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29.改ざんされた試験結果

改ざんされた試験結果

第1 甲の罪責について

1 甲は,A市の採用試験において,その試験結果原簿を作成し,当該採用試験を担当するBに提出している。甲はこのうちのDの試験結果について,虚偽の点数を記入し,採用試験の合格ラインを超えるようにした。この内容虚偽の記載についてBは認識しておらず,それを決裁したことで,甲はBをして虚偽の公文書を作成させていることといえる。この文書は有印文書であるから,このとき,甲には有印虚偽公文書作成罪(刑法156条)の間接正犯が成立するのではないか。

2 虚偽公文書作成罪においては,公務員が,その職務に関し,行使の目的で,虚偽の文書を作成した場合に成立する。本件は,甲は作成権限者ではないが,作成権限者であるBをして,間接正犯の形態で本罪を遂行することができるかという問題である。

 虚偽公文書作成罪は,公務員のみが犯しうる身分犯である。そうすると,甲も公務員である以上は,この虚偽公文書作成罪の主体足りうる。甲がBをして内容虚偽の有印公文書を作成させる行為は,Bがあたかも道具のごとく使われており,甲の行為の障害となっていない本件においては,規範的に見て,甲の行為に虚偽公文書作成罪の実行行為性,正犯性が認められる。甲には当然これを試験結果文書として行使する意思があるのであるから,行使の目的も有しており,したがって,甲には有印虚偽公文書作成罪の間接正犯が成立する。

3 以上の経緯で作成された試験結果一覧の文書は,ファイルに綴じて人事課のファイルボックスに据え置かれた時点で,文書としての機能が果たされる蓋然性が高まったのであるから,行使がなされたといえる。したがって,同行使罪(刑法158条1項)が成立し,これらは牽連犯(刑法53条1項前段)となる。 

 

第2 乙の罪責について

1 一方で,乙は上記の甲作成にかかる試験結果原簿に,甲が席を外している間に,Fの得点について改ざんをし,虚偽の記載を行っている。これも,乙がBをして,虚偽内容の有印公文書を作成させたものとして,有印虚偽公文書作成罪(刑法156条)の間接正犯が成立しないか問題となる。

2 しかし,本罪は公務員のみが対象となる身分犯である。私人による場合は,刑法157条が公正証書原本不実記載罪等の罪として軽く処罰しているのであるから,その趣旨に鑑みて,刑法156条による処罰は予定していないというべきである。したがって,乙に有印虚偽公文書作成罪の間接正犯は成立しえない。

 また,乙は公務員である甲やBに対する申立てによって,虚偽の記載をさせているわけではないので,公正証書原本不実記載罪等も成立しない。したがって,乙は無罪である。

以上