ちむブログ

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司法修習生の国民健康保険

1.はじめに

 司法修習生になると国からの貸与金を受けて1年間の司法修習に臨む…そんな人が多数になるかと思われます。そして,大学からそのままロースクールへ進学し,司法試験に合格した人であれば,バイト等を除けば初めて社会に出ることになります。このような人も現行の試験制度においては,ある意味多数派を形成するのではないでしょうか。

 私もこの多数派に属しています。そして,自分で言うのもなんですが,こういう人は結構社会的な手続きに対して無知なことが多いような気がします(私だけでしょうか?)。こんな無知である私でも修習関係の書類で一つ気になったものがありました。

 

 貸与金の支給を受ける者は,国民健康保険に加入しなければならない可能性があります。

 

 「ふむ,これはどういうことなのだろうか。保険といえば健康保険のことだろうが,親から保険証もらっているんだけど,何かやらなければいけないことがあるんだろうか。」

 私は率直にそのように感じました。そして,

 「これってここに書いてあるように自分で健康保険に入ることになったら,保険料とか貸与金から支払うんだよな…いくらだ?」

 とも思いました。思い立ったら吉日ではありませんが,これは調べないと怖いぞ…ということで少し調べてみることにしました。※以下は自分の調べた結果なので正しい結果を保証するものではありません!!

 

2.国民健康保険と健康保険は違う

 これが違うということはさすがの自分でも知っていたのですが,話の流れ的に上ではごちゃごちゃにして書いています笑

 

(1)健康保険?

 健康保険というのは,被保険者とその被扶養者について,その疾病,負傷,出産,死亡などについて保険給付を行う制度のことです

  ここでいう被保険者とは,適用事業所に使用される者を言います(健康保険法3条1項)。適用事業所については健康保険法3条3項に規定があるのですが,おおまかには通常想定する普通の会社を考えてもらえればよいかと思います。

 そして,被扶養者とは,①被保険者の直系尊属,配偶者(事実婚を含む),子,孫及び弟妹であって,主としてその被保険者により生計を維持するもの,②被保険者の三親等内の親族で前号に掲げる者以外のものであって,その被保険者と同一の世帯に属し,主としてその被保険者により生計を維持するもの,③被保険者の配偶者で届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にあるものの父母及び子であって,その被保険者と同一の世帯に属し,主としてその被保険者により生計を維持するもの,④前号の配偶者の死亡後におけるその父母及び子であって,引き続きその被保険者と同一の世帯に属し,主としてその被保険者により生計を維持するもの,をいいます(健康保険法3条7項)。

 長いので読むのは大変ですが,ポイントは「被保険者と一定の関係にあって,その被保険者に生計を維持されている」ことです。

 上に書いたように大学を卒業してすぐにロースクールに進学して…という人は,仮に奨学金やバイトでやりくりをしていても,会社員の親によって生計を維持されていたとなっていたのではないでしょうか。そこで親から健康保険証をもらって生活の中で使っていたのだと思います。

 このときの保険料は被保険者である親が支払っています(健康保険法156条・164条・167条参照)。(※実際には,保険料については全国健康保険協会管掌健康保険だと会社と親で2分の1ずつ折半をしていますし,組合管掌健康保険の場合は負担割合が規約で定まっていてそれに応じて支払いをしているはずです。具体的な保険料については協会管掌健康保険であれば,都道府県別に保険料率があり,標準報酬月額と標準賞与額を基礎に算定がされています。)

 以上までをまとめると,「いままでは親に扶養されていたので,親が保険料を支払ってくれていて,その中で健康保険という制度を利用していた」という状態だったわけです。

 

(2)司法修習生になると…

 しかし,司法修習生になると状況が変わってきます。司法修習生になると貸与金を受けることができます。この制度の是非はさておき,これを利用すると基本額23万円が月々貸与金として自分の口座に入ってくるわけです。

 こうなってくると,先にあげた健康保険法上の「被扶養者」になるか怪しいわけです。同法3条7項各号では被保険者によって「生計を維持する」とありますが,おそらく「貸与金があるわけだし,いうなれば稼得能力もあるんだから生計を維持されてるとは言えないんじゃないの?保険料負担だってできるよね?誰かに生計を維持されてるんじゃなくて,自分で生計を維持できてるよね」という話です。

 貸与金の性質から色々な反論はあるかもしれません。ただ,今回はそれはちょっと横に置いておきます。

 

(3)国民健康保険

 では,貸与金によって生計が自分で維持できているとなって健康保険法上の被扶養者から外れ,健康保険の制度を利用できなくなるとなるとどうなるのでしょう。

 国民健康保険法5条は「市町村又は特別区の区域内に住所を有する者は、当該市町村が行う国民健康保険の被保険者とする。」としています。健康保険に加入している被保険者や,その被扶養者はこの適用除外に当たりますが(国民健康保険法6条1号本文,5号本文),こうした職域保険による適用除外に当たらない者はすべてこの国民健康保険でカバーされることになります。いわゆる国民皆保険というやつですね。国民健康保険に加入しても,保険給付の内容自体は健康保険の保険給付の内容とほぼ同じものになっています。

 修習生は(昔とは異なって)この国民健康保険に入ることになるはずです。貸与金を借りることとして修習生になると,その採用発令日に国民健康保険に加入するように届出をする必要があるではないでしょうか。ちなみに,この届出は被保険者となる修習生の属する世帯の世帯主が市町村に対して行うことになります(国民健康保険法9条1項)。仮に修習に当たって一人暮らしをするのであれば,自身がその世帯の世帯主となるので自分で届出をすることになるでしょう。実家から通うのであれば,親が世帯主であると思うので親に届出をしてもらうことになるでしょうか。

 そして,この世帯主が原則として納税義務者となります(国民健康保険法76条)。国民健康保険が世帯単位で課税されるが故です。納付方法については,口座振替や納付書をコンビニ等に持っていって納付する方法などがあります。

 

3.国民健康保険の保険料はいくら?

 これが一番気になるところです。しかし,国民健康保険は上で書いたように市町村が保険者となっており,保険料は市町村によって異なります

 国民健康保険の保険料については,医療分保険料後期高齢者支援分保険料介護分保険料があるのですが,介護分保険料については介護保険の第2号被保険者(市町村に住所を有する40歳以上65歳未満の医療保険加入者)に該当する人が世帯にいなければ加算されません。

 多数派に該当する一人暮らしの人は,前2つを気にすればいいわけです。

 実際の額は,自分が住所を有することになる市町村のものを調べてくれということになってしまいますが,一応例として平成26年分の保険料を大阪市で見てみました(大阪市市民の方へ 国民健康保険料の計算方法等)。※平成25年については学生をやっていたので,平成25年の総所得については(一応)0で計算しています。

(1)医療分保険料

 33,865円(平等割)+20,108円(均等割)+0(平成25年の総所得-33万円)×8.09%=53,973円

(2)後期高齢者支援分保険料
 11,467円(平等割)+6,809円(均等割)+0(平成25年の総所得-33万円)×2.79%=18,276円

(1)+(2)=72,249円(年額)
したがって,月々の納付額は6020円ほどになります。

平成27年については,12月から貸与金をいただくことになるのでこれが所得になるとしても,12月分の23万円-33万円でやはり計算上は0になります。なのでどちらにせよ,大阪市の場合は月々6000円程度ということになるでしょうか。

 

4.調べてみた結果

 正直なところ,思ったより負担は軽かったです。漠然と3万円くらい取られるものじゃないかとびくびくしていたものです笑 ただ,ふと計算式に貸与金で借りられる額の満額約300万円をいれてみると月々3万円程度の負担になりました。いれる数字によってここまで金額に差が出てしまうとその人の正しい保険料がいくらになるか,こちらの説明が正しいのかどうかについてはちょっと責任を負うことができません笑

 やはりこの辺りは自分が属する市町村で問い合わせてみるのがいいかと思います。面白い勉強にはなるのではないでしょうか。