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Ⅰ-7.債務不履行による損害賠償責任Ⅱ

Ⅰ-7 債務不履行による損害賠償責任Ⅱ

1.XのYに対する不法行為に基づく損害賠償請求

(1)請求原因

 Xは,不法行為に基づく損害賠償請求権(民法709条,710条)を,Yに対して行使していくことになる。では,誰に対する不法行為についての損害賠償請求権を,Xは行使しているのか。

 この点について,判例によれば,Gがいったん取得した当該損害賠償請求権を,Gの死亡により(民法882条),Xが相続した(民法886条,889条1項1号)と法律構成する。

 そうすると,そこでの請求原因は①加害者の加害行為による被害者の権利侵害,②権利侵害についての加害者の故意・過失,③賠償されるべき損害の発生及びその額,④権利侵害と損害との間の因果関係,⑤被害者の死亡,⑥原告が相続人であること,である。

 ①については,GがHUSにより死亡していることからGの生命に対する権利侵害が認められる。そして,それはZによる生野菜サラダという給食の提供から生じている。問題はこの間に因果関係が認められるかである。すなわち,GのHUS罹患とZの生野菜サラダ提供の間に因果関係があるのかである。

この点については,HUSの原因となるO-157が付着したのは,サラダの材料である野菜が生産者PからZに搬入される以前の段階であったことが強く疑われるが,正確な原因食材並びに感染ルートは特定されていないため,直接の因果関係の証明は困難である。もっとも,間接事実の積み重ねに対する経験則からする事実上の推定で因果関係の立証をすることは考えられうる。そこでは,1996年7月9日にZが提供した生野菜サラダを食べた者がHUSに罹患しているという間接事実の積み重ねによる経験則からの事実上の推定ができるのであれば,因果関係は認められる。

 ②について,Zに故意はないので,過失の有無が問題となる。過失とは,予見可能性を前提として結果回避義務違反のことを言う。本件では,予見可能性の対象となる結果とは,具体的権利侵害結果であり,「加熱処理をしない生野菜サラダを提供すれば,給食にO-157が付着し,それを摂取した被害者GがHUSに罹患し死亡すること」がその予見の対象とされる。しかし,本件ではO-157は実際にどのような食物に潜んでいるかわかっておらず,せいぜい食肉類からの感染が多いという程度のことしか判明していなかった。そうすると,Zに結果の予見可能性はなかったと考えられる。

 したがって,Zに過失は認められない。

 よって,②をみたさない以上,不法行為構成による損害賠償請求は認められない。

※なお,以下では講義復習の便宜のため他の要件の該当性も検討する。

 ③④については,709条は加害行為と損害の間の因果関係を問題としており,その因果関係とは相当因果関係であるから,相当因果関係を定めた規定である民法416条の規定を類推適用して考える。ここでの損害は不法行為によって被害者に生じた利益状態と不法行為がなかったら被害者が有していただろう利益状態の差を金銭で評価したものをいう。

Gは1か月入院して治療を受けた結果,入院費用・治療費用として200万円支払っていることから,不法行為がなければこの支出はなかったと言え,これが損害といえる。これが通常生ずべき損害であれば,416条1項により相当因果関係があるといえるが,仮に通常生ずべき損害としての入院費・治療費が100万円程度であった場合はどうか。この場合,入院費・治療費が200万円かかるというのは特別の事情としてYに予見可能性があることが必要となるが,本件ではそれがあるとするのは難しい。もっとも,ここでいう損害を抽象化して,Gが1か月入院し,治療を受けた結果,入院費・治療費が必要となったため生じた費用を損害とすれば,100万円は通常生ずべき損害として416条1項より損害賠償の範囲内となる。

また,Gの死亡によって生じる逸失利益については,およそ具体的な損害計算は困難であることから,損害を抽象化し,G(3歳女児)が生存していれば将来就労によって取得できたはずの収入を得られなくなったことが損害として観念できる。そうすると,平均賃金に就労可能年数を乗じてそこから中間利息を控除したものが損害になる。したがって,その範囲では通常生ずべき損害として賠償範囲に含まれる。

⑤⑥については,Gが死亡しており,これによって相続が開始し(民法886条),これによって相続人たるX(民法887条1項1号)は,一般承継(民法896条)により損害賠償請求権を相続することとなる。

(2)抗弁以下特になし

 

2.XのYに対する債務不履行に基づく損害賠償請求

(1)請求原因

 Xは,Gが死亡したのが,Yの債務不履行に基づくものであるとして損害賠償請求をしていくことが考えられる(民法415条)。

 債務不履行に基づく損害賠償請求は①債務の発生原因,②債務の不履行,③損害の発生およびその額,④不履行と損害の間の因果関係,が請求原因として必要となる。そして,1と同様にGに対する損害賠償請求権をXが相続したと考えれば,⑤G死亡,⑥X相続人も主張・立証する必要がある。

 まず,①について,GとYが契約関係にあるとみることができるか問題となるが,Gは三歳の保育園児であり,およそ意思無能力者であったと考えられることから,そのようなものを契約当事者としてとらえるのは妥当でない。この場合,契約関係にあるのはあくまでXとYとみるべきである,XY間においてなされたGに対する給食供給契約において,Yは契約上,Xに対して,Gに給食を提供する義務を負っていると考える。これに加えて,YはGの完全性利益を害さないよう保護する義務を負っているとも解すべきである,確かに,本件のXY間の契約では,YがGの完全性利益を保護する義務を負うことが明示的に合意されているわけではない。しかし,給食の安全性は給食の提供を受ける者にとっては当然の前提というべきであり,給食提供契約の趣旨から,YはGの完全性利益を保護する義務を負うと解すべきである(三者のための保護効を伴う契約)。

 そうすると,Yはかような完全性利益を害して保護義務に反していると言えれば,GはYに対して損害賠償請求権を獲得する。すなわち,本件で当てはめると,①はXY間の給食提供契約に基づいてGの完全性利益の保護義務が発生したとし,②YはZをして生野菜サラダの提供をすることでGはHUS罹患し死亡させており,かかる保護義務に違反している。③④については,Gの入院費・治療費,Gの死亡,Gの死亡によってGに生じた損害として上記1※の中で述べた損害が含まれる。そして,⑤G死亡と,⑥X相続も基礎づけられるから,本件請求原因は認められる。

(2)抗弁

 債務不履行がある場合でも,それに帰責事由が不存在であることを主張立証できれば,債務者は損害賠償責任を負わない(民法415条)。

 ここでいう帰責事由とは,故意,過失又は信義則上これと同視しうべき事由を指す。なぜなら,民法上損害賠償責任を負うだけの理由があるとしたらそれは過失責任原理に基礎づけられるものと考えられるからである。そして,Yはこれについて履行補助者Zを使用しており,元来Yは自己で給食提供をしてきたことを踏まえれば,契約の性質上許されたものとは言えず,自己執行義務を負っていたので,Z使用したことによる責任は民法104条の類推により,その故意・過失については信義則上これと同視すべき事由として責任を負う。

 本件で,Zに故意,過失があればYは常に責任を負うが,Zに故意・過失がないことを主張立証できれば,帰責事由不存在の抗弁が認められる。

以上