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Ⅰ-12.賃貸借における契約当事者の変動

  1. 12.賃貸借における契約当事者の変動

1.XのYに対する所有権に基づく返還請求権としての建物明渡請求

(1)請求原因

 Xは所有権に基づきYが現在乙を占有することで侵害しているXの乙所有権の回復を求める物権的請求権として乙建物の明渡請求権を求めることが考えられる。

 この時,Xとしては①Xの乙建物もと所有,②Yによる乙建物現占有を請求原因として,かかる請求を立てていくこととなる。

 ①Xの乙建物もと所有であるが,これは権利不変更の原則から,そこに権利の変更を加えるような事情がなければ過去のある時点から現在までの権利が存在する,という不文法に基づく請求原因であり,これでXの乙建物の現所有まで主張していることとなる。

 ②Yの乙建物現占有はこれに対して,所有権を妨害している現在の占有状態を回復させるのが物権的請求権であることから,現在の占有を主張するものとされる。

 本件についてこれを見るに,XはCと1998年4月28日,乙建物の売買契約(民法555条)を締結しており(民法176条),Cはその乙建物をBから相続により承継取得している(民法896条)。そして,Bのもと所有は加工及び民法176条によって基礎づけられる。一方,②Yは乙建物を占有している。

 したがって,請求原因は基礎づけられる。

(2)抗弁

 Xの出せる抗弁としては以下のものが考えられる。すなわち,所有権の発生(承継)原因(民法176条)としての意思表示の欠缺・瑕疵(民法93条~96条)を問題とする抗弁,過去のもと所有の時点から現在までの間に所有権を消滅させる事由の抗弁(契約等),物権的請求権が成立したうえでそれを障害(民法601条等)ないしその行使を阻止(民法295条等)する抗弁である。

 本件で具体的に考えられるのは,物権的請求権が成立した上でそれを障害する占有正権原の抗弁と対抗要件の抗弁である。

ア)占有正権原の抗弁

 Yは賃貸借契約(民法601条)に基づいて,XがYに対して使用収益供与義務を負う結果としてYはXに対し占有認容請求権を得るため,これによってXはYに乙建物を占有させなければならず,これが占有の正権原を基礎づけるという抗弁を出すことが考えられる。かかる抗弁を成立させるためには,①BY間賃貸借契約締結,②①に基づく乙建物引渡し,③Yの乙建物の賃借対抗要件具備が必要となる。③は賃貸借契約に基づく占有認容請求権は債権であるが,対抗要件を具備することで物権に準じた扱いになるというのが民法605条の趣旨だと解釈し,かかる占有正権原の抗弁の成立要件になる。なお,本件は建物賃貸借であるので,借地借家法31条1項より,賃貸借の登記(民法605条)ではなく,引渡しで足りるため,③は②に包摂される。

 本件で,YとBは1978年10月31日に,賃料月額100万円で乙をYに賃貸するとの合意をしていることから①YB間の賃貸借契約が締結されており,②それに基づいてBは乙をYに引き渡している。したがって,占有正権原の抗弁が成立する。

 

イ)対抗要件の抗弁

 YはXが対抗要件を備えるまでは,Xを権利者と認めないとの対抗要件の抗弁(民法177条)の抗弁を主張することが考えられる。ここでは,①Yの第三者性としての,BY間賃貸借契約締結,②Xが登記を備えるまではXを所有権者として認めない旨の権利主張が要件事実となる。

 これは民法177条を権利抗弁とみるものであるがかように解釈するとの以下の理由による。すなわち,権利抗弁説は,物権変動は当事者以外のものに効力を持つが,物権変動の対抗を「第三者」は認めないと主張でき,対抗要件を備えた物権変動は「第三者」に対抗できるとする。これは対抗の意味について対抗要件問題限定説に依拠している。それは両立しえない物権変動に対しては優先権を主張できず,両立しえない物権変動に対して優先を主張するためには対抗要件が必要とするものである。ここから,177条は,物権の移転が行われても,第三者にはその物権の移転を対抗できないと主張できるが,物権の移転について登記を備えた時はその物権の移転を第三者に対抗できると解釈される。

 第三者とは,当事者およびその一般承継人以外のもので登記の欠缺を主張する正当な利益を有するものをいう。

 本件についてみるに,YはBと1978年10月31日に賃料月額100万円として乙建物を賃貸する合意をしている(①充足)。そうすると,YはXに対して,乙建物について所有権移転の登記を具備するまではXを所有権者として認めないとの権利主張をすればよい(②充足)。これにより,Yの対抗要件の抗弁が成立する。

 

(3)再抗弁

 XとしてはYの占有正権原の抗弁のもととなる賃貸借契約が終了したことを再抗弁として主張することが考えられる。具体的には,ア)期間満了による賃貸借の終了,イ)無断転貸に基づく解除,ウ)賃料不払いによる債務不履行解除が考えられる。また,対抗要件の抗弁に対しては,Xは乙建物の対抗要件を具備したことを主張する再抗弁が考えられる(上述の通り)。

以下は,後述。

 

2.XのYに対する賃貸借終了に基づく返還請求権としての建物明渡請求

(1)請求原因

 民法601条にいうような貸借型の契約は,契約が終了すれば賃貸目的物を返還するところまでが契約の内容となっている。したがって,契約遵守原理に従って,賃貸借契約(民法601条)が終了したことによって,賃貸人は賃借に対し,それに基づく返還請求権で乙建物の明渡し求めることができる。

 そして,本件では乙の所有権についてBからC,CからXに順次移転しているが,Yと賃貸借契約を締結したのはBであり,Xではないから,Xはこの賃貸借契約の賃貸人たる地位を得たといえるのかが問題となる。

 この点について,不動産が賃貸される場合,賃貸借関係はその不動産の所有権に付着していると考えられる。そうした不動産の所有権が譲渡されれば,それに付着した賃貸借関係も当然に移転するとされる(状態債務論)。そうすると,賃借人が対抗要件を備えることでかかる債権関係が第三者にも対抗可能となることで,当然に賃貸人たる地位は移転すると解すべきである(民法605条,借地借家法31条1項参照)。

 そうすると,請求原因は①BY間の賃貸借契約締結,②①に基づく乙建物引渡し,③Yの対抗要件具備,④B死亡,⑤CはBの子,⑥CX間の乙建物売買契約締結,⑦賃貸借契約の終了原因である。ここでの賃貸借契約の終了原因は上記1(3)に対応する。すなわち,ア)賃貸借期間満了,イ)無断転貸借に基づく解除,ウ)賃料不払いによる債務不履行解除である。

 前提として,①,②,③,④,⑤,⑥をみたすことは問題ない。そこで⑦について上記に従い検討したい。

ア)期間満了による終了

 賃貸借契約はその期間の満了によって終了する。すなわち,そこでは賃貸借期間の合意とその期間の経過で賃貸借契約は終了するのが原則である。しかし,建物賃貸借については賃借人保護の見地から存続保障が図られており,それが借地借家法26条以下の規定である。これによれば,建物賃貸借の場合,その契約を終了させるためには,a.存続期間の経過,b.XからYに対して期間満了の1年から6か月前までに更新拒絶の通知をすること,c.更新拒絶について正当事由があることを基礎づける評価根拠事実が必要となる。

 本件においては,賃貸期間を20年とする合意をしており,1998年10月31日は経過しているので,a.は満たす。また,XはYに対し,1998年4月28日に退去を求めており,これは1年前から6か月以上前の間の更新拒絶にあたるといえ,bもみたす。さらに,正当事由であるが,これは賃貸人と賃借人それぞれが「当該建物」の使用を必要とする事情を中心にして,建物賃貸借に関する従前の経過,建物の利用状況や利用現況,財産上の給付の申し出などを補完的に考慮して検討される。当該建物の使用を必要とするのは,この規定に当事者間の利害調整の目的があるためである。本件で,Yは出版業を継続するために乙のほかに利用可能な建物がないため,乙建物を使う必要性が高い一方で,Xはこれを壊して新しく高層ビルを建てて収益を得ようとしているだけで,乙建物を必要とする事情はない。したがって,これだけでも正当事由は十分に認められる(c.充足)。よって,賃貸借期間満了に基づく請求原因は基礎づけることができる。

 

イ)無断転貸に基づく解除

 転貸については民法612条1項において承諾がない限り許さないと規定し,2項で1項の規定に反して転貸した場合は契約を解除できるとしている。これは賃貸借契約が人的信頼関係に基づくものであることから,原則として転貸は許されないものであり,例外として賃貸人の承諾があった場合にこれを許すとしたものと考えられる。そうすると,賃貸人の承諾があることは,賃借人において主張・立証すべき抗弁であるから,ここでは,a.賃貸借契約を締結し,b.それに基づいて目的物を引き渡したこと,で解除権が発生し,c.解除の意思表示をしたことが無断転貸解除を基礎づける要件になると解する。

 本件では,YはUと転貸借契約を締結し,これに基づき乙3のスペースを引き渡している(a,b充足)。そうすると,Xは解除の意思表示をすれば,本件契約は解除され,賃貸借契約は終了するため,請求原因は基礎づけられる。

 

ウ)賃料不払いに基づく債務不履行解除

 XはYの2か月分の賃料の不払いを捉えて,債務不履行(民法541条)を理由に契約を解除することが考えられる。これによって賃貸借終了の請求原因が基礎づけられる。

 ここでの要件はa.債務の発生原因事実,b.債務の不履行,c.催告,d.催告後相当期間の経過,e.解除の意思表示である。債務の不履行とは賃料の先払いの合意と不履行分の期間中の前月末日の経過を言えばよい(民法614条を民法91条で異なる合意を設けたと考える)。ここで問題となるのが,譲渡前の賃料債権についてXはそれを取得しているといえるかである。これが認められなければ,譲渡後の賃料については適性に払っていたためXとの関係では債務不履行はないため問題となる。

 この点について,既発生賃料債権は前賃貸人に帰属していると解される。なぜなら,一度発生した債権を他者に帰属させるためには債権譲渡(民法466条)等を要するからである。したがって,残賃料債権の承継がCX間でない限り,債務の発生原因が基礎づけられず,かかる構成による請求原因は成立しない。

 

(2)抗弁

ア)に対して

・使用継続による法定更新(借地借家法26条2項)の抗弁⇒遅滞なき異議

・正当事由の評価障害事実の抗弁

イ)に対して

・信頼関係不破壊の評価根拠事実⇒信頼関係不破壊の評価障害事実

ウ)に対して

・解除前における履行または履行の提供

・対債務者対抗要件の抗弁(民法467条。仮に,債権譲渡があったとした場合。)

 

次回7月9日に以降。

3.XのUに対する所有権に基づく建物明渡請求

(1)請求原因

 XはUに対して所有権に基づく返還請求権として乙3の明渡を求めることが考えられる。これは自己の所有権を,相手方が現在の占有によって侵害している場合,その回復を求めることができるという不文法に基づく請求権である。

この時の請求原因は①X乙3もと所有,②U乙3現占有である。そして①を基礎づけるためには,(a)XC間売買契約(民法555条)に基づく所有権移転(民法176条),(b)B→Cの相続(民法896条)としてB死亡,C相続人,(c)Bもと所有が必要となる。

本件では,(a)1998年4月28日にXC間で乙の売買契約が締結されており,(b)1990年にBが死亡し,子Cが乙を相続している,(c)そして,乙はBのもと所有にあるものであったから,①Xの乙3もと所有は認められる。また,Uによる乙3現占有も認められる。

したがって,請求原因はみたす。

(2)抗弁

 これに対して,Uはいかなる抗弁を主張することができるか。そもそも,UはXY間の賃貸借関係を前提としたYU間の転貸借関係における転借人である。このとき,賃貸人と賃借人の契約関係において転借人に承諾が与えられたか,その転貸借関係が背信性を有するものでないときは,賃貸人は賃貸借契約を解除できず,賃借人が転借人に賃貸目的物を使用収益させるのを認容しなければならなくなり(転貸認容義務),その結果として賃貸人は転借人に使用収益認容義務を負うこととなる。これが本件でUが主張する占有正権原の抗弁となる。

ア)占有正権原の抗弁

 その場合の抗弁の要件事実としては,①BY間の賃貸借契約の締結,②①に基づく引渡し,③Y対抗要件具備(借地借家法31条),④YU間転貸借契約の締結,⑤④に基づく引渡し,⑥B又はC又はXの承諾(民法612条)or背信性不存在の評価根拠事実である。ここで,③の対抗要件の具備は,建物の引渡しであり,これは②と同様であるから,②を主張すればよい。

 本件において,①1978年10月31日,BY間で乙の賃貸借契約が締結されており,②③同日それに基づく引渡しがなされた。④1993年末ごろYU間で乙3の転貸借契約が締結されており,⑤それに基づく引渡しがなされている。⑤については,Yは乙で営業し始めて以来,乙の利用等の経営判断はすべてYにゆだねられていたとして,ここに転貸についてのBまたはCの黙示の承諾があったと主張することが考えられる。この点については,確かに乙をどう使うかを決定するのはYにゆだねられていたと考えることはできるが,それはかつてBがYの事業者であり,実質的にはYの決定がBの決定といえるような状況にあったためであり,これはまさに自己物の賃貸とそん色なかったからである。そうすると,Bが死亡し,Cが相続したのちは,CはYの事業に入ることもなくいたのであるから,そこに自己物と同様の利用関係を継続する意思はなく,承諾があったとは言い難い。しかし,CはYの経営に関与するのを拒否したのみで,どう使うかについて明確に意思表示をしたわけではない。そうすると,従前の乙の利用状況に鑑みれば,ここにCの黙示の承諾があったとしてもよい。すると,⑤もみたす。

 よって,Uの抗弁が認められ,Xの請求は認められないこととなる。

 

イ)留置権の抗弁

 抗弁①被担保債権の発生原因事実として,(a)乙3に対する必要行為,(b)必要行為時にUが乙3を占有,(c)Uの必要費の支出・額,および②留置権の権利主張(民法295条)となる。

 (省略)

 

4.XのUに対する賃貸借終了に基づく建物明渡請求

(1)XY間,YU間にはそれぞれ賃貸借関係があるが,XU間には直接の賃貸借関係はない。この場合でもXはUに対してXY間の賃貸借終了に基づいて賃貸目的物の返還を求めることができるか。

 この点について検討するに,YU間の転貸借契約に基づいてUが目的物を使用収益できているのは,XY間の賃貸借契約によって,XがYのUに対する使用収益供与を認容していることによる。そして,XY間の賃貸借契約が終了した場合,XはYに対して賃貸目的物返還請求権を有することになるが,それと同時にXY間の賃貸借契約が終了したことによって,YU間の転貸借契約におけるYの使用収益供与義務も賃貸目的物返還請求権となる。そうすると,Xは目的物返還請求権を被保全債権として,YのUに対する目的物返還請求権を代位行使していくのが原則であるところ(民法423条1項),ここではYの無資力が要求されることになってしまう。そこで,民法は613条1項から,転借人は賃貸人に直接の義務を負うとしてかかる規定の特則を設けている。すなわち,賃借人の無資力を要求することなく,転借人は賃貸人に直接の義務を負う結果,転借人は賃貸人に目的物返還義務を負い,これの裏返しとして賃貸人は転借人に目的物返還請求権を有することとなるのである。

 そうすると,ここでXがUに対して賃貸借終了に基づく建物明渡請求権を求める請求原因は,①XY間の賃貸借関係として(a)BY間賃貸借契約締結,(b)B死亡,C相続,(c)CX賃貸人の地位の移転としての乙3売買の意思表示(民法176条),(d)乙3Bもと所有,(e)Yの対抗要件具備(民法605条or借地借家法31条1項),②①に基づく引渡し,③YU間の転貸借契約の締結,④BorCorXの承諾または背信性不存在,⑤原賃貸借契約の終了原因としての賃貸期間満了[(a)存続期間の経過,(b)XからYへの期間満了の1年から6か月前の間における更新拒絶通知,(c)更新拒絶の正当理由],または賃料不払いによる債務不履行解除[(a)賃料先払いの合意,(b)不履行期間中の前月末日の経過,(c)CからXへの賃料債権の債権譲渡(民法466条),(d)XからYへの催告(民法541条)と相当期間の経過,(e)XからYへの賃貸借契約の解除の意思表示]である。

 (本件へのあてはめは省略)

5.YのUに対する転貸料支払い請求

(1)請求原因

 YのUに対する転貸料請求権の請求原因は,①YU間の賃貸借契約締結,②①に基づく引渡し,③請求分の期間中の毎月末月到来である。ここでは,毎月末日に翌月分の賃料を支払う合意があるので,民法91条によって民法614条と異なる賃料支払時期の合意がなされていると考えられる。すなわち,賃料は賃貸借契約によって発生するが,賃料の支払い時期について,翌月分を毎月末月に支払うという先履行の合意をしているので,民法91条より,それが任意規定たる614条に優先することとなる。そして,これだけだと逐次賃料が発生することになるが,この点については民法614条より,請求分の毎月末月の到来によって履行期が到来するものとして考える(先履行構成説)。したがって,上記の請求原因となる。

 本件では①~③すべてみたす。

(2)抗弁

 UはYからの転貸料支払い請求に対して,Uはいかなる抗弁を主張することができるか。そもそも,Yの転貸料支払請求はUに対する賃料支払請求権に基づくものであり,これはXY間の賃貸借契約において,XがYU間の転貸を認容しているが故に,YがUに使用収益させる対価として取得することで認められているものである。しかし,XY間の賃貸借関係が終了した場合,YはXに対して目的物の返還義務を負い,XY間の使用収益供与関係が終了することにより,これを前提とするYU間の使用収益供与関係も履行不能として終了することとなる。そして,YのUに対する使用収益供与義務が履行不能となるのは,XがUに目的物の返還を求めた時であると解される。

 そうであるならば,抗弁としては①XY間の賃貸借関係として(a)BY間賃貸借契約の締結,(b)B死亡,C相続人(民法896条),(c)CX間の売買契約(民法555条,176条),(d)Yの対抗要件具備としてのBorCorXの承諾か①に基づく引渡し(借地借家法31条1項),(e)B乙もと所有,(f)(d)が後者でない場合は,①に基づく引渡し,②YU間の転貸借契約の終了として,(A)原賃貸借期間の満了と(B)原賃貸借の債務不履行解除と(C)無断転貸に基づく解除が考えられる。

(A)では,(a)賃貸借期間の合意,(b)存続期間の経過,(c)XからYに対する期間満了1年から6か月前の更新拒絶の通知,(d)更新拒絶の正当理由である。

(B)では,(a)賃料支払時期の合意,(b)不履行分の期間中の毎月末月の経過,(c)CからXへの賃料債権の債権譲渡,(d)催告とその後相当期間の経過,(e)XからYへの賃貸借契約の解除の意思表示である。

(C)は,(a)XからYへの解除の意思表示である。

そして,(A)~(C)の終了原因が認められて上で,③XからUに対する賃借物明渡し請求がなされる必要がある。

これら①~③をみたすことで抗弁が成立する。

(あてはめ省略)

 

(3)再抗弁

(A)に対して,

・合意更新の再抗弁

・使用継続による法定更新の再抗弁

・正当事由の評価障害事実の再抗弁

(B)に対して,

・弁済の再抗弁

・対債務者対抗要件の再抗弁

・背信性不存在の再抗弁

(C)に対して

・Xの承諾の再抗弁

・背信性不存在の再抗弁

 

6.UのYに対する必要費償還請求

(1)請求原因

 UはYに対して民法608条1項に基づいて必要費の償還を求めていくことができる。これが196条1項と異なり「直ちに」償還請求できるのは,必要費は賃貸人の使用収益供与義務の具体化だからである。

 ここでの請求原因は,①YU間の乙3の賃貸借契約締結,②①に基づく引渡し,③乙3に対する必要行為,④必要費の支出・額である。①,②は認められるし,③についても,ここでいう必要行為とは,賃借物の現状を維持若しくは回復又は通常の使用収益に適する状態に置く行為をいい,修理はここでは必要行為といえる。そうすると,Uは必要費として200万円を支出したとして,その償還を請求していく頃ができる。

(2)抗弁

 必要費が通常の費用を超えることが抗弁となる。(以下略)

 

7.YのXに対する必要費償還請求

(1)請求原因

 Yが上記のUの請求に応じた場合,その必要費の償還をXに請求できるか。これについて,賃借物の価値は必要費の支出によって維持されており,新所有者は賃借物を取得したことで,他人の支出によってその利得を得ているという関係にあるのだから,支出利得の償還に応じるべきであるといえる。

 したがって,請求原因としては,①XY間の賃貸借関係の存在(内容省略),②①に基づく引渡し,③乙3に対する必要行為,④必要費の支出・額が必要となる(民法608条1項)。

(2)抗弁

 Xは抗弁として,権利金・敷金の交付がなかったのだから,Yの経営のために乙を使用収益出来ることはYの対価によって認められていたとして,乙の修繕に必要な費用はYが負担するとの特約があったとみることができるとして,必要費の償還に関する特約による抗弁を主張することが考えられる。

 (以下略)

 

8.UのXに対する必要費償還請求

(1)請求原因

 民法196条1項に基づく必要費償還請求が考えられる。すなわち,占有者は自己が占有する物の保存のために必要な行為がされ,そのために費用を支出したときは占有物の回復者に対し,その費用を償還できるというものである。ここでの請求原因は,①Xの乙3もと所有(内容省略),②必要行為時にUの乙3占有,③必要行為,④必要費の支出・額である。

 (省略)

(2)抗弁

 回復者は占有者が占有物を返還するまで必要費の支払いを拒絶するとの抗弁を出すことができる(民法196条1項)。

 (省略)

 

9.XのCに対する瑕疵担保責任に基づく損害賠償請求

(1)請求原因

 XはCに対して,必要費償還の負担の債務がついた乙が契約の目的物になっており,本件XC間の売買契約の合意上はそのような性質は予定されていなかった以上,それは瑕疵があるものなので,瑕疵担保責任(民法570条)の適用ないし類推適用に基づき損害賠償請求をしていくことが考えられる。

 瑕疵担保責任の法的性質については,私的自治尊重の見地から性質を契約の内容に含めると解すべきことから,それは一般債務不履行の規定以外の契約責任であると解される。そうすると,そこで賠償されるべき額は,本来瑕疵なきものが履行されていたのであれば,得たであろう利益という履行利益であり,契約実現型の損害賠償を予定している。そうすると,修補請求とパラレルに見れる必要費償還請求もここに含まれるとして,これを請求していくことができる。

そこでの請求原因は,①XC間乙3売買契約,②瑕疵の存在,③瑕疵の不表見,④損害の発生・額である。

(2)抗弁

・Xの悪意・過失

・短期期間制限(民法570条,566条3項)

以上