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Ⅰ-2.代理による契約締結

Ⅰ-2 代理による契約締結

問1

1.XのYに対する所有権移転登記抹消登記請求

(1)請求原因

 XはYに対して,甲の所有権に基づく所有権移転登記抹消登記請求を行うことになる。これは所有権に基づく妨害排除請求権を行使しているものとみられるが,所有権といった本権に基づく物権的請求権も,民法が197条以下で占有に関する訴えを認めている趣旨に鑑み,目的物について所有権を有する者は,その目的物を現在侵害するものに対し,その侵害の除去・回復を請求することができると認められていると解される。

 そうすると,ここでの請求原因は①Xの甲土地もと所有,②甲土地についてY名義の登記が存在することである。これは権利不変更の原則により,所有権を取得した者は,現在もその所有権を有すると言える一方,占有による妨害は現に登記によって妨害が生じていることを主張する必要があるからである。

 本件についてこれを見るに,YがXの所有権の存否を争うものか事実関係からは不明であるが,Aとの取引の経緯を見ても,Xが甲の所有権者であることを前提としていると考えられることから,2004年4月1日時点での甲のX所有は成立し,甲につきXもと所有は認められる。また,この甲について,被告名義の所有権移転登記が存する。

 よって,請求原因は基礎づけられる。

(2)抗弁

 Yとしては,Xのかかる請求原因の主張に対し,以下の抗弁を主張することが考えられる。

ア)Aを代理人としたXY間代物弁済契約による所有権喪失の抗弁

 Yは,AがXを代理し(民法99条),甲がAの債務の弁済に代えてXからYに代物弁済され(民法482条),これによって甲の所有権がXからYに移転し(民法176条),Xの甲所有権が失われたと主張することが考えらえる。ここでの抗弁の要件事実は,①Aの代理行為としてのAY間での甲の代物弁済契約締結,②Aによる顕名,③①に先立って,XからAに代理権が授与されたこと,である(民法99条)。

 本件において,Aは,自己の有するYに対する1億円の債務の弁済に代えて,甲をYに譲渡している。代物弁済(482条)は弁済と同じように考え,合意だけではなく給付まで必要とする要物契約説が通説であるが,本件では債務の消滅が問題となっているのではなく所有権の移転が問題となっているのであり,これについては民法176条が根拠規範となると解すべきである。すなわち,代物弁済契約の効力として債務の消滅は目的物の給付・引き渡し時であるが,所有権の移転自体は意思表示の時に生じると解する。そうすると,ここでは代物弁済契約の締結のためには,Aの債務発生原因,AY間代物弁済契約の合意が主張される必要があり,これについて,AはYに対して有していた1億円の債務があり,これの弁済に代えて甲を譲渡するとの意思表示を2004年4月14日に行っていることから,かかる①の要件を充たす。また,Aは代物弁済の際に,Xから甲の処分について一任を受けた旨Yに表示していることから,②顕名の要件も満たす。しかし,AがXから与えられた代理権は,甲について抵当権設定することであり,甲の所有権を含めた処分まで代理権が与えられたとは言えない。よって,③の要件を充たさず,抗弁は成立しない。

イ)民法109条の代理権授与表示の表見代理の成立を主張してする所有権喪失の抗弁

 そこで,Yとしては上記有権代理(民法99条)の構成に代えて,③について,表見代理の主張を予備的にすることが考えられる。すなわち,本件でAに有権代理が認められなくとも,XはAに白紙委任状を交付していることから,民法109条の代理権授与表示による表見代理が成立し,甲の所有権は上記代物弁済契約によって失われたと主張することが考えられる。ここでは,③に代えて,a.代理権授与表示としての白紙委任状の交付,白紙委任状の提示・代理権が授与された旨の表示,b.表示された代理権の範囲内での代理行為を主張する必要がある。これは表見代理の制度の趣旨が表見法理にあり,それは本人が代理権授与の表示をした以上その表示通りの責任を課されても仕方ないという表示責任原理に基づいた相手方信頼保護の制度であることから,本人の主観とは無関係に,第三者が信頼するに足りる外観が作出された事実があればそれでよいからである。

 本件では,a.のところで,甲の所有権を移転することについて、XがAに代理権を与えていた旨を表示していたと言えるのか。この点について,委任状の委任事項欄・受任者欄が空欄であった場合、何らかの代理権授与はあったことは認められるとしてもその内容が明確でない。よって,原則としては、民法109条の代理権授与表示はなかったものとされるべきである。しかし、甲の処分に関する一切の事項につき、Aに代理権を授与したことについて推断させる事情があれば,例外的に民法109条の代理権授与表示がなされたものとみることができると考える。なぜなら、そのような場合は、本人が相手方に対して客観的に見て代理権授与の表示をしたような外観があるといえるからである。そして,本件において,甲の権利証・Xの実印・印鑑証明書をAが所持しており,これらは,本来本人たるXしか持ち得ない物であり、Aがこれらを所持することで、AはXの代理人であることを推断させる。また、これらの物は土地処分に不可欠のものであり、それらは相手方Yにすべて呈示されているというものであった。したがって,これらのことから甲の処分に関する一切の事情についてXはAに代理権を授与したことにつき推断させる事情があると言え,a.を充足する。

 b.については①の代物弁済契約の締結と,a.の代理権授与表示から明らかであるため,これも充たす。

 よって,Yは表見代理によるXY間代物弁済契約に基づく所有権喪失の抗弁を主張することができる。

ウ). 民法110条の権限踰越の表見代理の成立を主張してする所有権喪失の抗弁

 さらに,Yは,XからAに甲の抵当権を設定する代理権は授与されていたことをとりあげて,これに民法110条の権限踰越の表見代理が成立すると主張することが考えられる。

 ここでは,上記有権代理の主張における③に代えて,a.基本代理権の発生原因,b.当該法律行為の際,YがAに代理権があることを信じたこと,c.そのように信じたことについて,正当な理由があることを基礎づける具体的事実が要件事実であり,それを主張していく必要がある。これは民法110条の適用の基礎としての基本代理権の存在が必要であり,表見代理が表見法理に基づく規定であることから,正当な理由の前提として相手方の信頼が必要とされることから導かれる。

 本件についてこれをみるに,a.については,2004年4月7日,AがXに対し,Yから資金を借り入れる際の担保として甲に抵当権を設定することを依頼し,かつ,Xはその依頼を了承してAにその旨の代理権を付与していることから基礎づけられる。また,Yは代物弁済契約締結当時,かかる代理権の存在について信じていたといえる(b.充足)。そして,それについて正当な理由があるかについて,これは相手方の善意・無過失と解され,ここでYは善意・無過失とは言えない。なぜなら,確かにAがYに対し,甲の権利書・Xの実印・印鑑証明書・委任状を示していることからこれを信じることで善意・無過失といえそうである。しかし,委任状が空欄であるし,AはXの息子であることから,かかる印鑑等の持ち出しが可能であったといえる。さらにはAの債務は1億円であったことから,それに代えて甲で代物弁済をするというのはあまりに本人への不利益性が大きい。そうすると,Yはこうした不審事由の徴表を受けて,本人に対して調査すべき義務を負っていたと解すべきであり,かかる義務を履行していないYは善意・無過失とは言えないからである。

 よって,cの要件を充足せず,かかる抗弁は認められない。

(3)再抗弁

ア)(2)イに対する再抗弁(民法109条ただし書の再抗弁)

 Xは,Yが代理権の不存在につき,悪意又は有過失であったと主張することが考えられる(民法109条ただし書)。これは相手方に信頼がなければ保護する必要はないし,またその信頼に過失があるものは保護されなくても仕方ないという過失責任原理に基づくものである。

 本件における事実関係ではYに悪意があったとはいえない。また,本件事実関係の下では過失を基礎づける事実も見当たらないため,かかる主張は認められない。

イ)(2)イ,ウに対する再抗弁(代理権授与表示ないし授与行為無効の再抗弁)

 Xは,Aに対してした代理権授与表示ないし授与行為について,民法95条の類推適用から錯誤無効であると主張することが考えられる。

 本来,代理権授与表示は意思表示に当たらないため,本来は意思表示に関する準則である民法95条を適用することはできない。しかし,代理権授与表示は代理権を授与したという事実についての本人の観念を表示するものであり,意思表示と共通した性格を持つ点も否めない。また,民法109条の趣旨は,代理権授与表示に瑕疵がある場合に民法95条の類推適用を妨げるものではない。そうだとすれば,本人の観念と表示の内容に重大な齟齬がある場合には,民法95条を類推適用し,代理権授与表示が錯誤無効となると解すべきである。

 本件についてこれをみると,本人の観念は甲についての抵当権設定であり,実際の表示は所有権の処分であったことから,重大な齟齬があり,民法95条を類推適用して,かかる代理権授与表示は無効となる。よって,表見代理の成立を阻止し,抗弁を阻却することで請求原因だけが基礎づけられることになる。

ウ)(2)イに対する再抗弁(意思無能力による代理権授与表示無効の再抗弁)

 意思無能力による意思表示は私的自治における自己責任原理の範疇外にあるので無効とされる。そして,観念の表示についてもこれは類推適用されると解してよい。

 そうすると,代理権授与表示がXの意思無能力によってなされたことが主張・立証できれば,かかる再抗弁により,抗弁が阻却され,請求原因のみが基礎づけられることとなる。

(※エ)(2)ウに対する再抗弁(正当な理由の評価障害事実の再抗弁))

(4)再再抗弁

ア)(3)イに対する再再抗弁(錯誤につき重過失)

 省略

 

問2

2.XのZに対する所有権移転登記抹消登記請求

(1)請求原因

 省略

(2)抗弁

 1(2)と同様なものについては省略。

ア)Zに対する表見代理の成立による抗弁

 →否定すべき。表見代理制度は直接の相手方の信頼のみが問題となっている。

イ)94条2項類推適用の抗弁

 省略

以上