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96.通常共同訴訟人独立の原則-当然の補助参加

民事訴訟判例百選96事件-通常共同訴訟人独立の原則-当然の補助参加

-最高裁昭和43年9月12日第一小法廷判決‐

1.事案の概要

 XはY1に本件土地を賃借し,Y1はその土地上に本件建物を所有した。その後,本件建物は強制競売に付され,Y3が取得し,所有権移転登記も経たが,Y1の子Y2がこれを買い戻した。この事実関係の下,XはY1~Y3に対して,以下の訴訟を提起した。すなわち,Y2に対しては,本件建物収去土地明渡と,Xが所有権を取得した日以降の賃料相当損害金の損害金の支払いを求めて,また,Y1とY2に対しては,本件建物退去土地明渡を求めて,さらに,Y3に対しては,本件土地の不法占有に基づく同期間の賃料相当分の損害賠償を求めて訴えを提起した。これに対して,Y1,Y2は土地賃借権存在を抗弁として提出したが,Y3は信義に反する以外は何らの主張もしていない。

2.審理の経過

 第一審は,Xの請求全部棄却。

 原審では,Y1,Y2に対する請求を,賃借権の存在の抗弁を認めて控訴棄却。Y3に対しても,Y1,Y2が順次賃借人としてY3の所有期間もXに対して賃料を支払っていたことを主張していることから,「右主張はY3についてもその効力を及ぼすものと解するのを相当とする」として,Xの損害を否定し,控訴棄却。Xが上告した。

3.判決要旨

 破棄差戻し。

「通常の共同訴訟においては,共同訴訟人の一人のする訴訟行為はほかの共同訴訟人のため効力を生じないのであって,たとえ共同訴訟人間に共通の利害関係が存するときでも同様である。したがって,共同訴訟人が相互に補助しようとするときは,補助参加の申出をすることを要するのである。もしなんらかかる申出をしないのにかかわらず,共同訴訟人の訴訟行為が,他の共同訴訟人のため当然に補助参加がされたと同一の効果を認めるものとするときは,果していかなる関係があるときこのような効果を認めるかに関して明確な基準を欠き,徒らに訴訟を混乱せしめることなきに保しえない。されば,本件記録上,なんら被上告人Y1,同Y2から補助参加の申出がされた事実がないのにかかわらず,被上告人Y1,Y2の主張をもって被上告人Y3のための補助参加人の主張としてその効力を認めた原判決の判断は失当であり,…原判決は右請求に関する部分について破棄を免れない。」

4.検討

(1)通常共同訴訟における通常共同訴訟人独立の原則とは

 法39条は共同訴訟人独立の原則を定めているとされる。これは共同訴訟人各自に独立の訴訟手続を保障するものであり,他の共同訴訟人の訴訟行為によって掣肘されることなく,各共同訴訟人が自由に独立に各自の訴訟行為を行うことができるとする。

 しかし,この共同訴訟人独立の原則を厳格に適用すると,一つの訴訟手続で審判されるにもかかわらず,共同訴訟人間で区々の内容の判決が下されることになり,紛争の統一的解決が妨げられる。本件でも,Y3とY1,Y2で統一的な解決が図られているとは言い難い。そこでこの原則の修正を認めるべきではないかということが検討すべき課題となる。

(2)当然の補助参加(申出不要説)の適否

 当然の補助参加の理論とは,共同訴訟人間に補助参加の利益が存在する場合には,たとえ申出がなされていなくとも補助参加があったものとして取り扱い,それによって主張共通を導こうとする理論である。すなわち,訴訟の結果について利害関係を有する場合には(法42条),43条,44条所定の補助参加手続を踏まなくとも,当然に補助参加があったものとして扱われ,その結果,一部の共同訴訟人がある事実を主張すれば,他の共同訴訟人も当該主張を行ったことになる(法45条1項,2項)。

 本件の原審はこれに従って主張共通を認めたものと解される。しかし,最高裁判例は補助参加の利益の判断が必ずしも容易でないことから,当然の補助参加が認められるかの明確な基準が欠けていること,申出なくして補助参加を認めると主張等の整理に混乱が生ずる可能性があること(訴訟の混乱を招きかねないこと)を理由として,この当然の補助参加の理論は許されないとした[1]

 判例上は当然の補助参加を否定しているが,学説上は肯定説も多い。そこでは訴訟経済や統一的な紛争解決の必要性を重視することには着目しておきたい[2]

(3)主張共通の原則による解決とその適否

 一部の学説においては,共同訴訟人間の主張共通の原則を認めることで,この問題を解決するものもある。そこでは,一人の共同訴訟人がある主張をし,他の共同訴訟人が,これと抵触する行為を積極的にしていない場合には,その主張が他の共同訴訟人にとっても有利である限り,その者にもその効果が及ぶとする。これは先ほどの当然の補助参加の理論で補助参加の利益が必要とされるのと比べれば,共同訴訟人に有利であれば主張共通を認める点で,より広い主張共通が認められる点に特徴がある[3]。他方,眼目は訴訟経済や紛争の統一的解決にある点で同様である。

 しかし,この主張共通の原則も,他の共同訴訟人に利益かどうかは容易には決定できず,一方が特定の申立てや主張をしないこともその行動選択の一つであり,それを積極的行動をとった他者の訴訟行為に同化させてしまうのは,共同訴訟人の主体的独自性の尊厳を認めた法39条の趣旨に反する,と批判されている。

(4)落ち着きどころはどこにあるのか

 以上からすると,当然の補助参加の理論は否定され,主張共通も認められない。したがって,共同訴訟人間で主張の流用を認めたければ,補助参加の申出が必要であり,その点について裁判所が釈明を促す形になるのが,暫定的な落ち着きどころであると思われる。

 

[1]ただ,調査官解説によれば,本判例の事案では補助参加の利益を欠くのではないかとのことである。そうすると,いずれにせよ当然の補助参加は認められない。これを踏まえると,判例はこの補助参加の利益について明示の判断をしてはいないので,当然の補助参加の理論の完全否定といえるかはいまだ不明であるとも考えられる(授業ノート)。

[2]当然の補助参加を理論的に肯定するものとして,高橋宏志『重点講義民事訴訟法(下)〔第2版〕』453頁以下。

[3]また,当然の補助参加は上訴の利益(法45条1項)も認められる点に注意。