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Ⅱ-3.動産の転々譲渡と即時取得

Ⅱ-3.動産の転々譲渡と即時取得

第1 XのYに対する所有権に基づく返還請求権としての甲引渡請求について

  1. 請求原因

 XはYに対して,甲の所有権に基づく物権的請求権としての返還請求権によって甲の引渡しを求めることが考えられる。物権はその適法な所有を侵害する占有を除去して,その回復を図ることが認められているため,かかる請求権が認められており,その請求原因は①Xの甲現所有,②Yの甲現占有である。本件では,①少なくとも2004年10月20日時点でのXのもと所有は認められると考えられるから,それによってXの現所有が認められる(権利不変更の原則)。また,②Yの甲現占有も認められる。したがって,請求原因はある。

  1. 抗弁

(1)検討

これに対して,Yとしては,Aの甲の即時取得(民法192条)又はYの甲即時取得を基礎づけることで,Xの所有権が喪失したとする所有権喪失の抗弁を主張することが考えられる。

(2)Yの即時取得によるXの所有権喪失の抗弁

 Yは自己が動産甲を即時取得(民法192条)したとして,Xの請求を障害していくこととなる。そこでの要件事実は①AY間の甲売買契約の締結,及び②①に基づくAからYへの甲の引渡しである。このような整理となるのは,民法192条の要件のうち,平穏,公然,善意は民法186条1項の暫定真実規定により推定され,無過失は前占有者Aの占有は民法188条1項より適法なものと推定されるから,そこから占有を取得したYの無過失は推定されると考えられるからである。そうすると,取引行為によって動産を取得したことが認められれば,民法192条による即時取得が認められ,要件としては上述のようになる。

 本件では,①2004年11月11日にAY間で甲を300万円で売るとの売買契約が締結されており,②同日その契約に基づく引き渡しが行われていることから,上記要件をみたす。したがって,Yの抗弁が認められることとなる。

(3)Aの即時取得によるXの所有権喪失の抗弁

 同様にYはAが即時取得により甲を原始取得しているからXはその所有権を喪失していると主張することもできる。要件は①PA間の甲売買契約の締結,および②①に基づく引渡しである。あてはめ省略⇒認められる。しかし,以下ではYの即時取得に限って再抗弁・再反論以下を検討することとする。

  1. 再抗弁

(1)検討

XとしてはこのYの即時取得の主張に対してどのような反論が考えられるか。これについて,まずXとしては即時取得の成立を障害する事由として,甲の占有取得時のYの強暴・隠避等を主張することも考えられるが,これは本件では筋が悪い。そこで,甲の占有取得時の悪意・有過失の再抗弁が検討される。ここで甲の占有取得時の悪意・有過失を問題とするのは,即時取得は即時の時効取得制度といわれていたような制度的沿革に基づくものである。

(2)Yの悪意の再抗弁・有過失の再抗弁

ここでの悪意とはAが権利者だと信じていなかったことであり,有過失とはAが権利者だと信じたことについて過失があったことをいう。

本件では,YはAから甲の占有を取得する際には,Aとの20年にわたる取引状況,版画甲についての取得の経緯等を聞いたことからして,Aが甲の権利者であると信じているといえる。したがって,悪意は認められない。

一方,有過失については,Aを権利者として信じるに足りる調査を行ったといえるかどうかが問題となる。確かに,Yは古美術品を扱う専門家であり,その品物の買い取り・販売等に当たっては一般私人と比べれば高度の知見に基づいて判断を行うことができたといえる。しかし,本件で問題となっているのは甲はAの処分権の下にあるかという点であり,そのような判断は一般人と異なった判断ができるとは言えない。そうすると,上記のように,YはAと20年にわたり取引を交わしており,その間にトラブルは一度もなかったこと,Aから説明を受けた内容通りの版画であったことから,Aを甲の権利者と信じたとしても一定の調査を行ったものとして過失はないといえる。したがって,有過失も認められない。

(3)民法193条の位置付け

そこでXとしては,即時取得を認めたうえでの反論をすることが検討されるべきである。ここでは民法193条に基づく盗品等の回復請求権が考えられる。この反論の位置づけについては議論があるところであるが,民法193条は即時取得された動産が盗品・遺失物に当たる場合は,2年間その所有権は原所有者にとどまると考えられることから,即時取得を障害する再抗弁に当たると解すべきである。原所有者にとどまると考えられる理由は,占有者が所有者となるとすると,被害者が賃借人等の場合,本来持っていなかった本権まで回復することが認められることになり奇異であるからである。

 この場合の再抗弁の要件事実は,①甲がXのもとからの盗品であること,②盗難時から2年経過していないことである。①は民法193条の適用の前提として,甲がXからの盗品であることが必要となるからであり,②は民法193条の回復請求は民法192条の例外として2年間に限って認められたものであるから,その例外の権利が行使できることを行使者側で主張・立証しなければならないため,ここに位置付けられる。

 本件では,甲がXのもとからの盗品であることは,2006年3月3日に判明しており,①は認められる。一方,②は,盗難が2004年10月20日であるとすると,そこから2年は2006年10月20日であり,現在は2006年12月6日であることからすれば,請求時点では2年が経過しているため充足しないように思われる。しかし,Xは2006年3月20日に甲の返還を求める文書をもってYのところへ来ており,甲の返還を求める旨を明らかにして表示している。

そこで,2年未経過とは,盗難から出訴まで2年が経過していないことか,盗難から権利を行使する旨の主張まで2年が経過していないことか,この点を検討する必要がある。この点について,まず2年の期間制限は除斥期間だと解される。そして,この除斥期間は権利保全を目的とするものであって,権利の保全は権利行使の旨を相手方に明らかにすることで十分と考えられる。したがって,この②の2年未経過とは,盗難から権利を行使する旨の主張まで2年が経過していないことだと解すべきである。

そうすると,本件では盗難から2年経過前にXが権利を行使する旨を文書で示しているといえるので,②も充足する。よって,Xの再抗弁が認められる。

  1. 予備的抗弁以下

(1)YはXからの上記再抗弁によって,盗品をXの所有権に基づいて返還しなければならないことを前提とした予備的抗弁として,民法194条に基づく甲の代価と甲の引渡しの引き換え給付を主張することが考えられる。

(2)そこでの要件事実は,①AY間の売買契約の際に,Aが甲と同種の物を販売する商人であったこと,②①の売買契約に基づいて,YはAに代金300万円を支払ったこと,③Xが甲の代金300万円を提供するまでは,YはXに対する甲の引渡しを拒絶するとの権利主張である。ここで民法194条は「善意で買い受けた」と定めていることから,要件としてYの善意を必要とするように思える。しかし,民法188条が占有者は適法な占有を有するものと推定していることから,Yは前占有者Aの占有を適法なものとして取引関係に入ったと考えられるので,Yの悪意の主張・立証が抗弁(ここでは再抗弁)に回ることになると考えるべきである。したがって,上記のような要件となる。

 そして,本件においては,AYの売買契約時,Aは絵画・彫刻を取り扱う商人であり,甲は版画であることから絵画に含まれることから①をみたす。そして,②Yは当該売買契約に基づき代金300万円をAに支払っている。したがって,Yは③同時履行(民法533条)を求める権利主張をすれば予備的抗弁も成立する。

(3)Xはこれに対して,Yの悪意・弁済の提供・弁済・古物商Yによる買受を再抗弁として主張することが考えられるが,割愛する。

 

第2 YのXに対する代価請求について

  1. 請求原因

(1)YはXに対して乙についての代価400万円を請求していきたい。このとき民法194条による請求が考えられるが,民法194条は取得者に請求権まで認めたものであるのかは検討の余地がある。条文の文言としては単なる抗弁権を認めたように読めるからである。

(2)この点について,民法194条は,取引安全のために,取得者をして代償の弁償なくしては物を回復されないとの地位に置いたのであるから,原所有者は,代価を支払って,物を回復するか,物の回復をあきらめるかの選択の自由はあるが,代価を支払わずに物を回復することまでは許されていないというべきである。また,単なる抗弁権に過ぎないとすると,自分が買い受けているものが盗品又は遺失物だというので素直にこれを被害者または逸失主に返還した正直な占有者は弁償を受けることができないのに,かえってどこまでも返還を拒んだ占有者の方は代償を受け得るという,不可解な結果を生じうる。これらの理由からして,民法194条を根拠とした代価請求を請求権として認めるべきである。

(3)そして,Yの民法194条に基づく代償請求は,Yが即時取得(民法192条)をしつつも,民法193条によりXからの回復請求が認められる場合に,その代価分を代償として求めるものであるから,その請求原因は以下のようになる。

①Yの乙所有権取得としてのa.AY間の乙の売買契約締結,b.a.に基づくAからYへの乙の引渡し,②①a.に基づくAからYへの代金400万円の支払い,③乙がXのもとからの盗品であったこと,④①a.の際にAが乙と同種の物を販売する商人であったこと,⑤XがYから乙の占有の返還を受けたこと。①によってYの即時取得を基礎づけ,③によってXの回復請求が認められること[1]を基礎づける。その上で,民法194条が認められるための要件として②ないし④,⑤を必要とするのである。特に⑤はXが乙の回復を求めており,そのような主張の下で乙を返還したのだから民法194条による代償請求がYに認められるとの帰結をもたらすために必要なものである。

本件では,①a.b.,②,③,④は第1の甲と同様に考えてみたす(あてはめ省略)。⑤については,XがYの下から無理矢理乙を持って行ったもので「返還」といえるかが問題となる。この⑤の要件が必要とされる趣旨は,上記のように,Xが乙について代償を支払って回復するか,回復をあきらめるかの選択を与えられており,前者を選んだのであれば,YはXの回復の対価としての代償請求が認められるべきというものである。そうすると,Xがそのものの回復を選んだという点が重要なのであり,それが強制か任意かという点が重要なのではない。本件は,Xが無理やり乙を持って行ったということは,Xが物を回復するという意思を明確として乙を引き取ったと考えれば,⑤を充足する。したがって,請求原因が認められる。

  1. 抗弁

(1)即時取得の否定⇒×

(2)古物商による買受⇒省略

(3)Yの悪意⇒×

以上

 

[1]このとき2年の未経過は必要なのか。