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Ⅱ-14.団体の法律関係

Ⅱ-14.団体の法律関係

第1 XのYに対する甲の引渡し請求

  1. 請求原因

(1)RはY法人(一般社団法人一般財団法人法3条(以下,「法人法」とする))の代表理事(法人法77条1項)としてXとの間で甲の売買契約(民法555条)を締結しており,当該売買契約の効果はXY間に帰属する。そこでXとしてはこの売買契約を根拠として,Yに対して,甲の引渡しを請求することが考えられる。

(2)このときの請求原因は,①RX間の甲の売買契約の締結,②契約当時,Yが一般社団法人であること,③契約当時,RがYの代表理事であること,④契約時,RがYのためにするという顕名をしたこと,である。このうち,②は法人法の適用と権利の帰属をすることが認められる団体であることを示すために必要となる。また,法人法において代表理事は包括的代表権を有するため,③の要件を示せば代表権の存在が基礎づけられることとなる。

(3)本件において,XRは2010年11月11日に甲の売買契約を締結しており(①充足),その契約当時Yは一般社団法人となっている(②充足)。そして,その契約時RはYの代表理事であったとされるし(③充足),この契約時RはYのためにすることを示している(④充足)。したがって,請求原因は認められる。

  1. 抗弁以下

(1)これに対して,Yは代表理事の代表権が制限されており,その場合には制限にかかる代表理事の行為は法人に効果帰属しないとの反論をすることが考えられる。これは法人法77条4項が包括代表権を定めつつも,5項は代表権が制限されることを前提として規範を形成していることから考えられるものである。この場合に,代表権の制限の抗弁を提出するための要件事実は,①代表理事の代表権についての制限があったこと,②甲の売買契約がその代表権が制限される事項に当たること,である。

(2)本件において,Yの定款には「社団所有の不動産その他の重要な財産を処分するときには,社員総会に諮り,そう社員の議決権の3分の2以上の賛成する特別決議を経ることを要する」との記載がある。そして,甲が非常に有名なスポーツ選手から社団設立時に寄贈を受けたものであり,時価4000万円の価値があることにかんがみれば,Y法人における重要な財産に当たるといえる。そうだとすると,甲の売買は定款記載の事項に当たり,代表権の制限があったというためには,上記定款記載の社員総会の特別決議を経ていないことが必要となるが,Yにおいてそのような総会決議はない。したがって,①,②を充足し,Yの抗弁が認められる。

(3)Xとしては,この抗弁に対して,法人法77条5項のいう制限につき善意であったという再抗弁を主張することが考えられるが,Xは代表理事RからYの臨時社員総会の議事録を見せられており,そこで定款による代表権の制限があったと知ったといえるし,Xは以前Yの理事をしていたことからしてもその定款による代表権の制限があったと知っていたといえる。したがって,Xの再抗弁は認められない。

  1. 予備的請求原因

(1)そこで,Xとしては,代表理事Rの代表権が認められないとしても,代表権があるという外観が認められ,そこに対する信頼が生じていたのだから,民法110条を類推適用して,表見代理による売買契約のYへの効果帰属を主張する予備的請求を行うことが考えられる。ここで民法110条を類推適用するというのは,代表権の制限が民法110条の予定する原始的な代理権の不存在ではなく,内部的決定に基づく事後的な代理権の制限であることから,直接適用ではなく,類推適用としたものである。

(2)では,請求原因はどうなるのか。この点は,①XR間の甲の売買契約の締結,②契約時,Yが法人であったこと,③契約時,RがYの代表理事であったこと,④契約時,YがRのためにすることを顕名,⑤Xは当該取引について,定款記載の総会決議があると信じたこと,⑥信じたことについて,正当な理由があること,となる。そして,ここでいう正当な理由とは信じたことについて,善意・無過失を指すものと解すべきである。

(3)本件において,①~④をみたすことについては上述の請求原因の通りである。そして,XはRから社員総会決議を経たことを示す議事録を示されており,仮に内部決定があるとしても甲の売買契約においては総会決議を経ていたと信じたといえる(⑤充足)。では,Xは信じたことに善意・無過失といえるか。ここでいう無過失とは,調査義務を尽くしたことであり,原則としてXに積極的な調査義務が課されるものではない。しかし,代理人側に不審事由が認められる場合は,積極的な調査義務が課されるとするのが民法110条の趣旨たる表見法理に適う。ここでのXは,昔Yの理事に就任しており,Yが前々から運営資金面で苦しいにもかかわらず,甲を手放さずにいたことを知っていた。それにもかかわらず,Rは甲の売却を持ちかけてきていることを不審に思うべきであった。仮に,よりYの運営状況が苦しくなったとして甲を手放さざるを得なくなったとしても,時価4000万円の甲をより安価の3500万円で売るということについては理由がなく,ここには不審事由があるといえる。そうすると,不審事由があり,Xはこれを解消する調査義務を負っていたにもかかわらず,これを怠っている。したがって,Xには過失がある。よって,⑥は不充足であり,Xの予備的請求は認められない。

 

第2 XのYに対する3500万円の請求

  1. 損害賠償構成

(1)Yの代表理事Rの無権代表行為によって,Xは売買契約を締結しようとしたにもかかわらず,Yにそれが効果帰属せず,売買代金として支払った3500万円につき損害が生じたものとして,XはYに対し,一般社団法人における代表者の行為における法人の損害賠償責任(法人法78条)を追及していくことが考えられる。

(2)この請求は代表理事の行為に不法行為が成立することを前提として,それが法人の職務の執行として行われたことから,報償責任の原理に従って,その法人に賠償請求をしていくものである。そこでその請求原因は①Xの財産権侵害,②Rの故意による加害行為,③②と①の間の因果関係,④Xの損害とその額,⑤①と④の間の因果関係,⑥不法行為時,Yが法人であったこと,⑦RがYの代表理事であったこと,⑧Rの行為はYの職務の執行について行われたこと,である。なお,ここで問題となるXの権利侵害は財産権侵害としてのエコノミックロスであり,これは損害とほぼ同義であるから,①と④の判断はほぼ重なる。そこで,権利侵害を取り上げて検討する必要性は乏しいので,①と④は同時に検討し,③と⑤も同時に検討することとする。

(3)本件では,XはRに対して3500万円の小切手を甲の売買契約代金として支払っており,財産として3500万円分の財産権侵害があり,これが損害である(①,④充足)。また,Rはこの小切手を換金して,行方をくらませていることから,当初からXをだまして金銭を支払わせようとしていたと考えられるので故意が認められる(②充足)。そして,この加害行為から損害が発生することも,相当因果関係(民法416条類推)からみて一般に生じるといえるので因果関係も認められる(③,⑤充足)。一方,不法行為時,Yが一般社団法人であったこと,RがYの代表理事であったことは認められる(⑥,⑦充足)。Rの甲の売買契約の締結行為がYの職務の執行として行われたかについては,取引に関しては外形的に法人の職務として行われているものであれば,それを信頼した相手方を保護するため,職務の執行に含まれると解すべきである。そして,甲の売買契約はYに属する財産の売却であり,上記定款の記載からも売却等が行われることは前提となっているため,Rの行為はYの職務として行われたといってよい(⑧充足)。以上から,請求原因は認められる。

(4)これに対しては,XがRの職務権限につき悪意・重過失であったことをYが主張・立証することでYはXの請求を拒むことができ,これは抗弁となる。この点について,Xは昔Yの理事であり,資金繰りが厳しいことを知っていたことから,XとしてRに甲の売買契約について適法な代表権があるかを確認すべきであったとは言えるが,これについて重過失があるとまでは言えない。したがって,抗弁は認められない。

 また,Yは,Xには少なくとも過失があるとして,過失相殺の抗弁を主張することが考えられる(民法722条2項)。【あてはめ省略・事実及び額不明】

  1. 原状回復構成

(1)RがYの代表理事として締結した甲の売買契約について,Xはその売買目的物の引渡しがないことから,履行遅滞(民法541条)の債務不履行を主張して契約を解除し,それに基づく原状回復請求権によってYに対し,3500万円の返還を求めることが考えられる。

(2)そこでの請求原因は,①XY間に売買契約が帰属していることとして,a.XR間の甲の売買契約の締結,b.契約時,Yが法人,c.契約時,RがYの代表理事,d.契約時,RがYのためにする顕名が必要となる。そして,②その契約が履行遅滞にあることとして,a.履行期の合意,b.履行期の経過(民法412条1項)が必要となる。ここで履行期の経過で履行遅滞が基礎づけられるのは,履行請求権に対して弁済が抗弁になるという構造を解除の場面でも平仄を合わせようとするためである。③解除の手続き要件として,a.催告,b.催告後相当期間の経過(民法541条)が必要となる。そして,解除をすることが認められるために相手方の同時履行の抗弁権を阻却しておかなければならないのと原状回復すべき物として,④代金の提供があったことが必要となり,あとは⑤解除の意思表示(民法540条)によって,原状回復請求権が基礎づけられる(民法545条1項本文)。

(3)本件において,①は今までの検討からみたされるといえる。また,履行期は2010年12月12日であり,その日は経過している(現在2011年4月4日,②充足)。催告について,Xは行っているかは不明である(③真偽不明)。仮に行っており,相当期間の経過があるとしたら③を充足し,Xは甲の代金として3500万円の小切手を支払っていることから[1](④充足),解除の意思表示をすることで原状回復請求権が生じ,請求原因が認められる。

(4)これに対しては,代表権の制限の抗弁(第1-2)が考えられる。

 また,Yは,XがRの代表権濫用の背信的意図を知っていた若しくは知ることができたとして,民法93条ただし書きの類推適用の抗弁を主張することが考えられる。

 ほかにも,解除についてYに過失はないという帰責事由不存在の抗弁も考えられる[2]

  1. 請求の整理

 なお,第2-1,2のいずれの請求原因によることもでき,両者は請求権競合となり,訴訟の場では選択的併合として処理されることとなる。

 

第3 XのYに対する4000万円の請求

  1. 法律構成

(1)XはYに対して,甲の価値4000万円分の賠償を求めることができるか。すなわち,RはYの代表理事としてXと売買契約を締結したが,Yはその目的物甲を引き渡さないため,Xとしては4000万円の価値を手に入れられなかったとして,履行遅滞解除に基づく原状回復請求権(民法545条1項本文)とその填補賠償(民法545条3項)として500万円の請求ができるかという問題である[3]。この点について,原状回復請求については第2-2以下と同様なので,填補賠償についてのみ論ずる。

(2)填補賠償とは本来の給付に代わる損害賠償であり,XはYから甲の引渡しをうけることで4000万円の利益を獲得できたにもかかわらず,Yが甲を引き渡さないことからこの利益を獲得できなかったとして,その部分に関しての填補を求めるものである。これは填補賠償が本来の給付,すなわち「履行に代わる」損害の賠償を目的とするものであることから,債務不履行の場面で債権者が債務者に対して填補賠償を請求することができるためには,履行請求権が排除されていなければならない。そうすると,ここでは甲の売買契約が解除されたことを前提として,生じた損害の賠償を求めるということになる。したがって,請求原因は第2-2(2)の①~⑤に加えて,⑥Xの損害とその額,⑦Yの履行遅滞と⑥の間の因果関係,ということになる。

(3)本件において,①~⑤は第2-2(3)の検討と同様であるが,【⑥,⑦はどう検討すればいいのかよくわかりませんでした】

 

(4)抗弁としては,代表権制限の抗弁,代表権濫用の抗弁,過失相殺の抗弁,帰責事由不存在の抗弁が考えられるが割愛。

以上

 

[1]これってYの手元に届かなくても履行になるんだっけ?

[2]解除について帰責事由不存在の抗弁を認めないという立場もある(有力説)。

[3]ここの訴訟物は2個。