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Ⅲ‐2.消滅時効

Ⅲ‐2.消滅時効

1.BのGに対する抹消登記請求

(1)Bはその所有する甲土地に,G株式会社の所有権移転登記の登記名義があるため,その所有権に基づく妨害排除請求により所有権移転登記抹消登記手続請求をしていくこととなる。所有権の円満な保持が登記によって害されているため,これは所有権の効力としてその妨害を排除する権利としての物権的請求権としての請求である。

(2)Bのそこでの主張すべき請求原因は,①Bの甲土地現所有,②Gの名義の甲土地所有権移転登記の存在である。

これについて,Bの甲土地現所有はGの抗弁が主張してくるであろう抗弁の法的性質次第という問題もあるが,少なくともBは1998年5月11日当時,甲土地を所有していたとはいえるので,権利不変更の原則により,Bが甲土地を現在所有しているということができる(①充足)。一方,甲土地にはG名義の所有権移転登記がある(②充足)。したがって,請求原因は認められる。

(3)これに対して,Gは甲土地の所有権移転登記は,GがS株式会社に4000万円の貸し付け(民法587条)を行うにあたって,その債権(以下,「α債権」とする。)の担保のために,Bが甲土地を譲渡担保に出したことが原因であると反論することが考えられる。ここで譲渡担保の法的性質は,目的物の所有権を債権者に移転させて,債権者はその所有権を担保権のために保持するという債権的制約のかかったものである(所有権構成)とすると,かかるGの反論は,甲土地の所有権喪失の抗弁に当たる。

 この抗弁が認められるための要件は,①被担保債権の発生原因としての,a.GS間の金銭返還の合意,b.金銭の交付,c.弁済期の合意,②GB間での譲渡担保設定契約,③②の当時,Bが甲土地を所有していた,④②に基づく所有権移転登記である。ここで被担保債権の存在を主張する必要があるのは,譲渡担保があくまで担保を目的とした物権設定行為であり,物権行為の独自性が認められていない我が国においては,その物権行為の原因となる債権の存在が必要となるからである。

 本件では,GはSに対して,1988年5月11日,弁済期を2000年5月11日として,4000万円を貸し付けており(①充足),その際にBはその所有する甲土地をGに対して譲渡担保とする合意をし(②,③充足),その契約に基づいて登記をしている(④充足)。したがって,抗弁も認められる。

(4)BはさらにGからのこの反論に対して,被担保債権はすでに消滅時効となっており,その援用により,譲渡担保権もその附従性から消滅したとの主張をすることが考えられる。これは譲渡担保権の抗弁に対して,消滅時効を前提とした新たな請求原因を主張するものであり,予備的請求原因となる。そこで主張すべき請求原因は,すでに表れている請求原因事実のほか,①S会社とG会社が株式会社であり,その事業のために行われた金銭消費貸借であること(会社法5条),②債権項行使できる時から5年が経過したこと(商法522条),③当事者による消滅時効の援用の意思表示(民法145条)である。

 本件において検討するに,SとGは株式会社であり,α債権は事業のための借り入れがなされたものである(①充足)。α債権の弁済期は2000年5月11日であり,権利行使ができる日はこのときからであるが,そこから5年,すなわち2005年5月11日は経過している(②充足)。

では,当事者による時効援用の意思表示はどうか。ここでの当事者とは,時効の援用によって直接利益を得,または義務を免れる者をいう。Sはこの当事者に当たることは問題ない。したがって,Sが時効を援用すれば③も充足ということになる。(事例①)

(5)しかし,SがGの求めに応じて,α債権について,次の場合において,債務承認書を差し入れていた場合は,Gとしては反論が考えられる。

ア.消滅時効完成後に差し入れていた場合(事例②)

 この場合は,時効完成後であるにもかかわらず,SはGに対して,α債権の存在を自認しているということになる。それにもかかわらず,時効の援用を許すのは,Sの矛盾挙動を許す結果となるし,債務承認書によって債権の返還に対して期待を有することになってにもかかわらずそれに反することとなり,信義則(民法1条2項)に反する。したがって,この場合,Sは時効援用権を喪失ないし放棄したものとして,時効を援用することはできない。

イ.消滅時効完成前に差し入れていた場合(事例③)

 この場合は,Sの行為は,時効の中断(民法147条3号)事由に当たり,Sはその時効を援用することはできない。

(6)Bとしては,Sが時効を援用できない場合は,自己を当事者として時効の援用を行うことが考えられる。Bは譲渡担保権者であることから,α債権の消滅により,甲土地の所有権を回復する地位にある。したがって,時効の援用により直接利益を受けうるものとして,時効の援用権がありそうである。

 しかし,Bは独断でSG間のα債権およびBG間の譲渡担保契約の期間の延長をSの自称代理人として行っていたという経緯がある。このようなBが時効の援用を行うことは,矛盾挙動であり,相手方の期待にも反することから,Sと同様に時効援用権は信義則上制限されると解すべきである。したがって,Bは時効の援用ができない。

 よって,Sが時効の援用ができず,bが時効の援用もできない場合は,Bの請求は認められない。

 

2.GのHに対する抹消登記請求

(1)Gは,Hに対して,甲土地についている抵当権設定登記が自己の甲土地所有権を侵害しているとして,所有権に基づく妨害排除請求権としての抵当権設定登記抹消登記手続請求をしていく。

(2)Gがそこで主張すべき請求原因は,①Gの甲土地現所有,②甲土地にHの抵当権設定登記の存在である。

 本件では,a.Bによる1998年5月11日甲土地もと所有,b.SとGの間で1998年5月11日金銭消費貸借契約締結,c.bについて同日GBの譲渡担保設定契約により,1998年5月11日当時のGの甲土地もと所有が基礎づけられ,権利不変更原則により,Gの現在所有が認められる(①充足)。一方,甲土地にHの抵当権設定登記は存在している(②充足)。したがって,請求原因は認められる。

(3)Hはこれに対して,当該抵当権設定登記はHB間の金銭消費貸借契約に基づいて設定されたものであり,これを理由とする登記保持権原の抗弁を主張することとなる[1]

 そこで主張すべき要件は,①被保全債権の存在(内容については,上記とほぼ同様),②GH間の抵当権設定の合意,③②の当時,Bが甲土地を所有,④②に基づく登記である。本件では,1994年4月1日にHがBに対して弁済期を定めず8000万円を貸し付けており(①充足),それについてのその当時Bが所有していた甲土地(③充足)に,抵当権設定をする契約がHB間でなされ(②充足),それに基づいて抵当権設定登記がなされたものである(④充足)。したがって,抗弁も認められる。

(4)Gはこれに対して,抵当権の被担保債権となった債権(以下,「β債権」とする。)の消滅時効を主張して,その附従性により抵当権が消滅したとの再抗弁を主張することが考えられる。そこで主張すべき要件は,①被保全債権が商行為によって生じたものであること,②権利の行使が可能なときから5年が経過したこと,若しくは①②に代えて,①′権利の行使が可能なときから10年が経過したこと,①③当事者による時効援用の意思表示である。

 ①,②ないし①′はみたすという前提で考える。ここでBは被担保債権の消滅により抵当権の負担から解消されるため,義務を免れるものとして時効援用権を有する当事者といえるが,Bはこの時効の援用を拒んでいる。したがって,Gが当事者として時効を援用できるかが問題となるが,Gは抵当不動産の第三取得者に当たり,抵当権の負担を免れることでその所有権に伴う負担を免れることとなるため,時効の援用により直接利益を得,または義務を免れるものといえる。したがって,Gは時効を援用すれば,再抗弁が認められる。

(5)仮に,譲渡担保権について担保権構成を採った場合はどうか。譲渡担保権について,所有権を移転させ,その処分の制約が債権的なものにとどまるとすると譲渡担保権者に過度に有利な結果となる。そこで譲渡担保はその名の通り担保権として把握すべきであり,目的物の所有権は設定者に残り,譲渡担保権者は目的物について担保権のみを取得すると解する。

 そうすると,Gはその譲渡担保について,その侵害があった時にその除去を求める侵害是正請求権があることを前提に,それをBに対する被保全債権として,BのHに対する時効援用権を債権者代位権(民法423条)によって行使していくことが考えられる。

 そこでの請求原因は,①被保全債権としての譲渡担保(金銭消費貸借契約+譲渡担保権設定+当時所有+基づく登記)に基づく侵害是正請求権の存在,②代位行使する権利の発生原因として時効の援用権(権利行使の時から10年経過等),③保全の必要性(債務者の無資力等)である。

 本件について検討するに,抵当権はその登記自体が存在するだけであり,その後順位にある譲渡担保権に対しては侵害があるわけではない。そもそも,時効の援用を自己が当事者の立場でできる以上は,Bの時効の援用権を行使する必要性がなく,代位の必要性を欠く。また,Bが時効援用を拒んでいるのは,取引の継続等を念頭に,Hに対して事項を援用する諸々の不利益のことを考えてということもあり,無資力要件も含めた保全の必要性には疑問がある。そうすると,この請求原因①,③は代位者の当事者適格を基礎づけることにもなるところ,本件は保全の必要性が認められず,被保全債権も存在しない。したがって,請求原因もみたさないし,当事者適格もなく訴訟要件を欠くことから,この請求は認められず,訴えても却下されることとなる。

以上

 

[1]譲渡担保権の所有権に基づく物権的請求権ということは,その所有権が抵当権の負担を負わないという意味で,譲渡担保権が抵当権より先に設定されたものとの主張はいらないのか?