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Ⅲ-3.保証債務

Ⅲ-3.保証債務

1.XのY1に対する保証債務履行請求

(1)Y1はY2とともにAがXに対して有する一切の取引上の債務について保証する旨の保証契約を締結している。そこでXはY1に対して,この保証債務の履行を求めていくことが考えられる。ここでのXの請求権は保証契約に基づく保証債務履行請求権であり,それを基礎づけるためには,①被担保債権としてのAX間の金銭消費貸借契約,AX間の売買契約,利息,遅延損害金を,②XY1の間で根保証契約が締結されたことを主張立証していく必要がある[1]

保証契約において,保証債務の範囲は主たる債務に関する利息,損害賠償等を包含するものとされているので(民法447条1項),これは被担保債権とすることができる。一方,本件でY1はA会社の代表取締役として,A社がXから4000万円の融資を受けるにあたって保証をしているので,商行為としてのものであり,商法511条2項から連帯する旨の表示がなくとも連帯保証契約となる。しかし,連帯保証であることは,Y1が催告の抗弁(民法452条)や検索の抗弁(民法453条)を抗弁として提出してきた場合の,再反論としての再抗弁となるのであって,連帯保証であることまで請求原因で言わなくともよい。よって,以上の要件事実を主張する必要がある。

(あてはめ省略)

(2)Y1はXからのこの請求に対して,催告の抗弁,検索の抗弁を主張することは考えられるが,上記のように連帯保証の再抗弁が想定される。すなわち,Aが株式会社であることを主張すれば,株式会社の法律行為は商行為となり(会社法5条),商法511条2項の適用が基礎づけられるため,Y1のこの抗弁は認められない。

 そこで,Y1としては,XY1の間で締結された保証契約は根保証契約であるが,極度額の取り決めがなく,この極度額は限定された範囲にしか及ばないと主張していくことが考えられる。本件では,Aの借り入れについて,Y1は自己の保証契約の外に自宅に根抵当権を設定している(民法398条の2)。Y1の保証の範囲はこの根抵当権の極度額の範囲内に限定されると主張するのである[2]

 根抵当権の極度額が専ら将来拡大するであろう取引の範囲に見合うように設定され,その限度で担保物件の担保価値を把握すれば足りるとして定められた場合に主張が認められるとも考えられる。しかし,本件においては,Y1はA社の代表取締役であり,他に専務取締役Y2もこの保証契約を締結しており,その場合に代表取締役のみが極度額の制限を受けるというのは代表取締役の会社に対する責任の重さに鑑みても奇妙である。また,Y1は6000万円の極度額の根抵当権の設定後も,4000万円に加えて,幾分か借り入れを行っている。そうすると,この6000万円を超える部分については,人的保証でまかなう意思があるともいえる。したがって,根保証契約の極度額は根抵当権の6000万円にとどまるものとは言えず,Y1の抗弁は失当である。以上から,Xの請求が認められる。

 

2.XのY2に対する保証債務履行請求

(1)請求原因は同じ。

(2)Y2は自己の連帯保証債務の範囲は取締任期中のもののみとする合意があったと主張していくことが考えられる[3]。しかし,そのような合意はなかったことから,この抗弁は認められない。

 そこで,Y2はさらに信用喪失による保証契約の解約を主張することが考えられる。保証契約は高度の信頼関係に依拠しているから,保証人が主たる債務者への信頼をなくしたときに,主たる債務者に看過できない損害が生じるなど特段の事情のない限り,保証契約が解約できるというものである。しかし,仮にこの解約が認められたとしても,これは将来効であり,すでに発生した債務については責任を負う。したがって,本件請求について,Y2のこの主張は失当であるため,主張しない方がいい。

 以上から,抗弁として効果的なものはなく,Xの請求が認められる。

 

3.XのY3に対する保証債務履行請求

(1)請求原因は同じ。

(2)この請求に対して,Y3は詐欺取消しの抗弁を主張することが考えられる(民法96条1項,121条)。保証契約が取り消されれば,当該契約は遡及的に無効なものとなり,Y3はこの債務の責任を負わない。本件では,Y3はY1から虚偽の財務諸表を見せられたため,Aに資力があると誤信して保証契約を締結しているが,保証契約はY3とXの間の契約であるので,第三者の詐欺によって意思表示がなされた場合に当たる。したがって,第三者詐欺として(民法96条2項),Y3が意思表示を取り消すためには,①Y1の詐欺の故意,詐欺の事実,Y3がそれによって錯誤に陥って意思表示をしたこと,②Xの①についての悪意,③取消しの意思表示を主張,立証する必要がある。

 Y3はY1から虚偽の財務諸表を見せられて,Aの資力につき,誤信して意思表示を行っている。保証契約において,主たる債務者の資力は,保証契約締結においての動機に過ぎないが,この動機についても民法96条1項は射程に含んでいるとみることができるので,これらの行為により①は充足する。しかし,①について,Xは善意であることから②を充足しない。

 よって,詐欺による取消しは認められない。

 では,錯誤無効はどうか(民法95条)。この点について,主たる債務がどのような内容のものかについての錯誤であれば,保証契約が特定の主たる債務を保証することを目的とした契約であることから,法律行為の内容の要素となると考えられる。しかし,Y3は虚偽の財務諸表であるとはいえ,一定の債務があることは覚知しながら保証契約を締結している。そうすると,主たる債務が全く無いとかおよそ別物であるといった事情がない限りは,その錯誤は法律行為の内容の要素にならないと考えるべきである。したがって,Y3には錯誤がないため,この抗弁も認められない。

 以上から,Xの請求が認められる。

 

(3)※変形事例

 Y3はXに対して,XはY1から3000万円の弁済を受けていることから,Y1の保証債務の一部履行によって,その担保の目的が達成されたため,主たる債務はその限度で当然に縮減し,附従性により保証債務も縮減したとして,支払い責任縮減の抗弁を主張することが考えられる。

 そこでは,①Y1の保証契約の締結,②①に基づく債務の履行としての3000万円の弁済,(③Y2の保証契約の締結,④①及び③と請求原因の保証契約が連帯保証であり保証連帯であること)の主張立証をすればよい。

 (あてはめ省略)

 また,Y3は,AがXに対して有する債権があることからその限度で債務の履行を拒絶するとの抗弁を主張することが考えられる。民法457条2項は,「保証人は,主たる債務者の債権による相殺をもって債権者に対抗することができる」とあるが,これについて主たる債務者の意思決定によらず,その債権を処分することまで保証人に許されると解すべきではないから,保証人は主たる債務者の有する債権の限度でその債務の履行を拒めると解釈されるべきである。

 そこでは,①AのXに対する債権の発生原因,②①の限度で支払いを拒絶する旨の意思表示を主張立証すればよい。

 (あてはめ省略)

※変形事例において,Y3がXに9000万円の弁済をしたとき,すでに3000万円の弁済を受けているXは二重の利得をしていることとなるため,不当利得の問題が生じるが,この請求をする者,すなわちこのときのXの無資力の危険を引き受けるのは誰かという問題がある。

 これについては,保証連帯については,民法465条1項の準用する民法463条がさらに準用する民法443条によって決せられる。Y1は弁済するにあたって,事後の通知も事前の通知もしていないが,Y3も同様にこれを行っていない。このときにどうするか。これについては,事前の通知が事後の通知の前提であることから,後からした弁済はそれを有効と主張することはできない(民法443条1項)。したがって,Y3は9000万円のうち,Y1が先に弁済した3000万円分については自己の弁済を有効と主張できず,自己がXの無資力の危険を引き受けて,不当利得の返還請求をすることとなる。

 

4.XからYらに対する保証債務履行請求

(1)共同訴訟で考えた場合,共同保証人であれば,分別の利益がでてくるところ,連帯保証であれば,各人に全額の履行を請求できる。そこで,共同訴訟による場合は,せり上がりに準じて,①被担保債権の存在,②XとYら各々の根保証契約締結,③連帯保証の合意ないし商法511条2項の適用,(④②が書面で行われたこと)を主張立証する必要がある。

 

以上

 

 

[1]平成16年改正前なので書面による保証契約の締結である必要はない(民法446条2項)。

[2]なお,現在は根保証契約においては,極度額の定めがないと契約が無効になるとされているので,この問題は生じない(民法465条の2第2項)。

[3]大判昭和16・5・23