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Ⅲ-10.不動産譲渡担保

Ⅲ-10.不動産譲渡担保

1.X′→Yへの請求

(1)前提

 Xの破産管財人X′はYに対して,甲の所有権に基づく妨害排除請求権としての所有権移転登記抹消登記請求権を行使して,甲のY名義の所有権移転登記の抹消を求めることが考えられる。

(2)請求原因

 そのための請求原因としては,①Xの甲現所有,②Yの甲所有権移転登記名義保有が必要となる。これについて,①の現所有そのものは主張立証が難しいが,もと所有を基礎づけることができれば権利不変更の原則により,現所有が基礎づけられる。これは充足するものとみられるので,請求原因はある。

(2)反論

ア 所有権喪失の抗弁

 これに対して,Yは,1998年5月11日のXY間の契約によって,Xは甲の所有権を喪失したとして,所有権喪失の抗弁を提出することが考えられる。これについて,本件契約の性質がいかなるものか確定しなければならない。本件契約は,甲を5600万円でXからYへ売却し,Xが2000年5月11日までに5600万円をYに対して支払えば,本件契約を解除してYから甲の所有権を回復することができるとされていることから,本件契約は買戻し特約付き売買契約(民法555条,579条)の性質を有するとも考えられる。

 しかし,本件契約においては,第2項により,Xが期限内に解除権行使金を支払って解除しない限り,Yによる相殺が可能となっており,これによりYはAに対して有する債権の回収を図ることができる。その意味で,本件契約は買戻し特約を付した売買契約ではなく,実質的にみて,AのYに対する債務を保証する性質を有したものであるから,物上保証型の不動産譲渡担保契約であると解すべきである。

 そして,この譲渡担保契約とは,法形式を重視して,当該契約により目的物の完全な所有権が譲渡担保権者に移転するものと解すべきである。このとき,抗弁を基礎づける事実は,①YA間の金銭消費貸借契約の締結,②XY間の譲渡担保設定契約,である。

 これについては,いずれもみたす。

(3)再反論

ア X’はこれに対して,譲渡担保設定契約のもととなる被担保債権を発生させる金銭消費貸借契約における利息が暴利であり,暴利行為により公序良俗(民法90条)に反して無効であると主張することも考えられる。しかし,超過利息は元本充当されることとなっており(利息制限法参照),これが公序良俗に反するとまではいえない。したがって,この再反論は認められない。

イ そこで,X’としては,受戻権の行使により甲の所有権を回復したとの主張を再抗弁として提出することが考えられる。すなわち,被担保債権の弁済期が到来したからと言って,債務者や設定者は,債務を弁済して目的物の所有権を設定者に復帰させる権利を即時に失うわけではなく,その場合であっても,被担保債権を弁済することにより目的物の所有権を復帰できる。このような受戻権は,設定者が目的物の所有権を失うことは大きな不利益であり,できる限り所有権を回復する機会を与えてやるのが権利保護に資すること,譲渡担保権者としても被担保債権の回収さえできれば問題がないことなどから認められるものである。この受戻権は,被担保債権が回収されてこそ両者の釣り合いが取れるのであるから,ここでは担保権者による弁済の受領ないし供託がなされたことが必要となる。

 このとき,①X’がYに対して被担保債権を弁済したこと,が受戻権行使の再抗弁として主張・立証をしなければならない事実である。

(4)保留

 

 

  1. 譲渡担保権者に事前求償権が認められるか

(1)譲渡担保権者は,その法形式上,物上保証人類似の責任を負うものである。したがって,物上保証人に事前求償権が認められるかという見地から検討をすることになる。

(2)この点ついて,抵当権における民法372条の準用する民法351条は事前の求償権を認めていない。これは保証と物上保証は類似する関係があるにしても,前者は債務的負担を伴うのに対し,後者はそうではないところに根拠がある。すなわち,物上保証は委託があったとしても,それは物権設定行為の委任に過ぎず,物上保証人は不動産価額の限度で責任を負うものに過ぎない。また,不動産が実行され,配当が確定するまでは求償の範囲も不明確であり,これは生産の場合も同様である,したがって,事前求償権にかかる民法460条の類推は認められない。

(3)以上から,X’はAに対して事前求償権を行使できない。

 

3.X′は受戻権の放棄の代わりに,Yに清算金の支払いを請求できるか

(1)これについては,受戻権は目的物を弁済によって回復させる権利であり,清算金は担保の実行後,残額を設定者に返還すべき義務であるから,それぞれ別個の権利である。それにもかかわらず,受戻権の放棄といった設定者の行為によって,清算という目的物の実行の時期を決めるのは,担保権者の自由の侵害となりうる。

(2)したがって,かかる請求は認められない。

 

4.X→Zへの請求

(1)前提

ア XはZに対して,反訴を提起し,甲について自己への移転登記手続きを求めることとしている。ここでは,①Xの甲現所有,②甲についてのZ名義の所有権移転登記の存在が請求原因とされ,これについては前述のYをZにかえただけで,認められる。

 しかし,これに対しては,Zから所有権喪失の抗弁がなされることによって,Xの請求は棄却されることとなってしまう。

イ そこで,Xとしては,被担保債権を弁済して受戻権を行使したことにより,甲の所有権が自己に回復したとして,Zに対して甲の登記名義を自己に移転するように請求することが考えられる。これは前述のアの予備的請求原因として位置づけられる。

(2)請求原因

 このときの請求原因事実は,①,②のほかに,③受戻を基礎づける事実として,(ⅰ)被担保債権の発生,(ⅱ)譲渡担保権の設定,(ⅲ)受戻権の行使として,2004年4月5日の合意(代理による合意)による被担保債権額の変更と弁済期の延長,XからYに2006年5月6日に5600万円の弁済の提供?となる。

 

(3)反論

ア 受戻権喪失(③の積極否認)

これに対して,ZはXの受戻権は喪失した,すなわち,甲の売却がなされているのであるから,Xの受戻権はすでに消滅しているとの反論をすることが考えられる。ここでは,2004年の合意が成立していると,弁済期は2006年5月11日となり,処分権が発生していないことになるので,Zとしては,2004年4月5日のXY間の合意はBの無権代理でなされてものであるから,Yに効果帰属せず,すでに被担保債権の弁済期は2004年5月11日に到来しており,これ以降に行われた2006年5月8日のYからZへの甲の処分によって受戻権が喪失したというのである。

しかし,いずれにせよ処分前の2006年5月6日にXはYに対して,弁済の提供を行っているのであるから,XのYに対する債務は債務不履行に陥っていない(民法492条)。そうすると,債務不履行でもないにもかかわらず,行われた処分清算は違法であり,Xは受戻権を失っていないというべきである。したがって,この主張は失当である。

イ 対抗要件欠缺の抗弁

 そうすると,処分がなされた後でもYに弁済ないし供託を行えば受戻ができる。このとき,Yを起点として二重譲渡類似関係が生じていることになるので,XとZは対抗関係に立つと考えるべきである。

 したがって,Zは対抗要件欠缺の抗弁を抗弁として主張することになる。

 

(4)再反論

 上記イの反論に対して,XはZが背信的悪意者に当たる旨を再抗弁として主張することになると考えられる。