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87.口頭弁論終結後の承継人

民事訴訟判例百選87事件-口頭弁論終結後の承継人

-最高裁昭和48年6月21日第一小法廷判決-

1.事案の概要

 土地甲はAの所有名義に登記されていたが,Yがこの登記はAとYの通謀虚偽表示によるものであって,同土地はYの所有に属すると主張して,Aに対して,所有権に基づく甲土地の伊所有権移転登記手続を求める訴えを提起した。これは請求認容の判決が下され,確定している。

 Xはこれらの事情について善意であるところ,Aを執行債務者とする甲の強制競売事件において,同土地を競落し,その旨の所有権移転登記を経由している。そこで,YはXが口頭弁論終結後の承継人であるとして,承継執行文の付与を受けて,甲について所有権移転登記を経由した。

 Xはこれに対して,承継執行文の付与が違法であり,Yの所有権移転登記も無効であることを主張して,Yを被告として,甲がXの所有に属することの確認と,所有権に基づいて甲の所有権移転登記を求めて訴えを提起した。

2.審理の経過

 第一審は「口頭弁論終結後の承継人は…,口頭弁論終結時に終える前主と相手方の権利関係について確定判決の内容に抵触するような主張ができないだけであって,その時以後に生じた新たな事実に基づく主張はできる」として,XはAが無権利であることについて善意であったと認められ,民法94条2項の善意の第三者に当たるとして,Xの請求を認容した。Yが控訴したが原審は控訴を棄却。そこで,Yは上告した。

3.判決要旨

 上告棄却。

「Yは,土地甲につきA名義でなされた…所有権取得登記が,通謀虚偽表示によるもので無効であることを,善意の第三者であるXに対抗することはできないものであるから,Xは土地甲の所有権を取得するに至ったものであるというべきである。このことはYとAとの間の…(前訴の)確定判決の存在によって左右されない。そして,XはAのYに対する本件土地所有権移転登記義務を承継するものではないから,Yが,…確定判決につき,Aの承継人としてXに対する承継執行文の付与を受けて執行することは許されない。」

4.検討

(1)既判力の主観的(主体的)範囲

 口頭弁論終結後,すなわち既判力の基準時の後に,訴訟物たる権利又は義務自体の主体となった者には既判力が生じる(法115条1項1号)。また,法は紛争解決の実効性の維持のために,口頭弁論終結後の承継人にも既判力が拡張されるとしている(同3号)。

 この口頭弁論終結後の承継人に対してなぜ既判力が拡張されるのかについて理論的な説明については諸説ある。以下,それらに言及したうえで,本判決についての評価に触れたい。

(2)どういう理論で口頭弁論終結後の承継人に既判力が拡張されるのか[1]

 ア 当事者適格の承継があると考える見解

 訴訟物たる権利関係又はこれを先決関係とする権利関係について当事者適格を取得した者に既判力が拡張されるとする見解。しかし,原告ないし被告とその承継人の間で訴訟物は厳密には同じではなく,訴訟物をにらんだ概念である当事者適格が「承継」されるというのも説明が困難である。

 イ 紛争の主体たる地位の移転があると考える見解

 前訴で解決された紛争及びそれから派生した紛争の主体たる地位を基準時後に取得した者ないし第三者と相手方当事者との紛争の対象たる権利義務関係が当事者間の前訴の訴訟物たる権利義務関係から口頭弁論終結後に発展ないし派生したとみられる場合を承継人として既判力を拡張する見解。しかし,紛争の主体たる地位という法的スクリーニングを施さない概念がどこまで基準となりうるのか疑問である。

 ウ 実体的地位の伝来的取得があると考える見解

 当事者と承継人との間で客観的でお兼可能な実体法上の地位の依存関係に既判力拡張の根拠を求める見解。

(3)第三者に前主に由来しない攻撃防御方法があるときの処理

 既判力の拡張を上記のいずれかによって認めるとしても,第三者に前主に由来しない攻撃防御方法があるときにもこの既判力の拡張があると考えるべきか。これについて判断をしたのが本判例である。

 ア 形式説

 第一審判決は,既判力の及ぶ承継人であっても,執行力が及ぶ承継人ではない者の存在を認めている。これは既判力が及ぶものであっても,執行力を排除する独自の攻撃防御方法の提出が認められるということを認めている。これは既判力にいうところの前訴判断の拘束力を承継人には認めつつも,前訴判断を争うための基準時前の事由の遮断効は認めないということである。形式的に既判力の適用を認める点で形式説と呼ばれる。

 イ 実質説

 最高裁判決は,Xを承継人ではないとしていることから,独自の攻撃防御方法を有する者は既判力が及ばないと考えているものと思われる。このように第三者が独自の攻撃防御方法を有するかの実質に着目して既判力の拡張を考えることから実質説と呼ばれる。これは既判力の及ぶ承継人と執行力が及ぶ承継人の範囲を一致させる点にその眼目がある。

(4)本判決を踏まえて

 判例は実質説を採用しているとされるが,理論的には形式説を採用する方がすわりがよいとされる。実質説は,独自の抗弁を主張立証できた場合には既判力が及ばず,主張立証できなかった(しなかった)場合には既判力が及ぶということで,職権調査事項であることと矛盾する虞がある。もっとも,形式説も万全でないことが指摘されていることにも注意されたい[2]

 

[1]高橋宏志『重点講義民事訴訟法(上)〔第2版〕』679頁以下参照。

[2]百選189頁解説5参照。