承継だけでなく,当該訴訟物について原告または被告となることを適切なものとするような実体法上の地位の承継を言うと解する見解もある。かかる見解からは,判例の事案について,借家人Zは,建物収去に包含される建物退去義務に関して被告となることを適切とするような建物の占有者としての実体法上の地位を承継したといえるから,承継人に当たると解されることになる[2]

(2)訴訟承継の効果

 訴訟承継の効果について,通説は,49条・51条に規定された時効中断等の効果のほか,訴訟状態承認義務を認める。その根拠は,①承認義務を否定すると訴訟承継の相手方の既得的地位が害されること,②被承継人は承継人の処分の結果を承継すべき実体法上の地位の移転を受けること,③訴訟の目的たる実体法上の地位にもっとも強い利害関係を有していた承継人の訴訟追行があったのであるから,被承継人の手続保障の代替は(ある程度)なされていることにあるとされる[3]

 これに対しては,訴訟状態承認義務を認めることについて批判的な見解もある。つまり,承継人の訴訟戦略としてなされた事実について自白が,被承継人の訴訟戦略においては争いたい事実であった場合などに,この訴訟状態承認義務を常に認めることへの疑問である。しかし,これは個々の訴訟行為の問題として争うこともできるのであり,一応義務を認めることができると解せばよい[4]

 

[1]高橋宏志『重点講義民事訴訟法〔第2版〕(下)』574頁参照。

[2]三木=笠井=垣内=菱田『LEGAL QUEST民事訴訟法』581頁参照。

[3]前掲2)579頁。

[4]前掲1)578頁,前掲2)579頁参照。