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Ⅲ-7.弁済者代位と共同抵当

Ⅲ-7.弁済者代位と共同抵当

1.B→Sに対する請求[1]

(1)事後求償権による請求

ア BはSに対して,委託を受けた委託保証人の事後求償権を行使していうことが考えられる。Bは,G1との間で,SのG1に対する債務を(連帯して)保証する旨の合意をしており,その保証債務の履行として,債権者G1に6000万円の弁済をしている。保証人は,保証債務の弁済その他の自己の債務消滅行為によって,主たる債務を満足させた場合,主たる債務者に対して,事後の求償権を取得する(民法459条1項)。

イ もっとも,本件では,SとBの間で,求償に関する特約が締結されている。すなわち,Bが弁済した場合,Sは1か月以内に利息年8%を付して弁済金相当額を支払うものとし,Sが期限を過ぎた場合,遅延損害金年16%も付すことになっていた。したがって,民法459条1項の修正として,この特約による事後求償権を行使しているものと考えるべきである。

ウ 求償特約に基づく求償権の成立要件は,①主たる債務の発生原因事実,②主たる債務に関する債権者と保証人との間での保証契約,③保証人が債権者に対して,保証契約の履行をしたこと,④保証人と主たる債務者の間での保証委託契約の締結,⑤求償特約の存在,である。本件で,Bは,具体的な事実として,①G1S間で,2004年2月1日に,5000万円の消費貸借契約(期間1年,利息年6%,遅延損害金年12%の合意)を締結したこと,②G1B間で,SのG1に対する債務を保証するとの合意,③Bが,G1に対して,保証債務の履行として,2006年4月2日に,6000万円を弁済したこと,④SB間で,保証委託契約を締結したこと,⑤SB間で求償特約(弁済金相当額,弁済期Bの弁済後1ヶ月,利息年8%,遅延損害金年16%)を締結したこと,を主張立証していくことになる。

エ よって,Bは,保証委託契約の求償特約に基づいて,Sに対して,6040万円(BがG1に保証債務の履行として弁済した額6000万円と,それに対する利息40万円(6000万円×0.08×1/12。厳密に言うと,利息の請求のために⑥2006年5月2日の経過も要件事実。)),および,内金6000万円に対する(求償特約のBのSに対する)弁済期日の翌日である2006年5月3日から支払済までの年16%の割合による遅延損害金,の請求ができる。

(2)原債権の求償権の範囲内での行使

ア 民法は,代位弁済者が取得した求償権の効力を確保するために,代位弁済の結果として客観的にその存在が失われたはずの原債権を特別に存続させ,代位弁済者がこの原債権を求償権の範囲内で行使することができるようにし,この原債権を担保する各種の担保も行使できる制度を設けた(民法499条~501条)。この制度により,債務者と債権者との関係では,代位弁済者の弁済により消滅した原債権は,債務者と代位弁済者との間では存続するものとして扱われ,原債権は,債務者と債権者間で相対的に消滅するにとどまる。そして,客観的にその存在を失ったはずの原債権は,求償権の効力を確保するために法律上当然に代位弁済者に移転し,その結果として,この原債権を担保する各種の担保も原債権に随伴して移転する。

 弁済による代位の効果として,代位弁済者は,「求償権の範囲内で」「原債権の効力」ならびに「原債権の担保として債権者が有していた一切の権利」を主張し,行使することができる(民法501条柱書)。

イ この弁済者代位の要件は,①原債権が存在していたこと,②原債権について,代位弁済者が弁済その他により,債権者に満足を与えたこと,③代位弁済者が債務者に対して求償権を有すること,および求償額,④弁済をするについて,正当の利益を有すること(法定代位[2]),または,債権者の承諾があること(任意代位)である。

ウ 本件では,①,②,③は,充足する。④について,500条は,弁済をするについて正当の利益を有する者は,弁済により「当然に」原債権に代位すると定めている(法定代位)。連帯保証人は,みずからも債務者が債権者に対して負担している債務(原債権)と,同一内容の債務を債権者に対して負担しているため,弁済をしなければ債権者から執行を受ける者であり,弁済をするについて正当の利益を有する者である。したがって,④も満たす。

 本件では,Bは,弁済により原債権に代位し,求償権の効力を確保するために,求償権の範囲内で,原債権を行使することができる。したがって,Bは,Sに対して原債権に代位して,6000万円,およびこれに対するBがG1に弁済した日の翌日である2006年4月3日から支払済まで年12%の遅延損害金を請求できる。

 

  1. 甲土地の抵当権実行

(1)Bとしては弁済者代位による原債権の行使として,それに付随する甲土地の抵当権を実行することが考えられる。ここで問題となるのは,その抵当権の実行より競売で,満足を受けることができるかである。

(2)ここでは,債務者からの第三取得者Dも,弁済をしないと自己の財産に執行をかけられるおそれがある正当な利益を有する者(500条)にあたり,法定代位権者である。そうすると,このように法定代位権者が競合する場合には,民法は,複数の法定代位権者のおかれた地位を保護することの必要性を考慮しつつ,求償の循環を避けるために,501条各号の規定によりこの問題の処理を図っている。

ここでは,保証人Bと,債務者からの第三取得者Dとの競合が問題となり,それは501条1号,2号が規定している。保証人が債権者に弁済した場合には,保証人は,原債権に代位して,第三取得者に対し原債権を行使することができるが,そのためには,保証人は「あらかじめ」抵当権の登記に代位の付記登記をしなければならない(501条1号)。ここで,501条1号が「あらかじめ」代位の付記登記を要求した趣旨は,保証人による弁済の後に登場した債務者からの第三取得者の保護にあると考える。すなわち,501条1号は,弁済以降に,担保権が消滅したものとして目的不動産を取得した第三者を保護するために,保証人は,弁済後第三取得者が現れるまでに付記登記をすることが必要だということを定めた規定だと理解する。

(3)では,保証人の弁済前に登場した債務者からの第三取得者についてはどのように考えるべきか。これについては,①保証人Bが,代位の付記登記をするには,まず弁済することが前提となる。弁済をしたからこそ代位ができ,登記ができるのであり,代位の付記登記は,弁済をするまではおよそすることができない。しかし,弁済する前に,第三取得者が登場する本件のようなケースでは,第三取得者Dが出てくるまでにBが付記登記するのは不可能である。501条1号は不可能を強いるものではなく,このようなケースを501条1号の適用範囲に含めるべきではない。②また,Bが弁済する前に甲土地を買い受けたDは,抵当権の負担のついた甲土地を覚悟して買い受けているので,債務者以外の者が弁済することで将来代位されて抵当権が実行されるということは,予期すべきであり,代位の付記登記で警告を与える必要はない。そもそも,このような弁済前に抵当権の負担のついた土地を取得した第三取得者は,弁済により抵当権が消滅したのではないかという期待や,もはや抵当権が実行されないという期待は有していないので,保証人の代位によって,不測の損害を被るとはいえない。③さらに,抵当権の負担のある不動産の第三取得者に対しては,対価弁済・抵当権消滅請求という,抵当権の負担を消滅させる制度があるのであり,それ以上に保護する必要はない,とも考えられる。

以上のような理由から,501条1号の「あらかじめ」代位の付記登記を必要とする場合を,保証人の弁済より後に,第三取得者が登場した(所有権移転登記)場面に限定的に解釈し,保証人の弁済前に第三取得者が登場した場合は,501条1号は適用されず,保証人は,代位の付記登記なしに,原債権に代位できる,と考えるべきである。

(4)本件では,保証人Bによる弁済は2006年4月2日であり,Dが債務者Sから甲土地の所有権移転を受けたのは,2005年10月10日であるため,Bは,Dに対して,代位の付記登記を要することなく,原債権に代位できる。結果として,Bは,G1の原債権に代位して,その担保である甲土地の抵当権を実行し,原債権(前述した6000万円と遅延損害金)の額の限度で,甲土地の競落価格から満足を得ることができる。

 

3.(a)について

(1)前段

ア G2はG1に代位して甲土地の抵当権の実行をするBに劣後するので,甲の売却額8000万円のうち,Bが6000万円を優先的に回収し,G2はその残額の2000万円を回収するにとどまる。したがって,G2にはいまだ3400万円の債権がのこっている。

イ このとき,G2が乙土地についての抵当権に基づいて競売を行った場合,G2は乙土地の競落代金4000万円から,3400万円を回収することになる。共同抵当には丙も入っているが,甲・乙は債務者のものである一方,丙は物上保証人所有のものであるから,乙丙間では負担の割り付けは行われない(民法392条参照)。負担を最終的に負うのは主たる債務者であるからである。判例も392条が適用されるのは,同一債務者に属する不動産が共同抵当になっている場合と,同一物上保証人に属する不動産が共同抵当になっている場合をいうとしている。したがって,丙への割り付けを考えずに,G2は乙から3400万円を回収することになる。

ウ この一方,Dは自己の所有する甲土地を失っており,それによってSの債務8000万円を消滅させているのであるから,Sに対して不当利得返還請求権を有し,その求償権の効力を確保するために,G1の6000万円の債権と,G2の2000万円の債権について代位できる法定代位権者である。他方で,乙土地の後順位抵当権者G3については,異時配当時における後順位抵当権者の一般的な利益として,同時配当がなされていれば共同抵当権者が不動産から弁済を受けていたはずの額の限度で,共同抵当権者の他の不動産上の抵当権に代位できる利益があるとされている。すなわち,本件ではG2の権利を代位行使することができる。

このような,本来的債務者が自己所有の2つの土地上に共同抵当を設定した後に,一方の不動産を譲渡し,他方の不動産に後順位抵当権を設定した場合,Dが乙土地上の抵当権を代位行使する利益と,後順位抵当権者G3がG2に代位して乙土地上の抵当権を行使する利益とが衝突する場面となり,債務者S所有甲土地の第三取得者Dと,債務者S所有乙土地の後順位抵当権者G3の関係はどうなるか,この点の規定が欠けているため,問題となる。

エ これについて,第三取得者の登場時期(所有権移転登記時)と,後順位抵当権者の登場時期(抵当権設定登記時)の先後で,392条の負担割り付けがなされる場合と,そうでない場合を分けて考えるべきである。

共同抵当権の目的たる不動産の一部が,先に第三取得者の所有に帰した場合に(第三取得者が先に登場した場合),債務者所有の不動産について後順位抵当権を取得しようとする者は,第三取得者の所有に帰した不動産はもはや共同抵当の負担を分担しないものと考えて担保価値を評価すべきであり,392条の適用をあてにすべきではない。

 一方,後順位抵当権者が先に登場した場合には,この後順位抵当権者は,抵当権設定段階ではその不動産の共同抵当権者に代位しうる者が存在しないものとして後順位抵当権の設定を受けているから,その期待を保護すべきであるとする(その後の処理としては,392条の適用があった上で,第三取得者が負担を割り付けられた残りの部分を取得するという考え方(第三取得者と後順位抵当権者の登場の先後で,392条の適用の有無を分ける考え方)と,その場合には後順位抵当権者が優先して,第三取得者は代位できないとする考え方(第三取得者と後順位抵当権者の登場の先後で,早い方が優先して全部回収できるとする考え方。)がある)。

オ 本件では,第三取得者Dが甲土地を取得して登記を備えたのは2005年10月10日であり,後順位抵当権者G3の抵当権設定登記は2005年11月11日であるので,Dが優先する。そして,5400万円を不動産甲・乙でどう割り付けるのかという問題については,先にDが登場している以上,負担は乙から先に割り付けられるから,G3は1円も回収できず,Dは600万円もらえるはずである。しかし,本件では,先に甲土地の抵当権が実行されている(異時配当)。したがって,Dは,G2に代位して,G2の乙土地に対する抵当権を代位行使することができ,乙土地の抵当権を実行した競落代金から,G2が優先的に3400万円を回収した後,その残余である600万円を,DはG3に優先して回収できることになり,G3は回収することができない。

 

(2)後段

ア G2が乙土地の第1順位抵当権を実行して,競売による配当がなされた場合,G2は,その競落代金4000万円を優先的に回収できる。そして,そのときのG2の残債権額は1400万円である。その後,G2が甲土地の抵当権を実行すると,Bが,G1のSに対する原債権に代位して,その担保である第1順位抵当権を行使できるので,甲土地の競売価格8000万円から,6000万円について優先的に回収する。そして,第2順位抵当権者のG2は,甲土地からは残りの1400万円を回収する。

イ このとき,上記で述べたように,G3には,392条2項適用はないので,G2の甲土地に対する抵当権への代位は認められず,600万円回収できず,Dが残余代金600万円を取得する。

 

3.(b)について

(1)G2が丙土地の抵当権を実行すると,その競売価格3000万円をG2が優先的に把握することになり,G2のSに対する残債権は400万円となる。そして,G2は残債権を回収するために,乙の抵当権を実行することが考えられる。

このとき,Dは債務者Sからの第三取得者であり,Eは物上保証人Aからの第三取得者であるから,それぞれ,甲土地,丙土地を競売にかけられたことによって債務者Sの債務を弁済しており,両者は,法定代位をすることができる法定代位権者である。そこで,債務者からの第三取得者と物上保証人からの第三取得者が競合することになり,その関係をどう処理するか問題となる。なお,物上保証人からの第三取得者は,これを物上保証人と同視できるものとしてみればよいから,ここでは債務者からの第三取得者と物上保証人の競合を問題は同じである。

(2)民法501条1号2号の趣旨からすれば,物上保証人は代位し,債務者からの第三取得者は代位できない,と考えられる。なぜなら,まず債務者所有不動産である乙土地に,負担全額が割り付けられるべきであり,負担の割り付けられていない丙土地を所有していた物上保証人Aの地位を引き継いだEが,負担の割り付けのある甲土地を所有していたSの地位を引き継いだDに優先して,Eは,Dに対して代位でき,Dは代位できない,と考えられるからである。つまり,同じ「第三取得者」と言っても,債務者からの第三取得者と,物上保証人からの第三取得者では,おのずから負担割り付けが違うから,優先関係・順位が違い,EがDに優先する,ということである。

(3)したがって,乙の抵当権が実行され競売が実施される場合,まずG2が残債権400万円を優先的に回収し,次にEがDに優先して,3000万円を回収することができ,残りの600万円については,G3とDの優先関係の問題となるが,DとG3との関係はDが優先することは前述の通りなので,Dは残りの600万円の満足を受けることになる。

 

4.(c)について

(1)(ア)について

ア Cの弁済により,AとCが1700万円ずつの負担部分で連帯保証していた保証債務が消滅したということで,CはAに対して保証人間の求償権を行使して,Aの負担部分である1700万円を求償できる(民法465条1項,442条)。

イ また,Cは,Sに対して,保証人の主債務者に対する事後求償権3400万円を有している(459条1項)。このCのSに対する求償権を確保するために,G2のSに対する原債権に代位して,その人的担保である連帯保証人Aに保証債務の履行を請求でき,またその物的担保であるE所有の丙土地の抵当権を実行することにより競売代金から回収できる。

 しかし,連帯保証人Aも,(物上保証人としての地位をAから引き継いだ)物上保証人からの第三取得者Eも,法定代位権者であることから,CがSに対して有している求償権を確保するために法定移転してきた原債権3400万円のうち,いくらの限度で,AやEに対して代位していくことができるかが問題になる。

ウ これについては,501条5号がルールを定めている。すなわち,保証人と物上保証人との間においては,その頭数に応じて,他の者によって原債権に代位される。そして,頭数の算定基準時が,代位弁済時とされていることから,Cが弁済した時点では,AからEに丙の所有権が移転しているので,頭数は,C・A・Eの3人である。

エ したがって,Cは,Aに対して,約1133万円の限度で保証債権に代位でき,約1133万円の保証債務の履行を請求でき,Cは,Eの丙土地の抵当権を実行することにより,その競落代金から約1133万円を回収することができる。

 

(2)(イ)について

 CとG3については,法定代位権者同士での利益の競合があるが,債務者の不動産への割当は先であるから,CがG3に優先する。

以上

 

 

[1]以下のように,Bには,求償権と原債権という2つの債権の行使の可能性がある。両者は,別個独立した債権であり,権利の行使について,どちらを先に行使しなければならないという制約はない。もっとも,どちらも金銭債権だと,代位弁済者にとって原債権を行使することにあまり意味はない(通常は,求償特約により,求償権の額の方が大きいことの方が多い)。にもかかわらず,弁済による代位の制度を利用する利点は,原債権に担保権がついていることにある。弁済による代位によって行使できる担保権は,求償権ではなく,あくまで原債権を担保するものであるからである。

 本件のように,求償特約により,求償権について原債権より遅延損害金について高い利率を定め,求償権の額が原債権の額より大きくなったとして,第三取得者(本件ではD)に影響ないのか,という問題も生じない。弁済による代位の制度が,求償特約の効果について第三者におよそ影響を及ぼさない仕組みになっているからである。すなわち,両者は別個独立の債権であり,担保権も原債権を担保しているにすぎない。そして,代位弁済者は,求償権の範囲でしか原債権を行使できないため,抵当権が実行された場合も原債権の範囲で優先弁済を受けるにすぎない。つまり,いくら特約で求償権の額を膨らませても,行使できる原債権の範囲には何の影響もないから,求償特約は当事者間で自由に決めても完全に有効である。

 

[2]法定代位にいう正当な利益を有するとは,①弁済をしなければ債権者から執行を受ける者,②弁済をしなければ債務者に対する自己の権利が価値を失う者をいう。