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Ⅱ-11.工作物責任・営造物責任

Ⅱ-11.工作物責任・営造物責任

第1 XのPに対する損害賠償請求

  1. 法律構成

 XはP県に対して,県道96号線およびフェンスの設置ないし管理の瑕疵を理由とする損害について,国家賠償法2条に基づく損害賠償請求を行うことが考えられる。ここでの訴訟物は営造物責任に基づく損害賠償請求権である。以下,請求について検討していく。

  1. 請求原因

(1)国家賠償法2条に基づく請求における要件事実は,①Pが公共団体であること,②県道96号線が公の営造物であること,③県道96号線に設置または管理の瑕疵があったことを基礎づける具体的事実,④Xの権利侵害,⑤3と4の間の因果関係,⑥損害の発生及びその額,⑦4と6の間の因果関係である。

(2)以上のような整理となるのは以下の理由による。①,②は国または公共団体の営造物によって生じる責任であるから必要となる。ここでいう②の営造物とは,公の目的に供する有体物及び物的設備のことをいう。人的設備は国家賠償法1条でカバーされる領域であるので通常の公共物と若干の異同がある。また,この営造物から生じた瑕疵を問題とするのであるから,③の要件を必要とする。ここでいう瑕疵とは,公の営造物が通常有すべき性状や設備を具備しないこと(客観説[1])をいい,これは事故時を基準に判断される。事後的な判断では過剰な負担となりうるからである。④以下は通常の損害賠償(民法709条)と同様の構造をとるものと考えられることから,上記のような要件構成となった。

(3)では,Xの請求は認められるか。①Pは公共団体であり,②県道96号線は公の目的に供する物的設備としての県道であるから公の営造物にあたる。

③県道96号線において,地震直前には,台風による豪雨で500ミリの降雨量が記録されており,地盤の緩み等が生じていると考えられ,ラジオ放送で隣接地での落石可能性について警告しなければならないほどの状況が存在し,ここでは落石事件は0ではなかったことからも,こうした状況から生じる落石を防ぐべき設置又は管理の状態が県道96号線の通常有すべき安全性である。しかし,道路管理者たるPは常時巡視して応急の事態に対処すべき監視体制をとり,それが取れない場合で落石の危険があるようなときは,事前に通行止めをする等の措置をとることが必要であったにもかかわらず,これを欠いていた以上は通常有すべき安全性を欠いており,設置又は管理に瑕疵があるというべきである[2]

【※より客観説的にいくのであれば,スーパーフェンス等の設置を行っていなかったことが想定される通常の安全性の欠如として瑕疵に当たるという解釈でいくべき?[3]

④権利侵害としては,Xのトラックの所有権侵害とその危険によって生じた精密機械の所有権侵害がある。

⑤の因果関係は事実的因果関係としての条件関係の存否が問題となる。本件で県道96号線には瑕疵があり,そこから生じたXの諸々の所有権侵害については,瑕疵がなければ侵害が生じなかったという関係にあり,因果関係が認められる。これについて,自然力の関与として観測上まれな震度5弱地震があったためこのような権利侵害が生じたとして,仮に瑕疵があったとしても,あれなければこれなしの関係にないため,因果関係は否定されるという反論が考えられる。しかし,これらが重畳してXの権利侵害を発生させていると考えるのであれば,これらを一体として取り除いて,あれなければこれなしといえればよい。本件は自然力の関与と道路の瑕疵を除けば,Xの権利侵害が発生しなかったといえるので,やはり因果関係は認められるというべきである。自然力の関与自体は,外部原因の寄与として,衡平の見地から賠償額の減額を認めるという抗弁として考えればよい[4]

 ⑥としては,損害としてはトラック及び精密機械の修理費用ないし買い替え費用が損害として考えられる。

 ⑦の因果関係は,賠償範囲確定の因果関係として相当因果関係が問題となるものであるから,相当因果関係を定めた民法416条を類推適用して考える。そうすると,同条1項から,通常生ずべき損害として,トラックと精密機械の代金相当額が賠償範囲に含まれることとなる。

 以上から,請求原因は認められる。

 

  1. 抗弁

(1)Pとしては,Xの権利侵害が発生し,損害が出たのは自然力も加わってのことであるから,その寄与度にかんがみ賠償責任について,寄与度減責の抗弁を主張することが考えられる。この抗弁がなぜ成立するか。損害賠償責任は生じた損害の填補について公平な分担を果たすところにあり,加害者に責を負わせることが不当であるといえるような自然力等の権利侵害・損害の寄与がある場合は,その負担を加害者におわせることなく,被害者でその負担を負うことが公平にかなうということから認められる。要件事実としては,①本件事故への自然力の寄与度を基礎づける具体的事実である。

 本件について検討するに,(本件では観測上まれな震度5弱地震というものが生じている。そうだとすれば,ここでは県道96号線に瑕疵があったとしても,震度5弱地震によって権利侵害・損害が生じて,寄与されている部分があるといる。そこで,この自然力の寄与度から損害賠償額を一定限度減額すべきである。)【あてはめ省略】

(2)Pは,不可抗力の抗弁を主張することも考えられる。営造物責任は無過失責任であるが,結果責任ではない。したがって,不可抗力によって生じた権利侵害・損害については賠償責任を負うとすべきではないといえる。そこで,①Xの権利侵害が不可抗力であることを主張・立証することで,Pは責任を免れえる。

 しかし,本件では不可抗力といえるような事情は考えられないため,認められない[5]

(3)また,瑕疵を客観説と捉える場合は,被害者に過失がある場合に賠償責任を被害者にシフトすることが公平にかなうとして,過失相殺の抗弁を主張することも考えられる。ここでは自己危険回避義務違反によるシフトである。その要件事実は,①Xの過失を基礎づける具体的事実となる。

 本件について検討するに,Xは落石注意の看板が散見される場所を,悪天候の中で運転するにあたって,事故情報や交通情報等に注意を払うことなく,野球のナイター中継をラジオで聞くなどしている。このような状況においては自己危険回避義務違反としての過失が認められる。したがって,その限度で過失相殺が認められる。

 

第2 XのYに対する損害賠償請求

  1. 法律構成

 Xとしては,Yが砕石所(以下「甲」とする)の占有者であるとして,工作物責任(民法717条1項本文)に基づく損害賠償をすることが考えられる。ここでの訴訟物は,工作物責任に基づく損害賠償請求権である。

  1. 請求原因

(1)請求原因としての要件事実は,民法717条1項本文から,①甲が工作物[6]であること,②事故当時,甲をYが占有していたこと,③事故当時,甲に設置又は保存の瑕疵があったこと,④Xの権利侵害,⑤③と④の間の因果関係,⑥損害の発生とその額,⑦④と⑥の間の因果関係である。

(2)本件において,①甲は工作物に当たり,②事故当時,Yは甲をZから賃借して占有していた。また,③甲を地震や大雨等の災害が生じたときには落石を起こさないようにしておくのが甲の通常有すべき安全性であるとしたら,甲は大雨及び地震によって落石を起こしている以上通常有すべき安全性を欠いており,事故当時に設置又は保存に瑕疵があったといえる。④以下は第1の請求原因で検討したこととほぼ同様なので割愛する。

 以上から,請求原因は認められる。

  1. 抗弁

(1)Yとしては民法717条1項ただし書きから相当の注意を払ったことを抗弁として主張することが考えられる。ここでは,①Yが損害の発生を防止するのに必要な注意をしたことを主張・立証すればよい。

 【あてはめ省略】

(2)また,Yとしては不法行為の競合として,第三者(P)の不法行為と競合して権利侵害と損害が発生したとして,寄与度に応じた減責の抗弁を主張することが考えられる[7]。ここでは①本件事故へのPの寄与を基礎づける事実につき主張・立証することとなる。

 本件において検討するに,(Pが本件県道96号線についての設置又は管理に瑕疵があることによって生じたXへの権利侵害・損害への寄与度を認定して抗弁とする)【あてはめ省略】

 

第3 XのZに対する損害賠償請求

  1. 法律構成

 Xとしては,Zが甲の所有者であるとして,工作物責任(民法717条1項ただし書き[8])に基づく損害賠償請求をすることが考えらえる。ここでの訴訟物は,工作物責任に基づく損害賠償請求権である。

  1. 請求原因

(1)ここでの請求原因は,①甲が土地工作物であること,②事故当時,設置又は保存に瑕疵,③事故当時,Zが甲の所有者であること,④Xの権利侵害,⑤②と④の間の因果関係,⑥損害の発生及びその額,⑦④と⑥の間の因果関係である。

(2)本件について検討するに,【あてはめ省略】

  1. 抗弁以下

(1)Yが占有者であるという抗弁が考えられ,これに対しては,Yが相当の注意を払ったことをXが主張・立証するという再抗弁が考えられる。

以上

 

[1]営造物について存在している危険な「状態」に着目するということ。設置又は管理という文言を除くと,営造物に関する内在的な瑕疵の問題しかでてこない。外部的な状態としての瑕疵をも含むとするのが営造物責任の危険責任としての射程範囲。かく解することが,工作物責任系譜に連なる趣旨とも符合する。

[2]主観説に近しい論証?こうすると,客観説となってないように読める。判例は客観説と言いながらこんな書き方している。しかし,本当に客観説プロパーで記述するときはどうすればよいか。

[3]客観説を維持しつつ,義務違反説の書き方をするという。ただ,客観説の定義をして,義務違反(例えば,~という措置をしなかった)と書くのは読み手としての受け方はどうなるのか気になる。

[4]山本(敬)レジュメ133頁参照。因果関係構成とすると,割合的因果関係論を使って,自然力を除いた限度で因果関係を認めるということは考えられる。しかし,因果関係を量的にとらえることへの疑問はある。そこで自然力の寄与は因果関係で考慮するのではなく,過失や瑕疵の有無で検討するという方法があるうる。本件でいえば,その程度の自然力によって結果が生じないような性質を備えているべきだったことを瑕疵論で検討することとなる。また,これらによることなく,上記のように効果論として賠償額の確定に当たって抗弁として考慮することも考えられる。

[5]何かあるのか?

[6]工作物の定義(土地に接着して人工的に作業を為したるによりて成立せる物)山本(敬)レジュメ205頁。

[7]民法717条3項は寄与度減責の抗弁を排斥しているのではないかという反論が考えられる。しかし,寄与度減責を出さずに3項の主張をすることもできるので,求償権があることが寄与度減責を必ずしも排斥しているということにはならない。

[8] Zを間接占有者として,民法717条1項本文から請求を立てていくことも考えられる。山本(敬)レジュメ204頁によれば,最判昭和31年12月18日で認めていると考えている模様。