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Ⅰ-13.契約関係と不当利得

Ⅰ-13 契約関係と不当利得

1.XのYに対する所有権に基づく生コンクリート1000㎥(以下,「生コン」とする)返還請求

(1)請求原因

 XはYに対して,生コンの所有権に基づく物権的請求として,生コンの返還を請求することが考えられる。所有権に基づく物権的請求権とは,所有権を害する占有を除去し,回復することが不文法によって認められていることによる。そうすると,請求原因は①Xの生コンもと所有,②Yの生コン現占有である。

 本件において,①生コンはXのもと所有であったことは認められるが,②本件で生コンは加工(民法246条)により甲に付合しており,Yが占有しているとは言えないため,②は認められない。

 したがって,Xの請求は認められない。

 

※仮に現占有が認められた場合は

(2)抗弁

 所有権喪失の抗弁としての,XY生コン売買契約の締結

(3)再抗弁

 売買契約に意思表示の瑕疵等

 

2.XのYに対する生コンの価値相当額の不当利得返還請求

(1)請求原因

 XはYに対して,不当利得に基づき生コンを返還するよう請求することが考えられる。ここで不当利得返還制度の趣旨の考え方によって,その要件等が異なるのでこの点を先に検討したい。元来,不当利得制度とは,形式的・一般的には正当視される財産的価値の移転が,実質的・相対的には正当視されない場合に衡平の原理に従って調整する原理として考えられてきた(衡平説)。これによると不当利得制度は他の法制度によって解決できない場合(補充性)に限って,その適用があり,原則形態を民法704条が定めているものとされる。しかし,これに対しては,そもそも衡平説は物権行為の無因性が認められている場面を想定しており,物権行為の無因性を認めない我が国の民法ではその妥当性に疑問があるとする批判が当てはまる。そこで,不当利得制度においては,法律上の原因のない利得というのがどういう場面から生じたかという点に重きをおいて,問題となる場面を財貨移転,財貨帰属,負担帰属等に分け,それぞれの法秩序によって法律上の原因が法的に承認されない場合をそれぞれの法秩序に照らして類型的に解釈すべきであると考える(類型論)。

 そのように不当利得制度の趣旨を解すると,このような給付の巻き戻しの場面は給付利得としてその請求原因を考察する必要がある。そうすると,ここでの請求原因は①財産的利益の移動としてのa.給付の原因,b.給付の事実,②法律上の原因の不存在である。もっとも,本件は生コンそれ自体ではなく,その価値相当分の返還請求であるから,その③価値保障を基礎づける事実としてa.給付目的物の返還不能,b.給付の価額も必要となる。

 本件において,①はXYの生コン売買契約締結(法555条,法176条)とそれに基づく引渡しで基礎づけられ,②はKによるXの強迫(民法96条3項)の事実を指摘した上での取消しの意思表示,もしくはそれが公序良俗違反(民法90条)に当たるとして無効であるということを主張立証することにより基礎づけられる。また,③は生コンの価額は1500万円ほどであり,それは加工により滅失したことを主張立証すればよい。

 したがって,請求原因は認められる。

(2)抗弁

 YはXに対して,相殺(民法505条)の抗弁を主張することが考えられる。ここでは,XY間の生コン売買契約が無効,取消しにより,YはXに対して生コンの売買代金相当額の不当利得返還請求権を有しており,これを自働債権として,上記請求と相殺することが考えられる。そしてその要件事実は①XからYに対する請求原因①a.に基づく売買代金の交付と②相殺の意思表示である。

 本件において,YはXに対して生コンの売買契約に基づいて代金300万円を交付しており,①をみたすことから,YはXに相殺の意思表示をすれば,②もみたす。

 そうすると,YはXの1500万円の請求において,300万円の限度で相殺の抗弁が認められる。

 

3.XのZに対する償金支払請求

(1)請求原因

 XはZに対して,Yが加工によってX所有にかかる生コンを使って甲を建築し,その甲の所有権をZが取得したことから,民法248条に基づき償金支払債務を負担したとして,償金支払請求を行うことが考えられる。

 ここで検討を要するのは,生コンの所有権自体は加工により消滅しているが,Zに利得はあるのかという点である。この点について,生コンの所有権自体は滅失したとしても,その価値所有権自体はなお残存し,物権に準じた保護を受けると考えられる。そうすると,その価値所有権は甲に伴っており,それをZが法律上の原因なくこれを保持しているのであるから,この価値所有権相当額を利得として償金を請求することができると解すべきである。

 これに対して,248条の償金請求権は,添付の規定により所有権を失った者がそれにより所有権を取得した者に対しその代償として得られる債権であるとして,この権利は添付時の当事者間においてしか認められず,Zに対してこれを主張することはできないとする見解もある。これは旧当事者間(XY間)の関係を知らない第三者がその負担を負うとするのは取引の安全を害すると考えることによる。しかし,実際に生コンの価値所有権による利得がある以上は,それを保持する原因を欠くのにもかかわらず,なんら請求をできないとするのは,不当利得制度の趣旨に悖る。よって,上記のように償金請求を認めるべきである。

 ここまでを整理すると請求原因は以下のようになる。すなわち,①Xの生コンもと所有,②Y加工によるX生コン所有権の喪失とYによる加工物甲の所有権取得として,a.Yが材料の一部を提供して生コンを加工したこと,b.加工分の価額が材料価格を上回ること,③Zによる生コンの所有権相当物としての甲取得として,a.YZ間の請負契約締結,b.仕事の完成,c.a.に基づく甲の引渡しである。

 ③は,請負契約によって加工された生コンの価値所有権が伴った甲の所有権が誰に帰属しているかの問題であり,法246条2項の趣旨に鑑みれば,それは原則として請負人に帰属し,その契約の履行としての引き渡しにより注文者に移転すると考えられるため,上記のようになった。

 しかし,これだけでは,請求原因を基礎づけているとは言えない。なぜなら,この後Zによる抗弁として,Xの甲の価値所有権喪失の抗弁としてXY間生コン売買契約が,それに対するXの再抗弁としてXY売買契約の強迫取消しが考えられるが,①,②によってYの生コンの価値所有権について無権利であること,③a.によってその移転を目的とする取引行為が行われたこと,③cにより生コンを添付した建物甲がYからZに引き渡されたことが基礎づけられ,民法186条,188条を踏まえると,Zの即時取得(民法192条)が基礎づけられることになってしまい,請求原因が主張自体失当となってしまうからである。

 そこで,④Zの即時取得不成立を基礎づけるべく,Zの悪意または過失を主張・立証する必要がある。ここでの悪意とはZがXの生コンもと所有を知っていたことであり,過失とはZがZの生コンもと所有を知らなかったことに過失があったことを言う。

 本件において,①Xは生コンをもと所有していたと言え,②Yはその生コンに対して,材料を提供して加工をして甲を建築しており(設問記載の事実からどの程度認定できるかは保留),③YZは甲建築の請負契約を締結して,Yそれを完成させて,Zに契約に基づき甲を引き渡している。しかし,ZはXの生コンもと所有について悪意・過失がないことから,④はみたされない。

 したがって,XからZに対する生コン価値相当額の償金支払請求は認められない。

 

4.XからYに対する所有権に基づく返還請求

(1)請求原因

 ①Xの乙もと所有

 ②Yの乙現占有

(2)抗弁

 ①XY間売買契約

(3)再抗弁

 ①強迫取消しor公序良俗違反

 

5.XからYに対する乙の不当利得返還請求

(1)請求原因

 ①財産的利益の移動

  a.給付の原因

  b.給付の事実

 ②法律上の原因の不存在

 

6.XからYに対する乙の賃料相当額の不当利得返還請求

(1)請求原因

 XはYに対して,乙の賃料相当額はその利得を保持する原因を欠くため,不当利得として請求していくことが考えられる。ここで不当利得の趣旨を上記のように考えると,この場面では2つの請求のたて方が考えられる。

 一つは,侵害利得による構成であり,そこでの請求原因は①財産的利益の移動としてのa.Xの乙もと所有,b.Y乙占有中の果実の取得,②民法189条に基づく善意の占有者の果実収取権の不存在としてのY占有権限の不存在について悪意である(なお,本訴提起による悪意擬制もある)。

 もう一つは,給付利得による構成であり,そこでの請求原因は①財産的利益の移動としてのa.給付の原因,b.給付の事実,②法律上の原因の不存在である。

 本件についてみると,まず前者については,①a.Xは乙をもと所有しており,b.Yは2000年10月1日に乙の引渡しを受けて占有を開始し,現在時点までその占有を続けていることから,その期間分の通常の賃料額が発生しているといえる。そして,②Yは乙がXのもと所有であることを知っていたから悪意である。したがって,請求原因は認められる。

 これに対しては,売買契約による所有権喪失の抗弁がなりたち,この抗弁に対する再抗弁として,売買契約が強迫により取り消された等が考えられる。しかし,この場合,Yは売買契約によって乙に適法な占有権限があると考えるのが普通であり,単にXが乙をもと所有していただけでは,占有権限について悪意とは言えない。そうすると,抗弁で売買契約の締結が考えられる以上は,これを想定して請求原因における悪意として,Xもと所有と売買契約の無効・取消し原因について悪意を主張しなければ主張自体失当となるものと考えられる。

本件でYがKの強迫等について悪意であれば,上記悪意も認められ,請求原因が認められる。

 一方,後者による場合は,①a.としてXY間の乙売買契約の締結,b.として,XY間乙売買契約に基づく乙の引渡しとその後一定期間の乙の占有によって生じた通常の賃料相当額が認められ,②XY間の契約はKの強迫ないし公序良俗により,無効・取消されるため,法律上の原因が不存在といえる。

 したがって,請求原因が認められる。

(2)抗弁

 相殺の抗弁

 (省略)

 

 

7.GのXに対する貸金返還請求権

(1)請求原因

 GはXに対する貸金返還請求権に基づいて3000万円の返還を求めることが考えられる。ここではGX間の金銭消費貸借契約(民法587条)に基づく請求が考えられ,かかる契約は要物契約,かつ貸借型の契約であることから,その請求原因は①金銭消費貸借の成立と②その終了であり,①はa.XG間の目的物返還の合意,b.指図者Xから被指図者Gへの指図とそれに基づく目的物の指図受益者Yへの交付,②は返還時期の合意とその到来によって基礎づけられる。かような構成になるのは,まず金銭消費貸借契約は目的物を一定期間使わせることを目的としていることから,契約の成立によってすぐ目的物の返還を求めることはできないためである。目的物の返還を求めることができるのは契約の終了時であり,これは返還債務の履行期とその到来によって生じるといえることから,上記の①と②のようになる。また,本件のGX間の消費貸借契約は諾成的消費貸借契約であり,そこにはGのXに3000万円を貸す債務が生じるといえる。そうすると,この場合においては,不文法により,被指図者が指図者に債務を負うときに,指図者が被指図者に対し,その債務の給付を指図受益者に行うことを指示し,被指図者がそれに従って指図受益者に所定の給付をしたときは,指図者に対する被指図者の債務は弁済されたものとされる。そうすると,GがYに対してXの指図に従って給付をしたことが,Xに対する貸す債務の弁済と法的に評価できるのである。それによって,GX間の金銭消費貸借契約が成立する。

 これについて本件を見るに,①a.XとGは貸金3000万円の返還の合意をしており,b.XはGにYに対して貸金3000万円を支払うよう指示して,Gはそれに従ってYに貸金3000万円を交付している。一方,この金銭消費貸借契約は②a.弁済を2001年6月1日と定めており,b.その日は到来している。したがって,請求原因をみたす。

(2)抗弁

 Xはこれに対して,GX間の金銭消費貸借契約は第三者Kの強迫に基づくXの意思表示よって締結されたものであることから取り消す(民法96条1項)という主張をすることが考えられる。そこでの要件は①取消し原因としてのa.脅迫行為,b.畏怖の惹起,c.畏怖と意思表示の因果関係,②取消しの意思表示である。

 本件において,①のa,b,cが認められ,XはGに対して,②取消しの意思表示を行えば,抗弁が成立し,Gの本件請求は認められないこととなる。

 

8.GのXに対する不当利得返還請求

a)衡平説による説明

GはXに対して,GのYに対する給付によって,Xが利得を得ているとして,その貸付金相当額を不当利得として返還請求していくことが考えられる。ここでは不当利得制度をどのように考えるかについて,以下の議論の展開が分かれるため言及する。すなわち,不当利得は一般的・形式的には正当視される財産的価値の移転が,相対的・実質的には正当視されない場合に衡平の理念にしたがってその矛盾を調整・解消する原理だととらえる見解がある(衡平説)。これによれば,上記の不当利得の請求原因は民法704条を原則形態として,①財産的価値の移転における受益としてa.XG間の金銭消費貸借契約の締結,b.Xの指図による目的物の引渡し,損失としてc.Xの指図に従ったGの振込み,因果関係としてd.Xの受益とGの損失の因果関係,②法律上の原因の不存在として,KからXへの強迫による取消しが必要となる。

 このように請求原因の要件事実が整理される理由は,まず,このような指図に基づいて給付された場合,XY間においては事実上ないし法律上の関係として,たとえば,XはYに対する債務を負っているのが通常であり,これによってXはYへの債務を免れたとして利得があるといえる。また,このようなXY間の関係について,Gは善意であるのが通常であるから,これをGの立証の負担とするのは妥当でない。さらに,GからYへの給付は実質的に見れば,GからXへの給付が行われたのと同じなので,その両者の衡平の観点から別異に解する理由もないといえる。

 したがって,上記のように請求原因が整理され,抗弁としては上記のようなXの受益を否定するものとしてXY間の事前の関係等の不存在が考えられる。

b)衡平説に対する批判

しかし,衡平説による不当利得の説明は妥当でない。なぜなら,衡平説はドイツにおける物権変動の無因性によってその調節を図るために採用された理論であり,物権変動の有因性を認める我が国の民法典においては妥当するか疑問が大きく,また,衡平自体はそれ自体判断基準として機能していないからである。そこで,やはり,不当利得制度においては,法律上の原因のない利得というのがどういう場面から生じたかという点に重きをおいて,問題となる場面を財貨移転,財貨帰属,負担帰属等に分け,それぞれの法秩序によって法律上の原因が法的に承認されない場合をそれぞれの法秩序に照らして類型的に解釈すべきであると考える(類型論)。

 そうすると,XGY間の上記三者間の関係については2つの不当利得の説明が考えられる。一つは給付利得による説明,もう一つは求償利得による説明である。以下,それぞれについて検討する。

c)給付利得による説明

 上記で述べた様なGのYに対する給付は,GのXに対する給付と同視しうるものであるという点。ここからはGY間の出損によってXがその価額に相当する利益を受けたものとして考えていることが読みとれる。すなわち,ここではGのYに対する出損の結果をXY間の原因関係の清算過程に組み込んで,Yの獲得した利益をXからGに返還させることができるかという観点から考察する必要がある。そこで考えられる給付利得に基づく不当利得の請求原因の構成は,①GからXへの財産的価値の移動があったこと,②それに法律上の原因がなかったこととなる。そして,①の中身がここで考察すべき対象となる。本件ではXからGへ指図があったことに注目して検討することが肝要かと思われる。すなわち,GからXへの財産的価値の移動は,GX間の金銭消費貸借契約の締結において,目的物返還の合意があり,その交付に当たってはXがGに指示をして,Yにその貸金を支払うよういい,Gがそれに従ってYに同貸金を交付したということが言えればよい。

 本件では①の事実が認められるのは,上記7(1)から明らかであり,②についても強迫に基づく取消しが認められれば,請求原因が認められる。

 これに対する抗弁としては,Xの広義の帰責性不存在の抗弁が考えられる。これはYへの給付はXG間の基礎的契約関係に基礎づけられるものであるから,XにこのGからYへの出損の広義の帰責性を問えない場合においては,XG間における履行関連性を問題とできず,この場合は直接にYへの不当利得返還請求が認められるべきと考えられるからである。

 この場合,抗弁としてはア)GX間の原因関係の偽造,イ)Xの自己決定権の実質的剥奪,ウ)Xの制限行為能力などが考えられる。

 また,指図に瑕疵があった場合,それを取り消すことで,Xの受益を基礎づけるGからYへの給付が,XのYに対する債務の弁済として適法なものと言えなくなるので,Xへの給付の事実が否定される抗弁となる。すなわち,ここではXからGへの指図の意思表示を強迫(民法96条1項)によって取り消すべく,①取消し原因としてa.強迫行為,b.畏怖,c.畏怖と意思表示の因果関係,②取消しの意思表示をXはGに対して主張・立証すればよい。

d)求償利得による説明

 一方で,GのYに対する給付は,XのYに対する債務を弁済したものという構造として捉えれば,これはGのYへの弁済によって,本来XがYに弁済すべきであって分の利益を受けているとして,求償利得の問題として構成できる。

 そこでの請求原因の要件としては,①Xの債務発生原因として,XY間の諾成的消費貸借契約(民法587条参照)をKがYの代理人として締結したこと,すなわち,a.KXの目的物返還の合意,b.KからXに対する顕名,c.a.に先立つYからKへの代理権授与と,②Gが①のXの債務を弁済したこととして,a.XからGへ指図があったこと,b.Gがその指図に従って給付をしたことが必要となる。

 本件では,①のcの事実について疑いが残るため,この構成では請求原因が認められない。

仮に,請求原因が認められた場合には,抗弁として,XY間の諾成的消費貸借がKの強迫により取り消されたことが考えられる。これはXY間の金銭消費貸借契約が取り消されることで,GのYに対する給付は弁済として意味を持たず,この場合はXに利得がないからである。

 その場合の要件としては,XY間の金銭消費貸借契約の取消しなので,①取消し原因として,a.KからXへの強迫行為,b.Xの畏怖,c.Xの畏怖とXの意思表示の因果関係,②XからYに対する取消しの意思表示となる。

 

9.XのYに対する不当利得返還請求権

(1)請求原因

 前提として,XはYに対して,金銭消費貸借契約に基づく貸金の返還請求をしていくことがまず考えられる。この場合の請求原因は,①KX間の目的物返還の合意,②KのXに対する顕名,③①に先立つYからKへの代理権授与,④XからYへの催告,⑤催告後相当期間の経過(民法591条1項)である。しかし,この請求原因はYによるKの強迫による取消しの抗弁によって退けられる。

もっとも,これによって,XY間の金銭消費貸借契約が取り消され他契約関係の巻き戻しとして給付利得が観念できる。そこでの請求原因は①財産的価値の移動として.XY間の金銭消費貸借契約の締結a.KX間代理行為(ア.XK目的物返還の合意,イ.XからGへの指示,ウ.GからYの指示に従い振込み),b.KからXへの顕名,c.a.に先立ってYからKへの代理権授与,②法律上の原因の不存在として,XY間の契約のK強迫による取消しである。

しかし,上記で述べた様に本件では,XがYのKに対する代理権授与等を立証するのは難しい。そうすると,請求原因を立証できずに請求棄却となってしまうのであろうか。

この点について,契約関係もないのにXがYに利得させる行為は典型的な給付利得における非債弁済(民法705条参照)にあたる。そうすると,ここでの請求原因は①財産的価値の移動としてのa.給付の原因とその不存在(②と重なる),b.給付の事実(ア.XからGへの指示,イ.GからYへの指示に基づく振込み),②法律上の原因の不存在としてのXY間の金銭消費貸借契約不成立である。

本件では,上記のXY間の金銭消費貸借契約が不成立であれば,これに基づく非債弁済の請求原因が認められることとなる。

 

10.GのYに対する不当利得返還請求権

(1)請求原因

 GはYに対して給付利得における非債弁済に基づく不当利得返還請求を行っていくことが考えられる。すなわち,GからYに給付が行われ,それはXG間の金銭消費貸借契約に基づくものであったが,かかるXG間の金銭消費貸借契約が取り消されたことにより,法律上の原因を欠くことになったというものである。

 そこでは①財産的価値の移転としてGからYへの給付(XG間の金銭消費貸借契約の締結,同上),②法律上の原因の不存在としてのKの強迫による取消しである(同上)。

 本件では①も②もみたすとしてよい。

(2)抗弁

ア)法律上の原因の存在

 上記に対してYはGからの給付を保持する権原がある,すなわちXY間の金銭消費貸借契約の貸す債務の弁済として利得したものであるという法律上の原因が存在するとの抗弁を主張することが考えられる。

 その場合の要件は①XY間の金銭消費貸借契約の締結として,a.KXの目的物返還の合意,b.KからXへの顕名,c.a.に先立つYからKへの代理権授与である。

 本件では,c.について存否に疑いがある。

イ)利得消滅の抗弁

 YはGの給付にかかる金員はTに対する手形金として支払ってしまい,利得が消滅しているという抗弁を主張することが考えられる。そこでの要件は①Yの善意(民法703条),②利得の消滅としてのYからTへの手形金の支払いである。

(3)再抗弁

ア)Xの取消権の代位行使

 仮に抗弁が認められたとすると,これに対しては,XY間の金銭消費貸借の取消しをGが債権者代位権(民法423条1項)に基づいて行使することが考えられる。これによってXY間の金銭消費貸借契約が取り消されることで,YがGの給付を保持する権原がないということになるため,再抗弁となる。

 ここでの要件は,①保全の必要性としてのX無資力,②取消権の代位行使として,a.取消原因(同上)b.取消しの意思表示の代位行使が必要となる。

イ)利得の現存

 GからYへの給付とYからTへの給付に因果関係がなければ,いまだYにGの給付にかかる利得が存しているとして,利得消滅の抗弁を阻却(否認の可能性あり)出来る。

 本件では,YはGからの給付は,Tへの手形金の支払いのためにもらっていると考えているので,ここに因果関係がないということは難しい。

以上