ちむブログ

書評とか備忘録とか

Ⅱ-12.共同不法行為

Ⅱ-12.共同不法行為

第1 XのY・Aに対する損害賠償請求

1.XのAに対する不法行為に基づく損害賠償請求

(1)Xは民法709条によって不法行為に基づく損害賠償請求権を訴訟物とする請求を行っていくことが考えられる。

(2)そこでの請求原因は,①Xの権利・法益侵害,②Aの過失を基礎づける具体的事実,③②と①の間の因果関係,④損害の発生とその額,⑤①と④の間の因果関係である。因果関係については,民法709条が「よって」という文言を二度用いていることから,③責任設定の因果関係,⑤賠償範囲の因果関係という2つの因果関係を要求するのが素直であると考えられるからである。

(3)これを本件について検討する。

Xは骨折,上腕筋の切断を被っている。また,これを原因として連鎖的に拡大した神経障害についても,危険関連性[1]をもつ障害としてXの身体への侵害と考えられる(一次侵害から生じた後続侵害)。以上が①Xの権利・利益侵害として考えられる。次に,②過失とは客観的注意義務違反のことを言うが,Aとしては冬の北海道において曇りということを考慮すれば,無灯火で危険な運転をすることで衝突事故等を起こすことが予見でき,これを避ける義務を負っていたといえる。そしてこれを怠っているのであるから,②過失があるといえる。そして,②の危険が①へと現実化したのであるから,③②と①の間の因果関係も認められる。

では,ここでの損害は何か。Xは骨折等の身体障害を被っていることから治療費や通院費が考えられる。また,この身体障害によって精神的苦痛を生じたとしての慰謝料がある。これらが④損害になると考えられる。⑤の因果関係は相当因果関係を問題としているものなので,民法416条を類推して考えると,①の権利・法益侵害によって,⑤の損害が出ることは通常生ずべきものといえるから,因果関係も認められる。この点について,Aは神経障害については第三者Sの独立の行為が介在するため,Aの行為との間に因果関係がないという反論をすることや,仮に因果関係があるとしても,事故後の医療機関の対応で合理的な措置がなされることが信頼できるのであるから,通常生ずべき損害といえず,416条2項にいう予見可能性が問題になるにすぎず,Aに予見可能性はなかったのだから賠償範囲に含まれないという反論をすることが考えられる。しかし,交通事故における緊急搬送の事案では,緊急対応がとられるため,万全の態勢で処置を行えるわけでもない。そうすると,過誤が生じることも否定できないし,前記骨折等の態様からみて処置部分から神経障害が生じる蓋然性も認められる。したがって,神経障害によって生じる損害についても通常生ずべき損害として賠償範囲に含まれるというべきである。

以上から,請求原因は認められる。

(4)これに対して,Aとしては,Xの過失を主張して過失相殺(民法722条2項)の抗弁を主張すること,素因による損害拡大を主張して素因減額の抗弁(民法722条類推)を主張すること,そして,寄与度減責の抗弁[2]を主張することが考えられる。

ア.過失相殺の抗弁[3]

 AはXの過失を基礎づける事実について主張して,賠償額の過失相殺による減額を抗弁として主張していくことが考えられる[4]。Xの過失としては,無灯火で運転したこと,二人乗りという危険な運転をしていたことによって基礎づけられ,一定程度の過失相殺が認められる。

なお,ここではYの過失もあるため,それとの関係が問題となるが,第三者の過失がX・A間の過失割合の決定に入ってくるべきではなく,また,個別に割合決定をした方が被害者救済にも便宜である[5]。したがって,Yの過失を考慮せずに,過失相殺をすればよい。

イ.素因減額の抗弁

 AはXの素因によって損害が拡大したのであり,これは公平の見地から加害者ではなく,被害者が負うものであるとして,賠償の減額を抗弁として主張することが考えられる。ここでの損害はXがけがを理由に不登校になって生じたカウンセリング料相当が素因によるものとして減額される対象としてAは主張するものと考えられる。

 この点について,素因はその人が元来有している性質であり,人は個人差がある以上,異常なもの以外は被害者ではなく,加害者が受け入れるべきリスクである。そうでなければ,人の行動の自由がリスクを恐れて制限されてしまう虞がある。したがって,ここでの素因は病的なもの以外は勘案できないと解すべきである。

 本件での,Xの不登校は神経障害によって野球が続けられないことに基づくが,通常人でも自分の夢が断たれてしまった際はこの程度のショックを受けるといえるので,これはXの病的な精神的訴因によるものとは言えない。したがって,勘案することは許されず,Aの抗弁は失当である。

ウ.寄与度減責の抗弁

 Aとしては神経障害による損害については,第三者Sの過失行為が原因を作ったとして,その者の寄与による損害が減責されるべきであるという抗弁を主張することが考えられる[6]。寄与度減責の抗弁とは,他者の行為によって相俟って結果が生じたないし結果が拡大したことを理由として,賠償額の減額を求める抗弁である。この寄与度は規範的に判断されるべきであり,その規範化された寄与度に応じて賠償額の分担がなされるべきということで,これは抗弁に位置付けられる[7]。ここでは①第三者YないしSの寄与度を基礎づける事実について主張することとなる[8]

 【あてはめ省略】

 

2.XのYに対する不法行為に基づく損害賠償請求

(1)【Aと相当程度かぶるので省略】

 

3.XのY・Aに対する共同不法行為に基づく損害賠償請求

(1)Xは民法719条1項前段によって共同不法行為に基づく損害賠償請求権を訴訟物とする請求を行っていくことが考えられる。

(2)そこでの請求原因はどうなるか。ここで,①Aの過失,②Yの過失,③Xの権利・法益侵害,④損害の発生とその額,⑥①と③の間の因果関係,③と④の間の因果関係,⑦②と③の間の因果関係,③と④との間の因果関係,⑧行為の関連共同性とする見解がある。これは格別の不法行為として取り上げることを前提に,加害行為間の関連共同性をもって,因果関係の認定を緩和する[9]というのを民法719条1項前段の役割とするものである。すなわち,各人の行為が関連共同していることが相当性判断に影響を与え、個々の行為者ごとに損害賠償請求を考えたときには相当性がないとして賠償が認められない損害についても、賠償対象となり得るという点に、共同不法行為制度の意義があると考えるのである。

 しかし,これでは共同関連性によらずとも因果関係の内部的操作である程度解決できるものであり,719条の意義は乏しいという問題性を抱えている。

(3)そこで以下のように考えるべきである。すなわち,個別の行為との因果関係ではなく,関連共同性を持つ行為との因果関係を考えることで,その共同行為と権利・法益侵害の間の因果関係を擬制し,個別の因果関係不存在による減免責の反論を認めないことができ,そこに719条1項前段・後段の関連で読む連帯責任の意義を見出すことができる。そこでの請求原因は,①Xの権利・法益侵害,②Aの過失,③Yの過失,④行為の関連共同性,⑤④と①の間の因果関係[10],⑥損害の発生とその額,⑦①と⑥の間の因果関係となる。

(4)本件について検討する。

 ①~③は省略。

④の行為の関連共同性とは,共同行為者各自の行為が客観的に関していることをいう。本件では,AとYの間に意思の連絡はないが,二人の別個の加害行為によってXの身体に対する侵害結果一つを発生させている以上,客観的関連性は認められる。

 ⑤~⑦は省略。以上から,請求原因は認められる。

(5)これに対して,AとYの抗弁は上述と同様。したがって,省略[11]

 

第2 XのY・Hに対する損害賠償請求

1.XのHに対する使用者責任(民法715条1項)に基づく損害賠償請求

(1)Xは,Hに対する使用者責任(民法715条1項)に基づく損害賠償請求権を訴訟物として,損害賠償請求をしていくことが考えられる。

(2)そこでの請求原因は,①Xの権利・法益侵害,②Sの過失を基礎づける具体的事実,③②と①の間の因果関係,④損害の発生とその額,⑤①と④の間の因果関係,⑥HがSの被用者であること,⑦Sの行為がHの事業の執行において行われたこと,である。使用者責任は報償責任の見地から,被用者の行為によって利益を上げている使用者は,被用者の行為によって生じた損害の責任を負うとする代位責任である。したがって,Sに不法行為が成立することを前提として(①~⑤),⑥,⑦を主張することが使用者責任を追及する要件であるということになるから,上記のような整理となった。

(3)以下,本件について検討する。Xは骨折や上腕筋切断,それに引き続く神経障害を被っているが,Sとしては診療当時の臨床医学の医療水準に照らして,診療契約に基づく合理的注意を尽くして診療する義務を負うが,この義務の射程は事故のよって生じた骨折や上腕筋切断には及んでおらず[12],①Xの権利・法益侵害として考えられるのはその神経障害に限られる。そして,Sは上記義務を懈怠しているのであれば,②の過失が認められ,これと①との間には因果関係は認められる。

 ④損害については,神経障害によって生じた治療費,通院費,精神的苦痛としての慰謝料が考えられる。⑤因果関係については,相当因果関係(民法416条類推)であるが,これも認められる。⑥,⑦については,SはHの勤務医としての診療中に行われた②であるから,これも認められる。したがって,請求原因は認められる。

(4)抗弁については,715条1項ただし書きの抗弁ほかは他の不法行為と同じに考えればよいので省略。なお,715条1項ただし書きの相当の注意の抗弁は,ほぼ認められないので割愛する。

 

2.XのYに対する不法行為に基づく損害賠償請求

(1)【省略[13]

 

3.XのH・Yに対する共同不法行為に基づく損害賠償請求[14]

(1)XはH・Yに対する共同不法行為に基づく損害賠償請求権を訴訟物として請求を行っていくことが考えられる。

(2)そこでの請求原因は,①Xの権利侵害,②Sの過失行為,③Yの過失行為,④行為の関連共同性,⑤④と①の間の因果関係,⑥損害の発生及び額,⑦①と⑥の間の因果関係,⑧SがHの被用者であること,⑨Sの行為はHの事業の執行として行われたこと,である。民法719条および715条の前記の説明に従えば,このような整理となる。

(3)本件についてこれをみたすか検討する。

 まず,Hは事故についてはなんら関係していない以上,義務の射程も及んでいないし,侵害があったとしても,Hの加害行為との間の因果関係はない。関連共同性といえども,権利侵害を擬制することまで認めるわけではないのであるから,ここでの①はXの事故による傷害と危険関連性を有する神経障害である。②これについて,Sは診療について過失があり,③Yも赤信号で侵入するなど運転につき過失があった。そして,④②と③には客観的な関連共同性が認められ,⑤④と①の間の因果関係も認められる。そして,⑥損害については神経障害による治療費,通院費,慰謝料がある。これらは⑦①との間で相当因果関係(民法416条類推)に立つ損害であり,因果関係も認められる。⑧,⑨は上記の通り認められる。

 以上から,請求原因は認められる。

(4)これに対して,H・Yらが主張しうる抗弁等については,上記参照。

 

第3 HのS・Yに対する求償

1.HのSに対する民法715条3項に基づく求償権の行使

(1)HはXに対して支払った損害賠償債務について,Sに求償していくことが民法715条3項から認められる。これは報償責任に基づく代位責任として,使用者はいったんそのリスクの引き受けをするが,実際に不法行為を行ったのは被用者である以上,その者への求償が生じるというものである。もっとも,使用者は被用者を用いて利益を得ている以上,その者が与えた損失についても信義則(民法1条2項)としての公平の見地から分担されるべきである[15]

(2)ここでの請求原因は,①Hが使用者責任に基づく債務を負ったこと[16],②Hが①の債務を弁済したこと,③求償額,である[17]

(3)本件について,【あてはめ省略】

 

2.HのYに対する不真正連帯債務の負担部分に基づく求償権の行使

(1)HはYに対して求償していくことができるか。まず,このHのXに対する2000万円の弁済の意義が確定される必要がある。この2000万円がHの負担部分に関するものであれば,これはあくまでHの負担部分を支払ったにすぎず,この2000万円をYとともに連帯しているか否かにかかわらず求償をすることはできない。しかし,この2000万円が(a)Yと連帯して負う債務において,(b)負担部分を超えて支払ったものであれば求償をすることも認められる。

(2)本件について,(a)Xに対して支払った債務が,Xの神経障害に対する損害賠償債務であれば,前記検討からYとHは連帯して債務を負っているといえる。そして,これについて(b)Hがその負担部分を超えた支払いをしたのであれば,HはYに対して求償をしていくことができる。

求償を認める法律構成については以下のように考えればよい。すなわち,被用者と第三者との共同不法行為の場合には,使用者は被用者と同範囲,同一内容の責任を負うとするのが使用者責任の代位責任の性質から認められ,使用者=被用者という関係性が認められる。そうすると,被用者Sが第三者Yとの間で共同不法行為に基づく連帯債務関係にあり,その負担部分を超える部分について支払った場合は,実質的な内部関係[18]を理由とする求償が認められるはずであることから,使用者にも求償が認められると考えるのである。

 したがって,HはYに対して,求償することができる[19]。           以上

 

[1]危険関連性:第一次侵害の結果について行為者が責任を負うべきであるという評価の中には行為者へのさらなる独立の行為要請(禁止・命令)を待つまでもなく,第一次侵害によって作り出された特別の危険が通常の経過をたどって展開して権利侵害の範囲を連鎖的に拡大していった結果についても,第一次侵害の行為者が引き受けるべきであるというもの。

[2]※難 相当因果関係を規範的要件として捉えるのであれば,相当因果関係を基礎づける評価根拠事実を請求側が主張し,被請求側は相当因果関係を否定する評価障害事実を,いわゆる寄与度減責の抗弁として主張するという考え方もありうる。実務的なはそうとしてはこんな感じ?

[3] Yがこれを主張するとき,Xの過失はAと二人乗りをしていたこと故にAの過失も斟酌していいか問題となる(被害者側の過失)。しかし,被害者側の過失が認められるためには,被害者側に身分上,社会生活上の一体性が認められる必要がある。AとXはそのような関係にないから,被害者側の過失としてAの過失を斟酌することはできない。

[4]過失を基礎づける事実について,これをどう考慮して賠償額に反映させるかは裁判所の裁量にゆだねられている。もっとも,過失を基礎づける事実の主張がなければ,裁判所はこれを考慮することは弁論主義に照らして許されない(事実抗弁説)。

[5]相対的過失相殺。これに対して,絶対的過失相殺で考えるべきという見解もある。

[6]認められるのか?民法719条1項からすれば連帯責任とした趣旨が没却されるから寄与度減責は認められないということもできるが,今回は709条なので無理?しかし,709条の請求をしたときと719条1項の請求をしたときで平仄があわないとするのは違和感がある。伝統的通説をとれば,709条と719条は両立しうるのであるから,どちらかに合わせつというのがいい気がするけれど,新説の場合は…?※要検討

[7]事実的にとらえれば,これは因果関係のところで検討することもありうる。しかし,因果関係は存否が問題となるのであって,割合的な因果関係認定というものは考えるべきではない。したがって,この寄与度は規範的に判断されるべきものであり,上記の通り抗弁となる。

[8] Yについては骨折,神経障害について,Sは神経障害についてのみ寄与度がありうることには注意。

[9]相当性判断が緩やかになるという意味とは…? 危険関連性を採ると,責任設定の因果関係で神経損害とかの問題を処理できるので,結局因果関係の緩和の意義がない(神経障害の射程がどこまで及ぶのかという問題にいきつかないため)。このとき,民法719条1項前段の主張は過剰主張となり,論理的に破綻しうる。しかし,神経障害等を賠償範囲の問題として考えるのであれば,因果関係の緩和という考え方も民法719条1項前段の理解としてありうる。

[10]因果関係認定の緩和とは行為と結果との間の因果関係を擬制することであり,因果関係の不存在を理由とする減免責の抗弁を認めないという意味である。山本(敬)レジュメ231頁。

[11]寄与度減責については,第一次侵害と危険関連性による後続「侵害」として考えるので,どの権利・侵害についての寄与度かという点の検討は必須であることに注意。

[12]時間的にという問題?

[13]権利・法益侵害の射程がYは自己傷害と神経障害(危険関連性でつなぐ)だが,Hは神経障害だけ。そこで神経障害だけにしか連帯性は認められない。そして,このとき寄与度減責の抗弁は,神経障害についてできるのか。これは第1で述べたところと共通するので割愛。

[14]平成13年は寄与度減責を認められなかった。なぜなら,あれは当初の事故に死亡の危険が内在していた。そうだとすれば,診療があいまったという主張は難しい。そもそも,どちらの行為にも死の結果を導く力があったから。この点,本件は事故自体にその後の結果発生の危険があったわけではない。そうすると,寄与度減責を認めてもよいのではないか。これに対しては民法719条1項の趣旨が連帯責任を認めている趣旨に反するとして,寄与度減責を認めないという見解が強い。

[15]判旨は「使用者は,その事業の性格,規模,施設の状況,被用者の業務の内容,労働条件,勤務態度,加害行為の態様,加害行為の予防若しくは損失の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし,損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において,被用者に対し右損害の賠償又は求償の請求をすることができる」としている。なお,この民法715条3項の法的性質は,債務不履行又は不法行為を理由とする使用者の損害賠償請求権である。

[16]ここにSの被用者性は含まれる?

[17]要件事実的なものはよくわからない。要件MAPを読めばいい?⇒要件MAP省略…だと…

[18]被害者に対する弁済者代位という構成もありうる。

[19] XはHとの合意について清算条項を設けており,これは残債務が存在する場合は免除の効力を有すると考えられる。しかし,不真正連帯債務においては,免除は相対効を有するに過ぎない。そうすると,HとYの負担部分が1250万円ずつで計2500万だった場合,HはYに対して,750万円求償できるということになる。一方,YはHに750万円払ったうえで,XのHに対する免除の効力を受けないので残額500万円は支払う義務を負っており,YはXに500万円を支払うということになる。