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103.補助参加の利益

民事訴訟判例百選103事件-補助参加の利益

-東京高裁平成20年4月30日決定-

1.事案の概要

 訴外Aは,沖縄でレンタカーを借りる際,Y損害保険会社との間で,Yを保険者,訴外Pリース会社を保険契約者,Aを被保険者とする「搭乗者傷害保険契約」を締結した。しかし,Aは訴外Bの運転する同車に同乗中,同車が漁港内海に転落水没したことによって死亡した。そこで,Aの相続人であるXらはYを相手取り,前記契約に基づき,死亡事故の保険金の支払いを請求した。しかし,Yは運転経緯でBの意思でA共々海に突っ込んだと考えられ,「事故の偶発性」要件が欠けると主張し,これを争った(以下,「基本事件」という)。

 Yは,本件事件において,Aを被保険者とする普通傷害保険契約および交通傷害保険契約(以下,「本件保険契約」という。)の保険者であるZ損保会社に訴訟告知をし,Zは補助参加の申出をした。Zでも上記と同様にXらとの間で「事故の偶発性」要件が争いになっていたためである。これに対して,Xが異議を述べた。

 第一審では,Zの参加の理由の疎明を容れて,Z社の補助参加を認めたが,Xはこの決定を不服として即時抗告した。

2.決定要旨

 原決定取消し。補助参加の申出を許さない。

民事訴訟法42条の補助参加申出に対し補助参加が許されるのは,申出人が訴訟の結果につき法律上の利害関係を有する場合に限られ,法律上の利害関係を有する場合とは,当該訴訟の判決が参加申出人の私法上又は公法上の法的地位又は法的利益に影響を及ぼす虞がある場合をいうものと解される。」

「しかし,一審被告と抗告人らとの間の基本事件保険契約による法律関係と,補助参加申出人と抗告人らとの間の本件保険契約による法律関係とは,同一被保険者につき死亡を原因とする保険金を給付する同種の保険契約関係というにすぎないのであり,相互に損害を補てんしあう関係にある旨の主張立証はないから,何ら法的関連や関係がない。基本事件において,争点である被保険者であるAに生じた本件事故が偶然な外来の事故に当たるか否かが決せられたとしても,補助参加申出人と抗告人Xとの間で,本件事故によるAの死亡についての保険金支払い義務の存否につき法律上何ら影響するものではなく,補助参加申出人の私法上又は公法上の法的地位又は法的利益に何ら影響することはない。ただ,同一争点に対する判断として,これが参考にされ,事実上影響することがあるというにすぎないのであり,このような影響を与える関係を法律上の利害関係ということはできない。」

※ほか参加的効力が生じないことからも,補助参加の利益,すなわち法律上の利害関係がないことを判示もしているが割愛。

3.検討

(1)補助参加の要件としての「補助参加の利益」

 法42条は補助参加できる場合として,補助参加しようとする第三者が「訴訟の結果について利害関係を有する」ことを要件としている。これは当事者の異議があっても第三者に補助参加を許すための要件であり,異議が出ない場合には問題とならない(法44条1項参照)。

(2)要件の具体的内容

 では,この要件は具体的にどのようなものなのか。

①「利害関係」について

まず,「利害関係」とは,法律上のものでなければならず,事実上のものでは足りないとされる。決定要旨も「法律上の利害関係」を要求しており,これは一連の最高裁判例[1]でも同一の判示がなされている。調査官解説[2]でも,「補助参加制度は,当事者以外の者が訴訟に参加して当事者の一方を補助する訴訟活動をすることによって被参加人に有利な判決を得させることを助け,併せて被参加人に対し敗訴判決がされることによって補助参加人の私法上又は公法上の法的地位又は法的利益に事実上の不利益な影響を受けることを防止することを目的とするものである」としていることから,①法的地位ないし利益に対する事実上の影響をポイントとするものと考えられる[3]

②「訴訟の結果」について

ア 訴訟物限定説

次に,「訴訟の結果」とは何かであるが,これについて訴訟物についての判断,つまり判決主文と捉える見解がある(訴訟物限定説)。これは訴訟物たる権利関係に関する判断が,実体法上,参加申出人と一方当事者との間の権利関係の論理的前提にあるといえる場合にのみ訴訟の結果について利害関係を認める立場である[4]。したがって,これによれば,判決理由中の判断に利害関係があるのみでは補助参加の利益があるとは言えないということになる。

イ 訴訟物非限定説

訴訟物に限定しないで,判決理由中の判断について利害関係を有する場合を含むとする見解である(訴訟物非限定説)。そのうち一つは「その訴訟の主要な争点についての判断を前提にして参加人の権利義務その他法的地位が決められる関係にあることから,被参加人の受ける判決の判断によって参加人の法的地位が事実上不利な影響をうけるおそれがある関係」と定式化する。これは判決効における争点効の議論をにらんだ捉え方だと思われる[5]。訴訟物非限定説であっても判決理由中の判断を無制限に「訴訟の結果」というわけではない。このような観点から判決主文の判断を導くのに必要な事項についての判断を「訴訟の結果」として捉える見解もある。

ウ 訴訟物限定説からの理由づけ

兼子博士は判決理由中についての判断は当事者も拘束されないのであるから,それに第三者が拘束される理由もないとして,判決理由中の判断を「訴訟の結果」とすることを忌避し,訴訟物限定説を採る。しかし,第三者は判決主文の判断についても拘束されない以上,これは明確な理由とはなっていない。ここから「訴訟の結果」について,主文と理由で区別する合理的な理由はないとして訴訟物非限定説を採用する見解もある。これに対して,訴訟物限定説を採用する見解は,「訴訟では,主観的事項としては当事者,客観的事項としては訴訟物が,それぞれ本質的で主たる構成要素であるので,当事者が異議を述べているにもかかわらず従たる主体である参加申出人が訴訟に関与できる要件としては,訴訟物という本質的要素と利害関係があることをあげることが訴訟の基本構造との関係で整合的であるし,関与者の範囲を合理的に画するための基準ないし歯止めになるように思われる。」「また,訴訟物に利害関係のない者が上訴や再審の訴えの提起といった処分権主義の発露となる行為ができる(民訴法45条1項)と解することには疑問がある」と説明する[6]。なお,平成13年2月22日も一般論として訴訟物限定説に親和的な判断を示している。

エ 訴訟物非限定説を採用する最高裁決定の登場

 取締役会の意思決定の違法性が問題となる場合に,会社が被告取締役側に補助参加できるとした決定[7]が出た。この決定要旨とこの多数意見に対する町田反対意見を読む限りでは,最高裁は非限定説を採用したと読むのが素直である。判旨は以下のとおりである。(以下,X:株主,Y:取締役,Z:会社とする。)

「取締役会の意思決定が違法であるとして取締役に対し提起された株主代表訴訟において,株式会社は,特段の事情がない限り,取締役を補助するため訴訟に参加することが許されると解するのが相当である。けだし,取締役の個人的な権限逸脱行為ではなく,取締役会の意思決定の違法を原因とする,株式会社の取締役に対する損害賠償請求が認められれば,その取締役会の意思決定を前提として形成された株式会社の私法上又は公法上の法的地位又は法的利益に影響を及ぼすおそれがあるというべきであり,株式会社は取締役の敗訴を防ぐことに法律上の利害関係を有するということができるからである。そして,株式会社が株主代表訴訟につき中立的立場を採るか補助参加をするかはそれ自体が取締役の責任にかかわる経営判断の一つであることからすると,補助参加を認められたからと言って,株主の利益を害するような補助参加がされ,それによる著しい訴訟の遅延や複雑化を招くおそれはなく,また,会社側からの訴訟資料,証拠資料の提出が期待され,その結果として審理の充実が図られる利点も認められる。」「本件は,Zの第48期及び第49期の各決算においてYらが忠実義務に違反して粉飾決算を指示し又は粉飾の存在を見逃したことを原因とするZのYらに対する損害賠償請求権を訴訟物とするものであるところ,決算に関する計算書類は取締役会の承認を受ける必要があるから,本件請求は,取締役会の意思決定が違法であるとして提起された株主代表訴訟である。そして,上記損害賠償請求権が認められてYらが敗訴した場合には,Zの第48期以降の各期の計算関係に影響を及ぼし,現在または将来の取引関係にも影響を及ぼす虞があることが推認されるのであって,Zの補助参加を否定すべき特段の事情はうかがわれない」(注:下線筆者)

 この決定の多数意見に対する町田反対意見は以下のとおりである。

「本件請求は取締役会の意思決定が違法であるとして提起された株主代表訴訟であるから抗告人の取締役らに対する補助参加が許されるとするが,本件本案訴訟において審判の対象となるのは,上記のとおり,取締役らの行動が取締役の負う忠実義務に違反するかどうかであって,その行動が取締役会の意思決定の際のものであっても,その意思決定そのものの適否や効力が審判の対象となるものではない。確かに,本件請求のように粉飾決算を指示し,又は粉飾の事実を見逃したことを忠実義務違反の理由とする場合には,粉飾決算の有無が判断されることとなるが,それは取締役個人の忠実義務違反の存否を確定するために判断されるものであって,抗告人がその判断に利害関係を有するとしても,それは事実上のものにとどまり,補助参加の要件としての法律上の利害関係に当たるものと解することはできない。したがって,この意味からも本件補助参加は、許されない。」「多数意見は,また,本件補助参加を認めることにより抗告人からの訴訟資料等の提出が期待できるともいうが,本案訴訟の被告である取締役らのうちには,抗告人の代表者も含まれていることよりすれば,補助参加を認めなければ適切な訴訟資料等の提出が期待できないとも考えられない。」「本件抗告は棄却すべきである。」(下線筆者)

 以上からすると,最高裁は訴訟物非限定説を採用したかのように読める。しかし,これに対する訴訟物限定説からの判例の読み方についての反論もあり[8],先にあげた本決定後の平成13年2月22日が訴訟物限定説と親和的なこともあって,最高裁の明確な立場は明らかではない。

オ 答案でどうするか

 この「訴訟の結果」が何を意味するのかについては最高裁の明確な判断がなく,学説も通説が定まっていない[9]。したがって,「訴訟の結果」とは②-1訴訟物すなわち主文についての判断を言うとする見解,②-2訴訟物すなわち主文についての判断のみならず判決理由中の判断にまで及ぶとする見解,いずれもあり得ると思われる。自身の立場からの立論が必要だろう。

(3)本判決の評価

 本判決は,「事故の偶発性」という保険金支払請求権の要件判断についてY,Zに補助参加の利益が認められるかが問題となり,これを否定したものである。「事故の偶発性」自体は訴訟物の存否を判断するための要件であるが,訴訟物そのものではないことから訴訟物限定説に親和的な判断だと思われる。

 

[1]最判昭和39年1月23日集民71号271頁,最決平成13年1月30日民集55巻1号30頁参照。

[2]高部眞規子『最高裁判例解説民事編平成13年度(上)』55頁以下。

[3]法律上の影響が生じるような場合,それは判決効が及ぶような場合であると思われるが,そのときは共同訴訟参加が可能であると思われるので,補助参加はそれに至らない影響として事実上のもので足りるとされたと考えられる。

[4]三木=笠井=垣内=菱田『LEGAL QUEST民事訴訟法』549頁参照。

[5]高橋宏志『重点講義民事訴訟法(下)〔第2版〕』432頁以下。

[6]笠井正俊「補助参加の利益に関する覚書」『井上治典先生追悼論文集・民事紛争と手続理論の現在』215頁参照。

[7]前掲1平成13年決定・会社法判例百選〔第2版〕70事件(笠井正俊解説)参照。

[8]前掲7解説参照。

[9]重点講義は訴訟物限定説を通説,百選解説は訴訟物非限定説を通説,LEGAL QUESTは訴訟物非限定説を多数説としていた。