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Ⅱ-2.不動産の譲渡と取得時効,相続による占有の承継

Ⅱ-2 不動産の譲渡と取得時効,相続による占有の承継

第1 XのZに対する所有権に基づく返還請求権としての土地明渡請求権について

  1. 請求原因

(1)XはZが甲土地上に乙建物を所有して甲土地を占有しているとして,その甲土地上の乙建物を収去して土地を明け渡すよう甲土地所有権に基づく返還請求権を主張することが考えられる。この際は請求としては土地を収去して建物を明け渡せとなるが,訴訟物は所有権に基づく返還請求権としての土地明渡請求権1個となる。土地を収去してという記載は,土地を明け渡す旨のみの債務名義では別個の不動産たる建物の収去ができないため,その執行方法の明示のためかかる記載が必要となっているのであり,本来的な訴訟物は土地明渡請求権1個だからである。

(2)ここでの請求原因は①Xが甲建物を現在所有していること,②乙建物が甲土地上に存在すること,③乙建物をZが所有していること,によって基礎づけられる。もっとも,Zは請求原因①を否認しているので,Xとしては甲土地もと所有を主張・立証することで現所有を主張することとなる(権利不変更の原則)。

(3)本件において,Pが甲土地を所有していたことについてはZの権利自白が成立すると考えられるので,そこを起点としてPX間甲土地売買(民法555条,176条)により,Xのもと所有をいうことができる(①充足)。そして,乙建物は甲土地上にあり(②充足),Aがもと所有,A死亡,YはAの子,YZ間売買から,Zはその乙建物の所有者といえる(③充足)ので,請求原因事実はすべて認められる。

  1. 抗弁

(1)Zとしては対抗要件欠缺の抗弁(民法177条)を出すことが考えられるが,これについては再抗弁としてXからの対抗要件具備による所有権喪失の再抗弁が事実上控えており,空振りに終わる可能性が高いのであまり意味がないため割愛する。

(2)ZはYが甲土地所有権を時効により取得した(民法162条)として,Xの甲土地の所有権喪失の抗弁を主張することが考えられる。本件ではAが1980年5月5日のPからの贈与(民法549条)により甲土地の占有を始めており,2000年5月5月で20年が経過している。そうすると,長期取得時効(民法162条1項)が考えられるが,Aは1992年4月4日に死亡しており,Yを子として相続が発生している(民法882条,887条1項)。その後20年経過時点ではYが甲土地を占有していることになるが,YにはAの占有があったといえるのか。これは占有という事実状態が相続の対象となるかが問題となっているものである。この点について,占有は占有訴権(民法198条,199条,200条)や取得時効(民法162条)といった法制度と密接に結び付いており,暴力等から保護をすべきであるから占有にも相続を肯定すべきである。そして,この占有は相続人の下で,被相続人のものと相続人固有のものとが併存していると考えるべきである。

(3)ここまでを整理すると,まず長期取得時効の抗弁の要件事実は,①Aがある時点で甲土地を占有していたこと,②Aが死亡したこと,③Aが死亡時点で甲土地を占有していたこと,④YがAの子であること,⑤Yが①から20年経過した時点で甲土地を占有していたこと,⑥時効援用の意思表示となっている。所有の意思,平穏,公然,善意は推定され(民法186条1項,暫定真実),占有の継続は両端の時間の占有の立証により推定される(民法186条2項,法律上の事実推定)。また,③はAの下で占有が継続していたことと,それがAの相続財産となっていることを基礎づけるために必要となる。そして,①~⑤までは上記説明の下で充足しているとわかる。

 では,⑥はどうか。時効の援用(民法145条)がなければ時効の効果を受けることができないが,時効が援用できるのは「当事者」のみであるが,この「当事者」とは時効によって直接に利益を受ける者とされる。Yは時効の援用によって甲土地の所有権を取得することができるので,「当事者」にあたるといえる。したがって,Yが時効を援用したことをZは主張・立証できればよい。

(4)一方,Zは自身が「当事者」として時効を援用することはできないか。Zは甲土地については単なる賃借人に過ぎないがどうであろうか。自己の建物を土地上に有する土地賃借人においては,土地が賃貸人の所有に属しないことになれば,建物の収去請求を受ける危険がある。他方,土地所有権が賃貸人に属することになれば,みずからの賃借権が保全されるという関係にある。そうだとすれば,自己の建物を土地上に有する土地賃借人も時効によって直接に利益を受ける「当事者」といえる。そこで,⑥としてはa.YZ間の甲土地賃貸借契約の締結,b.ZがYのもとで甲土地の所有権の時効取得を援用する意思表示をしたことを主張・立証すればよい。2001年12月12日にYZ間で甲土地の賃貸借契約(民法601条)が締結しているので(a.充足),ZはYの時効援用の意思表示をすればよい(b.充足)。これによって,抗弁が認められる。

  1. 再抗弁

(1)XはAの占有が他主占有であったと主張することが考えられる。これは民法186条1項で推定される所有の意思の反対事実であり,再抗弁に位置付けられる。所有の意思は権原の性質に従い客観的に判断される。すなわち,①他主占有権原がその要件事実となる。

XはAの甲土地占有がPとの使用貸借契約(民法593条)に基づくとの主張し,これがその主張に当たると考えられるが,本件では甲土地の固定資産税をPとの約定でAが支払うものとされ,現実にもXに登記が移転するまで滞りなくAとその家族により支払いが行われていた事情がある。この事情からZのAP間の契約は贈与契約(民法549条)であるとの積極否認が認められると考えられるので,この再抗弁は認められない。

(2)Zの取得時効の主張に対し、Xはみずからが甲の登記を有することを主張し、Yが甲土地所有権を喪失したと反論することが考えられる。物権は排他的・絶対的権利であることから、取引の安全を図るため公示の必要性が高い。そして、このような公示がなされれば、物権が完全になり他の者は反射的に物権を喪失するということにこの反論の意味がある(175条,一物一権主義)。これはYの所有権喪失を基礎付けるのであるから、再抗弁に位置づけられる。確かに、時効の効果は起算日に遡るが(144条)、実質的には時効の完成時に観念的な物権変動があるとみることが可能である。そうであるとすれば、時効が完成した後に当該物について取引した者は、二重譲渡の譲受人と同視でき、対抗要件具備による所有権喪失の反論をすることが可能であると考える。

この場合にXが主張すべき事実は、①PX間の甲売買契約の締結、②①が時効期間満了時よりも後であったこと、③①に基づく所有権移転登記、であるが、①は請求原因で主張済みであるので改めて主張する必要は無い。

本件においては,PX間の甲売買契約が2001年1月10日に締結されており、時効期間満了時は2000年5月5日であるから、Xは時効完成後の第三者にあたる(②充足)。①の売買契約を原因とするXの甲の所有権移転登記がなされている(③充足)。よって、再抗弁が認められる。

 以上から,Xの請求は認められる。

 

第2 XのYに対する所有権に基づく返還請求権としての土地明渡請求権について

  1. 請求原因

(1)Xは,Yに対して,甲土地の所有権に基づいて甲土地の明け渡しを求めることができる。その際は,建物を収去してとの執行方法の明示が必要となることについては上述の通りである。ここでXが主張すべき事実としては,①Xが甲土地を所有していること,②甲土地上に乙建物が存在していること,③Yが乙建物を所有していること,である。

(2)本件で,①と②が充足されているのは上述の通りである。乙建物はAが1985年6月6日に建築しており,そのAが1992年4月4日に死亡したことによって,その子であるYが相続していることから,Yは乙建物を所有しているといえる(③充足)。

  1. 抗弁

(1)Yはこれに対して,自己は乙建物の所有権を喪失しているとして反論することが考えられる。ここでYは,①YZ間乙建物売買契約の締結を主張すればよい(民法555条,176条)。

本件で,YZは2001年12月12日に乙建物の売買契約を締結しているので①を充足する。

したがって,抗弁も認められる。

(2)取得時効の抗弁

 省略

  1. 再抗弁

(1)XとしてはYの乙建物の所有権喪失の抗弁に対して,その所有権喪失はXに対抗できないものであると反論することが考えられる。これは相手方が地上建物の譲渡による所有権喪失の主張に対して,土地所有者がその所有権喪失を否定して帰属を争っている点で,あたかも物権変動における対抗関係と同視可能であり,民法177条も物権の得喪について定めていることから,喪失についても対抗問題として考えることができる。これは民法177条の取引安全のためという本来的な適用場面ではないが,次の点から同条の趣旨に照らして適用を認めてよいと解される。すなわち,所有権の移転は意思主義(民法176条)に基づくものであることから,その所有権者の特定が困難であり,このような土地所有者を保護する必要性は高いこと,工事の原則(民法177条)から公示を怠った者へは帰責性が認められること,土地利用権原がなければ地上建物はいずれにせよ収去される運命にあるので,建物所有者を保護する必要性は低い。

そうすると,ここでXが主張すべき要件事実は,①乙建物の登記名義がYであること,②①の登記がYの意思に基づくものであったこと,③権利主張として,YZの乙建物売買について,Zが登記をするまで,Yの乙建物所有権喪失を認めないが必要となる。

(2)本件において,Yは1995年7月14日(A)相続を原因とする乙建物についての所有権移転登記を有している(①充足)。また,YはAの相続人であるから(民法887条1項),その相続に基づく登記はYの意思に基づくといえる(②充足)。したがって,Xは③の権利主張をすれば,再抗弁が認められる。

 

第3 YのXに対する所有権に基づく妨害排除請求権としての所有権移転登記請求について

  1. 請求原因

(1)YはXに対して甲土地の所有権に基づいて甲土地所有権移転登記を請求することが考えられる。占有以外の態様で物権が侵害されているため,これは妨害排除請求にあたる。妨害を「排除」するのであるから、YはXに対し甲土地所有権移転登記の抹消登記手続を求めるのが本来であるが、それでは登記がXからP、A、Yと順次移転することになり、Yにとって時間や費用がかかる。また、Xから直接Yへの移転登記を認めても、物権の現在の状態を公示するという登記制度の最小限の目的は害されない。したがって,上述のような請求となる。

 この場合,Yが主張すべき事実は,①Yが甲土地を所有していること,②甲土地の登記名義がXであること,である。

(2-1)本件において,Yの所有は長期取得時効(民法162条1項)をもとに基礎づけるので,a.Aの1980年5月5日甲土地占有,b.Aの1992年4月4日死亡,Aの1992年4月4日時点での甲土地占有,d.YはAの子,e.Yが2000年5月5日甲土地占有,f.Yによる時効援用の意思表示によって①が基礎づけられる。

(2-2)また,Yの所有は短期取得時効(民法162条2項)によって基礎づけることも考えられる。すなわち,そこではa.Yが1995年6月6日に甲土地占有,b.Yが2005年6月6日甲土地占有,c.a.時点でYの無過失の評価根拠事実,d.Yによる時効援用の意思表示によって,①が基礎づけられる。

 そこでa,b,dは認められるが,c.についてはYが甲土地は自己の所有であると信じたことを基礎づける具体的事実の主張が必要となる。本件では,Aから甲土地はPから贈与を受けた旨聞いていたこと,そしてそのAからYは相続していること,固定資産税はA及びその家族Yが支払っていたこと,がその具体的事実となる。したがって,①が基礎づけられる。

(3)他方,②の甲土地の登記名義Xも認められることから,請求原因は基礎づけられる。

  1. 抗弁

(1)長期取得時効と根拠とする時効取得の主張を基礎とした請求原因に対して

XはAの占有の他主占有性を主張して,民法186条1項による所有の意思の推定(暫定真実)を覆すための抗弁を主張することが考えられる(占有の他主占有性の抗弁)。具体的には,①Aの他主占有権原または他主占有事情を主張すればよい。

本件では,Aの占有が使用貸借契約に基づくものであったという事実を主張・立証することでAの他主占有権原が認められる。これによって抗弁が認められる。

ここで再抗弁についても考えると,占有の他主占有性の抗弁に対しては,自主占有の転換があった旨を主張立証して反論していくことができる。ここでは1985年6月6日からAの占有が開始し,2005年6月6日に時効が完成することになるが(要件については,2(2)参照のこと),このとき2001年1月10日に甲土地を譲り受けたXは時効完成前の第三者となる。そうすると,時効完成前の第三者との関係では両者は前主・後主として当事者の関係に立つため,Xは後述の対抗要件の抗弁等を主張することが妨げられることとなってしまう。事実上,Xは他主占有性の抗弁を主張することはないといえる。

(2)そこで,Xとしては対抗要件具備による所有権喪失の抗弁を主張することが考えられる。すなわち,本件でYが主張する時効取得は2000年5月5日に完成しており,Xが甲土地を買い受けたのは2001年1月10日であることから時効完成後の第三者に当たる。時効取得者たるYは登記が可能であったにもかかわらず,登記を懈怠した責任としてこのような場合はXが登記を具備した場合は所有権を喪失しても仕方ないと考えられる(民法175条,一物一権主義)。そこでXは,①PX間甲土地売買契約の締結,②PX間の甲土地売買契約が時効期間満了よりも後であったこと,③①に基づく登記を主張・立証すればよい。

本件で,①PXは甲土地を2001年1月10日に代金1500万円で売買しており,②それは時効完成の2000年6月6日より後である。そして,Xは①に基づく登記を2001年1月10日に行っている。したがって,Xの抗弁が認められる。

(3) 短期取得時効と根拠とする時効取得の主張を基礎とした請求原因に対して

 他主占有者からの相続人の抗弁が考えられる。すなわち,Aが他主占有であり,それをYが相続したという主張をするものである(占有の相続については前述)。そうすると,Yの占有は他主占有であったことが基礎づけられ,民法186条1項によって推定された(暫定真実)所有の意思が覆されることになり,これは抗弁に位置付けられる。

 そこでXは①Yの甲土地占有は,Aの相続を原因とするものであったこと,②Aの甲土地占有が他主占有(他主占有権原or他主占有事情)であったことを主張立証すればよい。

 あてはめ省略

  1. 再抗弁

(1)他主占有者からの相続人の抗弁に対しては,Yの固有占有の自主占有性を再抗弁として主張することが考えられる。ここでは①Yの所有の意思による甲土地の占有(自主占有権原or自主占有事情)と主張・立証することとなる。

 あてはめ省略

以上