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Ⅲ‐1貸金債権と利息債権

Ⅲ‐1貸金債権と利息債権

1.XのYに対する請求(α債権について)

(1)請求権の法的構成

Xは,Yに対して,2005年2月8日,200万円を渡しているが,これは貸金であると主張している。そこでXとしては,金銭消費貸借契約に基づく貸金返還請求権およびこれに対する利息請求権を訴訟物として,返還請求を行っていくことが考えられる。

(2)請求原因

金銭消費貸借契約(民法587条)に基づく返還請求権を基礎づける請求原因は,①金銭の返還約束の合意,②金銭の交付,③弁済期の合意,④弁済期の到来である。金銭消費貸借は金銭を借りてから一定期間それを保持して使うことが念頭になっているため,その弁済期の定めは契約の本質的要素となる。このうち,弁済期の定めが当事者において定められていない場合は,それについての合意は欠缺しているとみて民法591条以下の規定による補充がなされることとなる。

一方,これを元本とする利息請求は,⑤利息支払いの合意,⑥合意から一定期間の経過が請求原因である。利息請求においては,元本の発生原因事実も請求原因となるが,それについてはすでに言及しているため,重複して主張は要さない。

(3)貸金返還請求権について

ア.本件では,2005年2月7日に飲み屋で飲んだ際にYが200万円貸してほしいとの依頼に対して,Xが200万円貸してやると言っている。これによって,XとYの間に200万円の返還約束の合意が成立している(①充足)。これに対して,Yにおいては,この金銭は返還することを念頭に置いた消費貸借ではなく,Yが選挙に出馬するにあたっての資金として贈与を受けたものであるとの主張がなされている(積極否認)。しかし,贈与であると主張しながら,Yは自己の所有する高級腕時計甲をXに渡しており,その経緯についての証言も曖昧である。したがって,Yの証言は信用性が低い。また,YはXに200万円交付に当たって利息の申し出をしており,これらの事情を勘案すれば,この合意は金銭返還約束の合意であったと推認できる。

イ.金銭の交付については,2005年2月8日にXがYに対して200万円を交付している(②充足)。

ウ.弁済期の合意および弁済期の到来については,XとYの間で定めがないので,民法591条1項より,貸主たるXが催告して相当期間が経過したときに弁済期が到来することとなる。本件では,XからYに,2006年3月4日に200万円を返還するように電話で催告がなされており,弁済をするに足りる相当な期間は経過しているといえるので,弁済期は到来している(③,④充足)。

エ.以上から,請求原因は基礎づけられる。

(4)利息請求権について

ア.本件で,Yは月1割の利息でお金の貸借を申し入れているのに対し,Xはそんなに高い利息はいらないとだけ答えてYにお金を貸している。この点から,XとYの間には利息を支払う旨の合意があることは認められる。しかし,その利率等については具体的意思表示がない。したがって,その場合は民法404条に従って民事法定利率の年5%となる(⑤充足)。

イ.2005年2月8日に元本を貸し付けており,そこから一定期間の経過はある(⑥充足)。

ウ.以上から,利息請求権の請求原因も認められる。

(5)他の請求構成について

ア.Xとしては,上記の金銭消費貸借の立証が上手くいかない場合に,Yから200万円の返還を求めるべく不当利得返還請求をしていくことが考えられる。不当利得(民法703,704条,)は,一般的・形式的には正当視される財産的価値の移転が,相対的・実質的には正当視されない場合に,公平の理念によってその矛盾を調整することを制度趣旨とする。そこでの請求原因は①損失,②利得,③①と②の間の因果関係,④法律上の原因の不存在である。

イ.本件では,2005年2月8日にXがYに200万円を交付しているが(①~③充足),この交付の原因となった契約が無効ないし取消しうべき瑕疵を有していることをXとしては主張することが考えられる。そこでは,Xの200万円交付はYがそれをZ社の営業資金のために使うと思ってのことであり,これが選挙資金に使われたという点で錯誤があるとの主張が考えられる(民法95条)。このような動機の錯誤が民法95条の錯誤に当たるのかについては,信頼主義の観点から相手方にその動機が表示されたときは,相手方はそれを意思表示の内容とると了解できるので,同条にいう錯誤となると解する。(あてはめ省略⇒たぶん無理)

 ほかに詐欺(民法96条1項)の主張も考えられる。詐欺はⅰ.欺罔行為,ⅱ.相手方が錯誤に陥ったこと,ⅲ.それに基づいて意思表示をしたことが必要となる。(あてはめ省略⇒たぶん無理)

 

2.YのXに対する請求(甲について)

(1)請求の法律構成

YはXが所持する高級腕時計甲の返還を請求したいと考えている。ここでは,Yは甲の所有権に基づく返還請求権を訴訟物として請求をたてていくこととなる。

(2)請求原因

 YはXによる甲の占有で自己の甲に対する円満な所有権が侵害されているとして,甲の所有権に基づく物権的請求権として,その返還請求を行っていくことになる。そこでの請求原因は,①Yの甲現所有,②Xの甲現占有である。

 本件で,これらが認められることについて争いはない。

(3)抗弁

ア.Yのこの主張に対して,Xは,甲を占有しているのは,XY間の金銭消費貸借契約に基づく債務の担保として甲に質権(民法342条)が設定され,それがXに差し入れられたものであるとの占有正権原の抗弁で反論することが考えられる。

 そこでの要件は,①被担保債権の存在,②質権設定契約の締結,③甲の引渡しである。

イ.本件についてみるに,被担保債権はXY間で2005年2月7日に200万円の返還約束の合意がなされ,同月8日に200万円が交付されたα債権である。弁済期の合意については,欠缺しているので民法591条以下の規定によって補充される(①充足)。そして,Yは上記金銭の返還約束の合意をした日に,高級腕時計甲をXに対して差し入れていることから,質権設定契約の合意があった旨が推認され(②充足),これによって甲もXに引き渡されている(③充足)。

ウ.これに対して,金銭消費貸借契約は要物契約であるから,当該契約が成立したのは金銭の交付があった2005年2月8日であり,2月7日時点では契約が成立していないので,質権設定契約時には被担保債権は存在しないとYから反論がなされることが考えられる。しかし,金銭消費貸借契約における要物性は緩和されており,抵当権設定登記実務においても必ずしも金銭の交付がなされてから抵当権の設定がなされているわけではない。一定程度の時間的前後関係があったとしても被担保債権は不存在とならないとしてよい。したがって,Yの主張は失当であり,Xの抗弁が認められる。

エ.譲渡担保による抗弁

⇒所有権構成ならば所有権喪失の抗弁が考えられ,担保権構成なら占有正権原の抗弁が考えられる。しかし,譲渡担保は債務者が手元に担保目的物を置いておくことに意味があるのであり,この構成で主張することはあまり考えられないと思われる。

 

3.XのYに対する請求(β債権について)

(1)請求の法的構成

XはYに対して,BのYに対する金銭消費貸借契約に基づく貸金返還請求権とそれを元本とする利息請求権,および債務不履行に基づく損害賠償請求権(遅延損害金)を訴訟物とする請求をたてていくこととなる。なお,後ろ2つは前1つに対する附帯請求である。

(2)請求原因

金銭消費貸借契約(民法587条)に基づく貸金返還請求権と利息請求権については1で概ね述べた。しかし,今回は利息について利息の天引きがなされている(利息制限法2条)。また,この貸金債権はBのYに対する債権をXが譲り受けたものであるから,債権譲渡(民法466条1項)の主張も必要となる。なお,元本の譲渡に伴って利息と損害金の債権も移転する。

 ここでの請求原因は以下のようになる。①BとYの間の100万円の返還約束の合意,②BからYへの80万円の交付,③BY間の利息天引きの合意,④弁済期の合意,⑤弁済期の到来,⑥遅延損害金の合意,⑦一定期間の経過,⑧AとBの間の金銭消費貸借契約の締結,⑨AからBへの⑧債権の贈与,⑩BのXに対する⑧の代物弁済として①~⑦で構成される債権である。

 (あてはめ省略)

(3)抗弁

ア.対抗要件の抗弁(民法467条1項)

イ.利息制限法違反の抗弁

 ⇒これについては,Yが主張しなかったとしても,利息制限法違反の利息請求を裁判所が認めることは公序に反する。したがって,利息制限法1条の規定を強行規定として,裁判所は職権で法的判断をすることができる。

以上