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Ⅱ-1.不動産の二重譲渡と転々譲渡―解除と登記

Ⅱ-1 不動産の二重譲渡と転々譲渡―解除と登記

1.XのYに対する所有権に基づく妨害排除請求権としての所有権移転登記請求

(解除前の第三者)

(1)請求原因

XはYに対して,Xの所有に属する甲土地(以下,「甲」とする)について,その所有権登記をYが有しているとして,甲の所有権に基づく妨害排除請求として,真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続を求めることが考えられる。これは登記による所有権の侵害を除去・回復するために認められた物権的請求権に基づく請求である。

 このときXは請求原因事実として,①Xの甲現所有と②Yの甲の登記名義保有を主張・立証しなければならない。もっとも,①については,Yがその現在の所有を争ってくるものと考えられる(YによるXの甲現所有の否認)。そこで,Xは,権利不変更の原則の下,甲のもと所有を主張・立証することで甲の現在の所有を基礎づけることとなる。すなわち,ここではa.A甲もと所有とb.AB間甲売買契約締結の事実を主張・立証すればよい。

 本件では,2003年7月7日当時のAの甲もと所有には争いがなく,同日,甲についての売買契約も締結されている(民法555条,176条)ことからa,bの事実が認定できる。したがって,請求原因事実は認められる。

(2)抗弁

 Yはこれに対して,抗弁として対抗要件具備による所有権喪失の抗弁を主張することが考えられる。すなわち,YはBが民法177条にいう第三者に当たるとして,BXは対抗関係に立つことを基礎づけ,さらにBは登記も具備していることから,XはこのBに対して所有権を対抗できなくなり,これにより反射的にXは所有権を失ったことになるため(一物一権主義,民法175条),上記の所有権に基づく妨害排除請求が阻却されるというのである。民法177条にいう第三者とは登記の欠缺を主張する正当な利益を有するものを指し,ここでは①AB間の売買契約締結の事実を主張・立証することを必要とする。そして,対抗要件を具備したことももちろん必要となるので,②①に基づいてBは所有権移転登記を具備したことを主張・立証する必要がある。

 本件では,①AB間で2003年7月7日,甲について売買契約の締結(民法555条)がなされており,これによりBの所有権が移転している(民法176条)といえる。そして,②Bは①に基づいて同日甲の所有権移転登記を具備しているため,抗弁の要件をみたす。したがって,Xの請求原因は阻却されることとなる。

(3)解除の位置づけについて

 Xはこれに対する再反論として,AB間の売買契約の履行遅滞解除を主張することが考えられるが,この解除の法的効果(民法545条1項)については争いがあり,それにより主張としての位置づけが異なりうる。この点について,解除の効果は取消しと同様,解除により直接契約の効力を遡及的に消滅させるものと解すべきである(直接効果説)。なぜなら,かく解することでこそ,民法545条1項ただし書き,同条3項の意味が出てくるからである。そうすると,ここでの解除はAB間の売買契約の効力の否定することでBの無権利を基礎づけるので,Yの抗弁を阻却することとなる。したがって,この主張は再抗弁に位置付けられる。

(4)再抗弁

履行遅滞解除の要件としては,民法412条1項から履行遅滞に陥っているというために①履行期の合意と②履行期の経過がまず必要となる。また,解除するための手続要件としては民法541条から③AからBへの催告および④催告後相当期間の経過を必要とする。そして,履行遅滞が違法であるというために同時履行の抗弁権を失っていることが必要となり,AからBへの売買契約の履行があったことの事実の主張・立証を要するが,これはすでに抗弁段階で現れているため特に主張を要さない(これを甲の引渡しとした場合は,債務の履行として必要?)。あとは,⑤AによるBに対する解除の意思表示で足る(民法540条1項)。

 本件では,①履行期は2003年9月9日となっており,②その日は経過している。そこで③Aは2003年10月4日Bに対して履行するよう催告したが,④催告後一週間が経過した。そこで,⑤Aは同年10月15日に解除の意思表示をしたものといえる。したがって,Xの再抗弁が成立し,Yの抗弁が阻却される結果,請求原因が再び基礎づけられることとなる。

(5)545条1項ただし書きの第三者について

 YはAB間の売買契約の解除の再抗弁に対して,自己は545条1項ただし書きの第三者に当たり,保護されると反論することが考えられる。上述のように,解除の効果は契約の効力を遡及的に失わせるものである以上,545条1項ただし書きは,この遡及効によって害される者を,遡及効を制限することによって保護する規定であると考えられる。そうすると,ここでいう第三者は解除された契約に基づき解除前に新たな利害関係を有するに至った者を指す。そして,民法545条1項ただし書きは遡及効を制限するにすぎず,契約自体を有効とするわけではないので,第三者が有効な権利取得をするのはこの条項による一種の擬制としての法定承継である。第三者はこれにより解除権者から直接に承継取得することとなり,これが登記保持権原を基礎づけることとなるため,これは前記抗弁,再抗弁を前提とする予備的抗弁に位置付けられる。

 ここではXの所有権喪失の抗弁として予備的抗弁が現れ,要件としては,第三者性を基礎づけるために①BY間の甲売買契約の締結,②BY間の売買契約がAの解除の意思表示に先立つこと,および,帰責性ない解除権者に対して第三者を保護するための資格保護要件として③①に基づくYの甲の所有権移転登記具備である。

 本件では,①2003年8月7日BY間で甲の売買契約が締結されており,②それはAが解除の意思表示をした10月15日に先立つ。また,③Yは①に基づき2003年8月7日に甲の所有権移転登記を具備している。したがって,予備的抗弁が認められることから,Xの請求は認められないこととなる。

 

2. XのYに対する所有権に基づく妨害排除請求権としての所有権移転登記請求

(解除後の第三者)

(1)請求原因・抗弁・再抗弁

 省略

(2)予備的抗弁

 YはAの解除の意思表示があった2003年10月15日以後の同年11月30日にBと甲の売買契約を締結しており,解除後の第三者として,上記にいう民法545条1項ただし書きの第三者には当たらない。したがって,同条項による保護は考えられない。

 もっとも,ここでは虚偽の外観を作出した本人の帰責性の下に第三者の信頼を保護するという表見法理の趣旨の下,94条2項の類推適用により,Yの保護を図ることができないか。Yが民法545条1項ただし書きの第三者に当たらないとすると,Yは無権利者と取引をしたに過ぎず,全く保護されないことになるが,この結論を貫くと,不動産の登記名義人が真の権利者だと信じて取引した者は,たとえその登記が真の権利者により虚偽と知りつつ故意になされていた場合でも,登記に公信力がないため一切保護されないこととなる。これは妥当でないため,民法94条2項の類推適用が検討される。この点について,民法94条2項の類推適用の要件は,まず同条の第三者にあたるかである。すなわち,①取引行為によるYの甲の所有権取得として,BY間の甲売買契約の締結が必要となる。その上で表見法理の趣旨に基づき,②虚偽の外観の存在として,BYの取引行為時に甲の土地名義がBにあったこと,③本人の帰責性として,甲にBの登記名義を残しておいたことについてのXの帰責性,そして④信頼として,BYの取引行為時におけるYの善意,すなわちBY間売買契約時,Bが権利者であると信じたことである。また,この主張は民法545条1項ただし書きの第三者に当たらないこと前提とするため,予備的抗弁となる。

 本件では,①2003年11月30日に甲についてBY間で売買契約が締結されており,②その当時Bに甲の登記名義があった。また,③Xは10月15日に契約を解除したのであるから,BY間が契約した当時までにBから真正な登記名義の回復を原因とする登記請求やAの抹消登記請求権を代位行使する(民法423条)ことでその登記名義を自己に服せしめることができたわけであり,それを放置したXに帰責性は認められる。そして,④Yは,Bが甲の所有権者であると信じたからこそ,Xによる甲の買い戻しを防ぐためにBに取引を持ちかけたといえることから,Bを真の権利者と信じていたといえる。したがって,抗弁が認められ,Xの請求は認められないこととなる。

 

3.XのDに対する所有権に基づく妨害排除請求権としての所有権移転登記請求

(1)請求原因

 所有権に基づく妨害排除請求権としての所有権移転登記請求権

(2)抗弁

  1. 対抗要件具備によるXの所有権喪失の抗弁

 省略

 ⇒再抗弁として履行遅滞解除

b.a.の流れを前提とする545条1項ただし書きの法定承継によるXの所有権喪失の予備的抗弁(解除前)

c.a.の流れを前提とする94条2項類推適用によるXの所有権喪失の予備的抗弁(解除後)

  1. 対抗要件欠缺の抗弁(D主張にかかる)

 Dは民法177条からXが対抗要件を具備するまでは,Xを甲の所有権者としては認めないとの対抗要件欠缺の抗弁を主張することが考えられる。これにより物権的請求権を阻止することができることとなる。この抗弁を基礎づけるために,Dは自己が民法177条の第三者に当たることおよび権利主張を要する。民法177条の第三者とは,不法行為者や不法行為者を除くという意味で,登記の欠缺を主張する正当な利益を有する者を指す。そしてこれを基礎づけるためには,①AB間の甲売買契約の締結,②BY間の甲売買契約の締結,③YD間の甲売買契約の締結が必要となる。その上で,④民法177条の権利主張,すなわち,YはXが甲の所有権移転登記を具備するまではXを所有権者として認めないと権利主張することを要する。

 本件では,①2003年7月7日にAB間の甲の売買契約が締結されており,②同年8月7日にBY間の甲の売買契約が締結されており,さらに③2004年2月2日にYD間で甲の売買契約が締結されている。したがって,Dの第三者性が基礎づけられ,Dは④の権利主張をすれば抗弁が基礎づけられる。

(3)dに対する再抗弁

 Dの抗弁に対して,XはB,Y,Dが背信的悪意者に当たり,Dは民法177条によって保護される第三者に当たらないとする,背信的悪意者の再抗弁を主張することが考えられる。民法177条は,自由競争の下では悪意者は保護されるべきだが,これを超えて相手方を加害するような背信的悪意者まではその保護を図るべきものではないから,このようなものは民法177条にいう第三者に当たらないとしてその保護を否定する理論である。

 この理論の適用の要件は,①BがXの甲の所有について知っていたこと,②①について背信性を基礎づける具体的事実,③YがXの甲の所有について知っていたこと,④③について背信性を基礎づける具体的事実,⑤DがXの甲の所有について知っていたこと,⑥⑤について背信性を基礎づける具体的事実となるが,時系列的に①と③はありえないので,かかる再抗弁は認められない。

 したがって,Dの抗弁が成立しているので,Xの請求は認められない。

以上