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Ⅰ-9.請負の担保責任

Ⅰ-9 請負の担保責任

<仕事完成後>

1.XのYに対する修補請求

(1)請求原因

 XはYに対して,乙を車庫に入庫できるように甲を修補するように求めているが,これはいかなる根拠に基づいて行うことができるのか。まず,一つは請負契約に基づく仕事完成債務の履行として修補を求めることが考えられる。請負契約によって請負人は仕事の完成債務を負っているのであるから,ここでは瑕疵のない仕事の完成が求められていると考えられるのである。しかし,これだけであると,請求原因は請負契約の締結(民法632条)だけとなってしまい,いかなる瑕疵を修補すればよいのかという点で請求の特定をすることができない。そこで,請負契約に基づく修補請求としては,請負契約の締結に加えて,仕事の目的物の瑕疵を主張・立証する必要があると考えるべきである。なお,請負契約においては,目的物の性質は契約内容に含めているのが当然であるため,その性質の瑕疵も目的物の瑕疵となりうる。

 以上から請求原因は①請負契約の締結,②仕事の瑕疵の目的物の瑕疵となる。

 本件において,①XとYは2003年12月1日に甲を建築する請負契約を締結しており,②甲について乙を入庫できる車庫という性質を欠いていることから,目的物に瑕疵がある。

したがって,請求原因は認められる。

(2)抗弁

ア)注文者の指示の抗弁

これに対してYは,Xが当初から車庫を設置するように要求しており,それに従って車庫を設置したのであるから,注文者の指図による瑕疵であるとして,その瑕疵に基づく修補請求は民法636条からは認められないとの抗弁を主張することが考えられる。この規定の適用を主張するための要件事実を整理するために,かかる規定の法的性質を検討する必要がある。

 この点について,請負に関する民法636条の規定は,仕事完成前は仕事完成債務があることから,仕事完成後についての請負人保護の必要性から定められた担保責任の特則と考える見解もある。しかし,仕事完成前であっても,当事者が契約により引き受けたリスクを超える負担から解放し,請負人保護を図る必要性はある。そして,仕事の瑕疵とは結局は債務不履行であるから,債務不履行責任に関する準則として捉えられる必要がある。請負においては瑕疵のない完全な仕事をすることが求められている以上,請負の瑕疵担保責任の規律は債務不履行責任の特則である。もっとも,民法636条の適用は完成後に限られるものではなく,完成前にも及ぶ。なぜなら,完成前においても請負人に契約で負ったリスクからの解放を認める必要があるからである。

 そうすると,ここでの要件事実は①注文者の指示により瑕疵が発生したことである。

 本件では,Yが建築業者であり,その専門家であることに鑑みれば,素人であるXの強い要望を汲んで,それに沿う形で建物を完成させたとしても,それは指示をしたとまでは言えないことから,上記①をみたさない。よって,この抗弁は認められない。

イ)修補不能の抗弁

 Yは甲の修補が不能であるとして,かかる修補請求を拒むことができる。甲の修補が不能であれば,それを請求することに意味はないからである。

本件で,甲の修補には甲の建て替えが必要といえ,実際上不能であるから,修補不能の抗弁が認められる。よって,Xの請求は認められない。

ウ)修補困難の抗弁

 民法634条1項ただし書きから,瑕疵が重大でない場合において,その修補に過分の費用を要するときは修補請求を拒むことができる。ここでは①軽微な瑕疵,②過分の費用が要件事実となる。

 本件では,甲自体は住居として使用されるのが主たる目的であり,住居として使う分には問題がないといえる。しかし,Xは乙が甲に入庫できるように甲を建築することを繰り返し要望していることから,Xにとって請負契約において乙が甲に入庫できることは重要な意味を持つ。そうすると,これを軽微な瑕疵ということはできないことから,①が認められない。したがって,かかる修補困難の抗弁は認められない。

 

2.XのYに対する解除に基づく原状回復請求

(1)請求原因

 Xは甲建築についての請負契約について解除し,原状回復としてYから支払い済み代金1600万円の返還を求めることが考えられる。

 これについて本件請負契約の対象となっているのは建物の建築であり,民法635条ただし書きが契約の解除を制限している。すると,Xが履行遅滞(民法541条)ないし履行不能(民法543条)に基づく解除を主張しても,そこで請負契約の内容が建物建築であることが現れるため,民法635条ただし書きから主張自体失当になる虞がある。そこでかかる規定に位置付けについて検討をする必要がある。

 そもそも,民法635条ただし書きの趣旨は,仕事の目的物が建物等である場合は,解除を認める請負人にとって過大な負担となりえ,社会経済上の損失も大きいことから解除権を制限する点にある。そうだとすれば,請負人にとって過大な負担と言えず,社会経済上の損失も小さい場合にまでかかる解除権を制限する必要はない。

 ただ,民法635条は担保責任であるから,仕事完成前は適用については原則として考えられない(この点について後述)。そうすると,建物が完成する前であれば,債務不履行の一般原則による解除も認められる。

 本件は,仕事完成後であるので,債務不履行の一般原則によることはできないため,民法635条ただし書きの制限を主張する形で請求をすることとなる。すなわち,そこでの請求原因は,①建物の建築についての請負契約の締結,②請負代金の交付,③解除原因としてのa.仕事の瑕疵,b.瑕疵が重大であるため建て替えが不可避であること,④解除の意思表示である。

 これについてみるに,①XY間では2003年12月1日に,甲建物の建築請負契約が締結されており,②代金も1600万円が支払われている。そして,③甲には乙を入庫できないという瑕疵があり,それはXが繰り返し甲に乙が入庫できることを要望していることから軽微な瑕疵とは言えず,この瑕疵を治癒するには建物甲の建て替えが不可避であるといえる。そうすると,XはYに対して,④解除の意思表示をすれば,請求原因が認められる。

(2)抗弁

・注文者の指図の抗弁

 (省略)

 

3.XのYに対する損害賠償請求

(1)請求原因

 XはYに対して,仕事の目的物に瑕疵があるとして損害賠償請求をすることが考えられる。そして,民法634条2項は請負契約に基づく完全履行請求権が形を変えて請求されているにすぎないのであるから,一般債務不履行の原則の規定と同様に解することができる。

 そうすると,ここでの請求原因は①請負契約の締結,②仕事の目的物に瑕疵,③賠償されるべき損害の発生・額は最低限必要となる。そして,修補に代わる損害賠償請求の場合は,④として損害賠償の請求が要件事実となり,修補と共にする損害賠償請求の場合は上記③までで足る。

 本件についてみると,①XとYは2003年12月1日に甲建築を目的とした請負契約を締結しており,②甲には乙を入庫できないという瑕疵があった。

では,③はどうか。修補に代わる損害賠償請求においては,これは債務不履行の一般原則と変わりないので,民法415条と同様に考えればよい。すなわち,損害とは,瑕疵がなかったら債権者が置かれていたであろう利益状態と,瑕疵があったことによって債権者が置かれている利益状態の差を金銭で評価したものである。そして,その賠償範囲に関する民法416条は,1項が相当因果関係を定めた規定であり,通常生ずべき損害が賠償範囲に含めるとし,2項が特別事情による損害を予見可能性のルールに従って賠償範囲に含めるべきことを定めたものと解する。

本件での損害は,a.甲の現在価値の下落分400万円と,b.甲に乙を駐車できないことによって支出した年18万円の金員,c.甲の新築建て替え費用として考えられる1400万円,d.甲の取り壊し費用として考えられる100万円がそれとして考えられる。

そして,修補に代わる損害賠償請求が債務不履行の一般原則と同じ形の損害賠償をしているものだと考えれば,ここで認められる賠償は契約実現型賠償である。そうすると,まずa.は通常生ずべき損害として賠償範囲に含まれる。

  1. は通常生ずべき損害とは言えないが,乙が甲に入庫できないのであれば代替して駐車する場所も必要となり,これはYも予見できたことから,特別損害として賠償範囲に含まれる。
  2. については,通常生ずべき損害とは言えない。なぜなら,甲の車庫に乙が入庫できないという瑕疵があるからと言って,建物を建て替える必要は通常ないといえるからである。しかし,本件ではXが甲に乙を入庫できることは契約において重要な性質となっている。そうすると,乙を入庫できないという瑕疵が存在すれば,甲の建て替えの必要が生じるといえ,それはYも予見できたといえる。したがって,特別損害として賠償範囲に含まれる。もっとも,民法635条ただし書きの趣旨に鑑みれば,それは建物完成後においては解除が制限されており,この時に建て替え費用の賠償を認めることは解除を許容した結果と同じなのでこの点の平仄があわない。そこで,原則としてかかる損害は賠償範囲に含まれないとすべきである。ただ民法635条ただし書きの趣旨を没却しない場合で解除が認められるとする場合においては例外的に賠償が認められる。本件は民法635条ただし書きの趣旨を没却しない場合に当たるので,この損害も賠償範囲に含まれる。

では,dはどうか。dについては,乙が入庫できる甲というのが請負契約で重要となっていたことから,個々の瑕疵は重大であり,乙が入庫できない場合は甲を取り壊すことがYにも予見できたであろうことから,特別損害として賠償範囲に含まれる。

以上から③をみたす形で賠償が認められ,修補と共にする場合は④の要件をみたすことで損害賠償請求が認められる。

(2)抗弁

ア)帰責事由不存在の抗弁

 請負契約における損害賠償に帰責事由の抗弁が認められるか。634条2項を債務不履行の一般準則と同様にとらえるのであれば,帰責事由不存在の抗弁がたつこととなる。しかし,民法634条2項は無過失責任を定めた債務不履行責任の特則であると考えるべきであるから,帰責事由によるこの責任の免責は認められない。無過失責任となるのは,少なくとも瑕疵があることにより仕事の目的物の価値が低下した部分については,請負人に故意・過失があるかをとうことなく,責任を認めるべきだからである(等価性障害説)。

 よって,かかる帰責事由不存在の抗弁は認められない。

イ)注文者の指図の抗弁

 (省略)

ウ)修補困難の抗弁

 (省略)

 

<仕事完成前>

4.XのYに対する修補請求

(1)請求原因

 XはYの仕事完成前に目的物の瑕疵について修補を請求できるか。これについては上述の通り,請負契約の完全履行請求権として瑕疵の修補を請求できると考えられる。もっとも,その修補すべき瑕疵の特定から,請求原因は①請負契約の締結と②仕事の目的物に瑕疵があることとなる。

 本件では①も②もみたされることから,修補請求は認められる。

(2)抗弁

ア)注文者の指図

イ)修補不能

ウ)修補困難

 

5.XのYに対する修補請求

(1)請求原因

ア)民法635条ただし書き制限説による解除

上記2によれば,民法635条ただし書きの適用は目的物の完成後になるので,目的物の完成前であれば,債務不履行の一般原則に従って解除ができるのではないか。これに対して,目的物完成前であっても,民法635条ただし書きを類推適用して解除を制限する見解もある。工事の進行程度と債務不履行の態様とを相関的に考えて,原状回復をすれば社会的損失が認められる場合には,民法635条ただし書きの請負人の過大な負担からの解放と社会経済上の損失回避につながるとして同条の類推適用を認めようというのである。

 そうすると,民法635条ただし書きの趣旨から考えて,請求原因は①建物建築の請負契約の締結,②請負代金の交付,③仕事の目的物に瑕疵があることとして,瑕疵が重大であり,建て替えが必要なこと,④解除の意思表示である。

 本件では,①,②は満たしており,③については乙を入庫できる甲というのは契約の重要な性質となっており,これを欠くことはXにとって甲を建て替える必要が生じるものであるといえる。そうすると,③もみたすことから,XはYに④解除の意思表示をすれば,請求原因が認められる。

イ)民法641条による任意解除

 請求原因は①請負契約の締結,②代金の交付,③解除の意思表示である。

(2)抗弁

ア)注文者の指図

イ)可分性による一部解除の抗弁

 Yの仕事完成債務は一部既履行部分があることから,可分性による一部解除の抗弁が考えられる。請負人は完成するまで契約におけるリスクを負うとするのが請負契約であることから原則として一部解除は認められない。しかし,例外的に既履行部分が注文者に取って有用である場合は,一部解除を認めることができると考えるべきである。

 そうすると,①完成部分の存在,②完成部分の可分性,③完成部分の有用性,④完成部分の割合を主張・立証することで,Yはその一部解除により,原状回復請求を一部拒むことができる。

 本件では,①完成部分は存在しており,②一階部分のみが完成しており,これは可分といえる。また,③一階部分さえあれば,残りの工事を引き継ぐことで甲を完成させることもでき有用といえる。そして,④完成部分は全体の6割であることから,960万円相当については,一部解除の抗弁が認められる可能性がある。

ウ)(1)イに対する相殺の抗弁

 任意解除には注文者が損害賠償をするべきという規定があるため,この損害賠償債権との相殺をする抗弁を主張することが考えられる(民法505条1項本文)。そうすると要件は,①反対債権の存在として,賠償されるべき損害の発生・額,②相殺の意思表示である。

 ここでの損害賠償の内容は,純利益と既履行分の対価から残履行分の費用を控除した額である。

 (省略)

 

6.YからXに対する報酬支払請求

(1)請求原因

 民法633条は,請負契約を締結したときは,その約した仕事を完成した後に,請負う人は注文者に報酬の支払いを請求できると規定していると解釈することができる。そうすると,請求原因は①請負契約の締結,②仕事の完成である

 今回は①,②もみたす。

(2)抗弁

ア)弁済の抗弁

イ)同時履行の抗弁権

ウ)修補請求の抗弁

 仕事に瑕疵があれば修補請求権が認められる。そして修補請求権は仕事完成債務が転化したものなので報酬支払請求権よりも先履行にあるといえる。そうすると,修補請求は抗弁となりうる。この時の要件は①仕事の目的物に瑕疵のあること,②修補請求である。

エ)損害賠償請求権との同時履行の抗弁

 民法634条2項による損害賠償請求権と報酬請求権との間には同時履行の関係が認められている(民法634条2項後段,533条)。そこでの要件は①仕事の目的物に瑕疵,②賠償されるべき損害の発生・額,③同時履行の権利主張である。

 なお,修補に代わる損害賠償を選択した場合は,損害賠償額にかかわりなく報酬支払請求権全額と同時履行の関係にあると解すべきである。修補請求の場合において,注文者は請負報酬債権全額の履行を拒絶できるにもかかわらず,損害賠償請求の場合は対当額に限られるとする理由はないからである。

オ)損害賠償請求権との相殺の抗弁

 総裁の一般法理からすれば,債務の性質が相殺を許さないときは,相殺は認められない(民法505条1項ただし書き)。そして,相手方が自働債権に抗弁権を有している場合はそれに当たる。本件では,損害賠償請求権と報酬請求権は同時履行の関係にあるため,相手方が抗弁権を有する場合に当たり,相殺が許されないように思える。

 しかし,この場合に相互に現実の履行をさせなければならないという特別の利益は存しないし(相互互酬原理の欠落),また相殺による清算が便宜である。したがって,この場合は例外的に相殺が認められると解すべきである。

 そこでの要件は,①目的物の瑕疵,②賠償すべき損害の発生・額,③相殺の意思表示である。

 (省略)

以上