ちむブログ

書評とか備忘録とか

Ⅰ-8.売主の担保責任

Ⅰ-8 売主の担保責任

1.XのYに対する修補請求

(1)請求原因

 Xは,Yに対して,甲の地下にあるコンクリート杭の撤去を請求するために,瑕疵修補請求権を行使することが考えられる。では,これはどのような根拠の下で認められるのか。

 この点について,特定物の売買契約(民法555条)は,物の性質を契約の内容とすることができないので,売主は目的物を原状で引き渡す債務しか負わない(特定物ドグマ・民法483条参照)とすれば,売主は特定物について瑕疵修補義務を負わないので,コンクリート杭の撤去請求はそもそも認められないこととなる(法定責任説)。しかし,旧来の未整備な市場を前提とした買主危険負担主義からする特定物ドグマは妥当でない。現代の市場社会において,物の性質は重要な意味を持つものであり,私的自治・自己決定の尊重の見地からしても,性質については契約内容に含めることができると解すべきである。そうだとすれば,特定物売買・不特定物売買を問わず売主は契約上予定された性質の物を買主に引き渡す債務を負うので,引き渡された物がかかる性質を有していない場合は,買主は売主に対し,売買契約に基づく履行請求として,瑕疵修補請求をすることができる,

 この場合の請求原因は,①売買契約の締結,②目的物に瑕疵のあること,である。確かに,①売買契約の締結のみで買主は完全履行請求権を有することになるが,それだけでは売主はいかなる修補をすればよいかわからず請求が特定できない。したがって,②目的物に瑕疵のあることも請求原因に含める。そして,ここでいう「瑕疵」とは,当事者の合意によって物の性質は確定されることから,当該契約において予定された性質を欠いていることをいうと解される。すなわち,②はa.契約で合意された性質,b.その性質を欠いていることがその内容となる。

 本件では,YがXに対し,1994年9月1日,甲土地を代金6億円で売っており,①はみたす。そして,Xは7階建てのマンションを建てることを前提に採算ラインとして坪単価110万円という価格を提示して,これに基づいて代金額6億円という合意がなされていることから,甲土地が7階建てマンションを建設することが可能である土地ということが当該売買契約の目的物の性質として合意されており(②a.充足),それが甲土地地下にあるコンクリート杭により達成できない(②b充足)。

よって,XはYに対し,コンクリート杭を撤去するよう売買契約に基づき瑕疵修補を請求することができる。

(2)抗弁

 YはXのかかる請求に対し,修補困難の抗弁を主張することが考えられる。修補困難の抗弁とは,修補にかかる費用が売主の負うべき損害賠償額と比べて不相当に高額となる場合,売主は修補を拒絶できるというものである。売主が負うべき損害賠償は,売主が契約によりどの範囲で不履行のリスクを引き受けたかにより画されることから,その損害賠償額を超える費用で修補させることを認めると,契約上予定された限度を超える負担を売主に課すことになるため,かかる抗弁が認められると解される。

 したがって,抗弁として①修補に過分の費用が掛かることを主張・立証してYはXの請求を阻止することができる。

 本件で,修補にかかる費用は3000万円程度であり,甲の売買代金6億円という契約の規模に鑑みても,損害賠償額に比して不相当に高額とは言えない。よって,①修補に過分の費用がかかるとは言えず,Yの抗弁は認められない。

 

2.XのYに対する解除に基づく原状回復請求

(1)請求原因

 XはYに対し1994年9月1日に締結された甲売買契約は解除されたとして,その原状回復義務の履行として代金6億円の返還を求めることが考えられる。そこでの請求原因は,①売買契約の締結,②代金の交付,③解除原因,④解除の意思表示,である。

 本件で,①と②の事実は問題なく認められる。問題は,③である。本件でXが主張する解除原因は,瑕疵担保責任であり,それは民法570条が準用する民法566条によって解除原因が規定されている。それに従えば,③はa.目的物に瑕疵のあること,b.瑕疵の不表見が要件になる。かように解されるのは以下のような理由に基づく。すなわち,売主の瑕疵担保責任について,目的物の性質についても契約の内容となりうる以上,570条は,瑕疵ある物を給付した売主の債務不履行責任について定めた規定となり,債務不履行の特則としての性質を持つ。そして,その場合における瑕疵とは当事者が契約によって合意した性質を欠くことであり,隠れた瑕疵とは瑕疵が不表見であることをいう。この瑕疵担保責任において瑕疵は不表見であれば足る。なぜなら,通常瑕疵が不表見であれば,買主が善意無過失であることは推定されるからである。したがって,買主の悪意・有過失が抗弁となる。

 一方,570条の準用する566条は「契約をした目的を達成することができない」ことを解除の成立要件として規定しているように思えるためこの位置づけも問題となる。この点については,瑕疵があり,それが不表見であれば,その売買目的物の内容として重要な使用収益に障害があることは明らかであるから,これを請求原因として主張する必要はなく,契約目的の達成が可能であることを抗弁として主張・立証させればよい。

 よって,上記の要件となる。

 本件では,コンクリート杭が埋まっていることが瑕疵に当たることは前述のとおりであり,さらにそれは契約時において不表見であったことから③a.,b.をみたす。

 そして,解除には解除の意思表示を要するところ(民法540条),XはYに対し,1995年8月1日,解除の意思表示をしていることから④も充たす。

 以上から,XのYに対する瑕疵担保責任解除に基づく原状回復請求権の請求原因は認められる。

(2)抗弁

上記で上げたようにア.買主の悪意又は有過失,イ.契約目的の達成可能が抗弁となる。mた,これ以外にも商法526条2項前段,後段の抗弁がそれぞれ考えられる。

ア.買主の悪意又は有過失の抗弁

 (省略)

イ.契約目的の達成可能

 Yは当該売買契約の契約目的の達成が可能であることを主張・立証すれば,解除権の発生を阻止できるため,これは抗弁となる。そして,契約目的が達成できる場合として修補が可能な場合は原則として契約目的が達成不能とは言えず,可能である。

本件では,コンクリート杭の撤去が可能であり,その費用も売買契約の規模6億円に比べて,3000万円程度であるから高額ともいえない。よって,契約目的の達成が可能であるとの抗弁が成立する。

ウ.商法526条2項前段の抗弁

 商法526条1項は,商人は目的物を受領したときは直ちに検査する義務を負うとし,受領後相当期間が経過すると,瑕疵があることを理由に解除することはできなくなるとする。ただし,相当期間が経過する前に瑕疵を発見してこれを売主に通知した場合は解除することができる。このような規範を定めたのが商法526条2項前段である。

 そうすると,①商人間の売買契約であること,②買主が目的物を受領したこと及びその時期,③②のときから相当期間が経過したこと,によりXの解除権の発生を障害する抗弁がなりたつ。

 (あてはめ省略)

エ.商法526条2項後段の抗弁

 商人は直ちに発見できない瑕疵があった場合に,受領から6か月以内に瑕疵を発見した場合も,直ちにこれを通知しなければ解除できない。受領後6か月が経過した後は,もはや解除することができないという規範が定められたものとみることができる。

 本件ではXがいつ甲を受領したのかが問題となる。Xは1994年10月31日にMとの間で賃貸借契約(民法601条)を締結しているため,間接占有を取得しているように思える。これが受領に当たるのであれば,1995年6月1日になされた通知までに6か月が経過しているため,Yの抗弁が認められることとなる。

しかし,商法526条は受領すれば検査し,瑕疵を発見できることを前提としているから,間接占有を取得しただけでは受領したとは言えないと考えるべきである。さらに言えば,そもそも本件事実関係の下ではXが間接占有すら取得していないと考えることもできる,なぜなら,Mの賃料月額250万円はXのG銀行への金利相当分を基準に設定されたものであるから,これはXが引き渡しを受けるまで余計に負担する金利分を賃料という形でMが負担する契約であるとも解しうる。そうだとすれば,これはXとMの賃貸借契約の形式を持った,実質は引渡しの猶予であると考えられ,Xはまだ引き渡しを受けていないと考えられるからである。

よって,実際に引渡しを受けたといえる1995年1月31日から通知までは6か月経過していないので,かかる抗弁は成立しない。

 

(3)再抗弁

エに対する再抗弁

 a.受領後相当期間経過前に瑕疵を通知したこと若しくは売主が瑕疵について悪意であったこと,b.瑕疵が直ちに発見できないものであること

 (省略)

 

3.XのYに対する瑕疵担保責任に基づく損害賠償請求

(1)請求原因

 Xは,甲の瑕疵に基づく瑕疵担保責任として,Yに対し損害賠償請求をしていくことが考えられる。そこでの請求原因は,①売買契約の締結,②目的物に隠れた瑕疵,③損害の発生及びその額である。

 本件において,①,②をみたすことは問題ないが,③はどうか検討を要する。これは瑕疵担保責任の法的性質と関連して検討すべき問題である。

 本件において,甲に瑕疵があったことによって生じた損害としては(A)コンクリート杭の撤去費用3000万円の支出,(B)マンションの工期が3か月遅れたことによるマンションの転売利益を3ヶ月取得できなかったことによって被る売買代金の利息相当額,(C)Gへの借入金の返済が遅れたことにより負担した遅延賠償金年利5パーセントの3ヶ月分が考えられる。

(A)コンクリート杭の撤去費用3000万円の支出について

 瑕疵担保責任(民法570条,566条)の法的性質を法定責任と捉えると,そこでは目的物の瑕疵について修補義務を認めない以上,これに代わる費用の支出についても損害賠償請求を認めるべきではないこととなる。なぜなら,瑕疵修補を認めないので,その修補相当額の損害賠償を認めたのでは結論として矛盾した結果になるからである。

 しかし,瑕疵担保責任の法的性質を契約責任と捉えると,これは一般債務不履行責任の特則に過ぎないから,民法416条の規定に従い損害賠償の内容及び範囲が確定される。416条は,1項が不履行(瑕疵)と事実的因果関係のある損害のうち,それと相当因果関係のある損害について賠償をすべきというルールを定め,2項は特別の事情について相当性の判断に含めるべきかどうかの予見可能性の問題を扱っている規定だと解される。

 そうすると,ここでいう損害はXが1995年7月1日に,代金3000万円でコンクリート杭の撤去をTに依頼したことによって被った不利益であり,これは通常生ずべき損害より安価なものであった。そうすると,通常生ずべき損害としては相場価格が賠償範囲となりそうだが,これは実損害を上限とすべきである。したがって,代金3000万円が通常生ずべき損害として賠償範囲に含まれる。

(B) マンションの工期が3か月遅れたことによるマンションの転売利益を3ヶ月取得できなかったことによって被る売買代金の利息相当額

 法定責任説からは,逸失利益を賠償範囲に含めることはできない。

 しかし,契約責任説によれば,Xがマンションを転売することはYに予見可能であるので,転売価格が相当である限りで,それは賠償範囲に含まれるとしてよい。本件で,相当な転売価格についての事情は不明であるため,具体的な金額は不明である。

(C) Gへの借入金の返済が遅れたことにより負担した遅延賠償金年利5パーセントの3ヶ月分

 法定責任説からは,かかる利益は契約すると信頼したことによって被った損害であるから信頼利益の範囲であるとして賠償範囲に含まれる。

 契約責任説からは,Xが具体的な損害をYが賠償すべきということはできないが,損害を抽象化して,Xが甲売買代金を確保するために銀行から資金を借り入れ,そこで年利5パーセントという遅延損害金も銀行取引において異例と言えないのであればYに予見可能であるとして,それを賠償範囲に含めるとすることはできる。

 もっとも,かかる信頼利益と(B)の逸失利益は同時に保持することはできないので,どちらかのみ請求できる。

 以上から,XはYに対し,上記(A)(B)(C)の損害のうち認められる範囲で賠償を請求できる。

(2)抗弁

 Xの請求を拒むために,Yとしては,短期期間制限の抗弁(民法570条,566条3項)を主張することが考えられる。これは,瑕疵担保責任の追及を買主が瑕疵の存在を知った時から1年以内に限って認めている。そこで,Yは①買主が瑕疵を知ったこと及びその時期,②①から1年の経過を主張・立証することとなる。

 本件において,Xが1995年5月20日にコンクリート杭の存在という目的物の瑕疵を知っている(①充足)。そして,XがYに損害賠償請求をした1996年8月1日の時点ではすでに1年が経過している。よって,Yの抗弁が成立する。

(3)再抗弁

 Xは1年の権利行使期間内に,権利行使したことを再抗弁として主張することが考えられる。瑕疵担保責任の権利行使について,判例は,売主の担保責任を問う意思を裁判外で明確に告げることで足りるとしている。具体的には,瑕疵の内容とそれに基づく損害賠償請求をする旨を表明し,請求する損害額の算定の根拠を示すことを必要とする。

 本件で,Xに係る事情は認められるか不明である。よって,場合分けすることになる。

以上