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書評とか備忘録とか

6.カネ・カネ・キンコ

カネ・カネ・キンコ

  1. 乙の罪責について

(1)乙は,強盗目的でスナックCに入店していることから,管理権者たるDの意思に反する立ち入りであることは明らかであり,乙には建造物侵入罪(刑法130条前段)が成立する。

(2)乙は,スナックCに入店し,その店長のDに対して,エアーガンを突き付け,「カネ・カネ・キンコ」との発言を繰り返し,金員を要求している。乙がDに突き付けたエアーガンは本物の拳銃のようにみえ,Dはこれを突き付けられたことによって,抵抗する意思をなくしている。したがって,乙は脅迫によってDの反抗を抑圧しているといえる。そして,乙はこれによってDが店の金庫から出した35万円を奪っており,1項強盗罪(刑法236条1項)が成立する。

(3)さらに,乙は強盗の機会にDを姦淫しており,強盗強姦罪(刑法241条)が成立する。

(4)乙がスナックを立ち去ったあと,Dからの連絡を受けて,Eが乙を追跡している。乙は追跡してきたEに対して,エアーガンを発射した。Eはそれを体の中心部に受けたことで3週間の打撲傷を負っており,これによって乙には傷害罪(刑法204条)が成立する。

また,乙はこれによって倒れたEの胸ポケットに財布があることを発見し,これを奪っている。暴行後に財物奪取意思が生じ,財物を奪った場合にも強盗が生じるか。強盗罪は暴行・脅迫によって,反抗を抑圧し,それによって財物を奪取するという犯罪類型である。強盗は基本において財物奪取の罪としての性質があり,それに向けられた暴行・脅迫こそが強盗の本質ということになる。そうすると,財物奪取に向けられたものでない暴行・脅迫の後に,財物奪取意思を生じてこれを奪っても,それについては窃盗罪と暴行・脅迫の罪が別個に成立することとなる。もっとも,財物奪取意思が生じた後に新たな暴行・脅迫と評価される行為があれば,それを強盗として論じることはできる。この点について,一旦暴行・脅迫を受けて反抗を抑圧された状態にある者に対しては,再び同様の暴行・脅迫をする必要はなく,その反抗抑圧状態を継続させるような程度の行為をすれば,それで十分財物奪取に向けられた暴行・脅迫といってよい。本件でも,乙はエアーガンの球を受けて倒れて苦悶の表情を浮かべているEをにらみつけて,「文句はないな」などと申しつけて,それに対してうなづくEから2万円入りの財布を奪っているので,犯行抑圧状態を継続させるような行為はしている。したがって,Eから2万円を奪った乙には1項強盗罪(刑法236条1項)が成立する。

(5)このうち,財布について,乙はこれをゴミ箱に捨てるつもりであり,実際に捨てている。そうすると,乙はこのEの財布については毀棄する意思しかなく,不法領得の意思が認められないので,財布については毀棄罪(刑法261条)のみが成立する。

(6)以上から,乙にはDに対する建造物侵入罪(刑法130条前段),強盗強姦罪(刑法241条),Eに対する傷害罪(刑法204条),強盗罪(刑法236条1項),毀棄罪(261条)が成立し,建造物侵入罪と強盗強姦罪は牽連犯(刑法54条1項後段)となり,傷害罪と強盗罪は観念的競合(刑法54条1項前段)となり,それ以外はまとめて併合罪(45条)により処断される[1]

 

  1. 甲の罪責について

(1)甲は,自分が暴力団関係者であったこと,刑務所何度も入っていたこと,殺した人のエピソード等を交えて,自分の言うことを聞くようにもう仕向けたうえで,そうしなかったら殺してやるとか万引きを学校に報告するなどと言って,乙を畏怖させて,乙を強盗に駆り出していることから,強要罪(刑法223条1項)が成立する。

(2)では,甲は乙に指示をして,強盗を行わせているが,これについて,甲は強盗罪(刑法236条1項)の間接正犯となるのか,共犯となるのか。

 間接正犯とは,被利用者をあたかも道具のように利用して,自己の犯罪として,その犯罪を実行させることを言う。そうすると,ここでは被利用者があたかも道具といえるような状態であったか,また,利用者に正犯意思があったかどうかが問題となる。この点について,甲は事細かに乙に強盗をするにあたっての指示をだし,犯行場所まで指定して,乙に犯罪を行わせており,自分に畏怖をした乙を利用しているという認識からしても,正犯意思は認められる。しかし,乙はあたかも道具といえるような状態であるとは言えない。確かに,乙は甲の強要行為によって,甲に対する畏怖を抱いていたとは言えるが,自発的に強盗の発覚を防ぐべく,被害者のDを強姦していることから見ても,自己の意思を抑圧されて道具となっていたとまでは言えない。したがって,甲に強盗罪の間接正犯は成立しない。

(3)もっとも,共犯成立の余地はある。しかし,甲は共同正犯(刑法60条)として責を負うのか,教唆犯(刑法61条)として責を負うのか。この点については,自己の犯罪として実行する意思の有無で判断されるところ,先にも述べたとおり,甲には正犯意思が認められるので,甲は共同正犯としての責を負う。これは甲と乙による強盗の共謀があり,甲が練った計画を乙が実行したものとして,共謀共同正犯が成立する。また,建造物侵入罪についても共謀の射程は及んでいるから,共謀共同正犯が成立する。

(4)一方,その後の乙のDに対する強姦行為については,共謀の射程に含まれていないことから,強盗罪の限度で甲には共同正犯が成立する[2]。Eについては当初の計画内にはないから,共謀の射程の範囲外である。

(5)以上から,乙は,建造物侵入罪(刑法130条前段)と強盗罪(刑法236条)の牽連犯(刑法54条1項後段)が成立し,甲とはこの限度で共同正犯(刑法60条)となる。

以上

 

[1]万引きの窃盗罪をいれるの忘れてた…。

[2]錯誤で処理した方がいい?