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Ⅲ-11.動産譲渡担保

Ⅲ-11.動産譲渡担保

1.X→Yに対する請求

(1)前提

Xは,Yに対し,所有権に基づく物権的返還請求権を行使することが考えられる。すなわち,BはXに対する貸金債権について,仕事場及び甲土蔵にある制作済美術工芸品及びその材料(以下,「α」という。)を譲渡担保としたが,BはこれをYに譲渡し,Yがこれを占有しているので,その返還を請求するというものである。譲渡担保の法的性質は,その法形式上,所有権を移転させ,設定者・担保権者間にその処分についての債権的制約をかけるというものである。したがって,αを譲渡担保として譲り受けたXはその所有権に基づく物権的請求権を行使することができる。

(2)請求原因

ア このとき,Xの請求を基礎づける請求原因は,①αのXもと所有,②αのY現占有である。①を基礎づけるためには,XB間の金銭消費貸借契約締結,XB間の譲渡担保設定契約,設定時αをBが所有していたこと,αに譲渡担保の効力が及んでいることが必要となる。これらについて,①については譲渡担保の効力が及んでいたかどうかを除いては,これをみたす。②については,YはBを介した間接占有によって占有しているのであるから,これも認められる[1]

イ 譲渡担保の効力が及んでいるかは,αが集合物であり,適宜入れ替わりが起きること念頭とされている点を踏まえた検討を要する。この点については,内容の変動する1つの集合体という観念を認め,その集合物に担保権を設定したものと解する。したがって,αに譲渡担保の効力が及んでいることを言うためには,αが譲渡担保権設定時に譲渡担保設定対象たる集合物の内容として合意されていればよく,αが特に固定化されたことまでは必要としない。もっとも,内容として合意されているためには,その種類,所在,量的範囲による限定で,集合物の範囲が特定されている必要がある。担保の対償が変動するという集合譲渡担保の性質上,設定者に対してどの動産について譲渡担保契約上の義務を負っているかを知らしめ,また担保対象物と非対象物を明確に分けることで取引の安全を図る必要があるからである。

ウ 本件では,対象物の種類,所在場所,量的範囲いずれも本件金銭消費貸借契約書において規定されており,特定は問題なくされているといえる。

(3)抗弁

ア 契約の公序良俗無効(民法90条

 Yは,XB間の譲渡担保設定契約が公序良俗(民法90条)に反して無効であるとして,Xのαに対する譲渡担保権が無効であり,所有権を有していないという抗弁を主張することが考えられる。具体的には,契約締結時における譲渡人の資産状況,当時における譲渡人の営業推移に関する見込み,契約内容,契約が締結された経緯等を総合考慮し,将来の一定期間内に発生すべき債権を目的とする債権譲渡契約について,右機関の長さ等の契約内容が譲渡人の営業内容等に対して社会通念に照らし,相当とされる範囲を著しく逸脱している場合は,特段の事情がない限り,無効であると主張する。

 これを本件についてみると,確かに,αは仕事場と甲土蔵中に固定時までに存在する材料及び作品すべてを含むものであるから,実質的にBの営業財産をすべて担保に取ってしまうことになり,Bの営業活動を不当に害することになりそうである。また,これはBの営業の危機時期に締結されたものという点からも,交渉力の非対等性をもってなされたうたがいもある。しかし,XB間の譲渡担保契約においては,Bは権利実行の通知があるまではXの同意なく作った作品を売却することができるとされており,Bにおいて通常の営業活動は支障なく行うことができたというべきである。また,Bはこの得た資金で経営の立て直しを図ろうとしていたのであって,このような危機時期にお金を貸すことが不当であると類型的に見ることこそ妥当でない。したがって,公序良俗に反するようなものとはいえず,この主張は認められない。

イ 所有権喪失の抗弁

 Yは,譲渡担保設定者には,その通常の営業の範囲内で,譲渡担保の目的を構成する動産を処分する権限が付与されており,この権限内で処分された相手方は当該動産について,譲渡担保の拘束を受けることなく,確定的に所有権を取得するのであるから,Bからαの処分を受けたYは確定的に所有権を取得しており,Xはこの反面所有権を喪失したものであるとの抗弁を主張することが考えられる。構成要件の変動する集合動産を目的とする譲渡担保においては,集合物の内容が譲渡担保設定者の営業活動を通じて当然に変動することが予定されているのであるから,譲渡担保設定者には,その通常の営業の範囲内で譲渡担保の目的を構成する動産を処分する権限が付与されているのである。

 本件についてみると,契約当事者がYA間かYB間かが明らかではないが,Bは実質的には法人成りしたAの個人会社であり,Aは会社の窮状を救うためBを代表して契約を締結したものとみるのが自然であるから,本件契約はYB間でなされたものといえる。では,本件売買契約は通常の営業の範囲内の契約といえるか。確かに,Yは危機時期にあるBの建て直しを企図して本件売買契約を締結しているため,通常の営業の範囲内であったとも評価できそうである。しかし,工芸家が通常の営業で材料まで売るということは通常はありえないと考えられるし,売買契約において売買価格は当事者が最重要視する要素のひとつであるところ,市価2000万円を半額の1000万円で売買するということは通常はありえない。これは債権者平等の原則に反する結果を生む。したがって,本件売買契約は通常の営業の範囲を超えたものといえるのであるから,Yは通常の営業によってαの所有権を取得したとは言えない。この抗弁は認められない。

ウ 集合物からの離脱

 仮に不当な処分だとしても,抵当権の公示方法が登記であるのと異なり、集合動産譲渡担保のそれは引渡し(民法178条) であるから、担保権のうちすくなくとも集合動産譲渡担保については、この公示の衣から抜け出した動産については第三者の信頼を保護すべきである。すなわち、対象動産が社会通念上同一と認められない場所的移動をした場合は、第三者としては対象動産が担保権の対象から抜けた、すなわち集合物から離脱したと主張できると解すべきである。ゆえに、Yのこの主張は正当な根拠に基づくものとして是認できる。なお、工場抵当権の対象となる動産が無権限の代表者により売却されて工場から搬出された事例において抵当権の効力が及ぶと判断した判例があるが、上記判例は本件と事案を異にするため、抵触はしないと考える。

 本件において,確かに甲と乙とは別個の土蔵ではある。しかし、両方とも隣接しており、同じ敷地内にあるものである。したがって、甲から乙土蔵への移動は離脱にはあたらない。この抗弁は認められないということになる。

エ 即時取得の抗弁(民法192条)

 この抗弁は認められない。占有改定によって,即時取得は成立しない。確かに,本件では少なくとも甲から乙への移転はあるが,Bの占有下での物の移転である以上,そこに差異はないというべきである。

オ 対抗要件欠缺の抗弁

 Yとしては、民法178条の第三者として、Xが対抗要件を具備するまではXの所有権を認めないと主張することが考えられる。ここでいう第三者とは、当事者およびその包括承継人以外の者であって、引渡しの欠缺を主張する正当な利益を有する者である。177条の解釈と同様、物権変動の主張を否定できなければ当該動産に関する権利ないし法的地位を失うか取得できなくなるものが該当する。Yはαにつき譲渡を受けたのだから、第三者に該当する。

 しかしこれに対しては,Xが2005年12月1日にαの引渡しを受けたことをもって対抗要件が具備されたものとして再抗弁が成立する。

(4)小括

 以上から,Yの抗弁は成立せず,XのYに対する請求が認容される。

 

2.X→Zへの請求について

(1)第三者異議の訴え

 Zは動産先取特権民法303条,311条5号,321条)に基づき,αの一部を構成する200万円分(以下,材料のままのものにつきβ,加工して作品となったものにつきγ)について,差押えを申し立てていると考えられる。そのため,Xとしては,民実行法38条1項の第三者異議の訴えを提起して,Zの強制執行の不許を求めることとなる。

 同条1項の「所有権その他目的物の譲渡又は引き渡しを妨げる権利」とは,債務者が執行の目的物を譲り渡したならば,その物の正当な権利を有する第三者に対して違法となる場合を意味する。譲渡担保の法的性質については所有権的構成をするとした場合,Xとしては,Zによる差押え前にβ,γにつき譲渡担保権を設定したことのみで,所有権を有すると言え,民事執行法38条1項の第三者に当たると言えそうである。

 しかし,本件では動産売買先取特権にも追及効がある以上,譲渡担保権は動産先取特権との関係でも優先する権利であることを言えなければ,「その他目的物の譲渡又は引き渡しを妨げる権利」を有するということはできない。したがって,Xとしては,民法333条の第三取得者であると言えなければならない。もっとも,これは法適用の問題であり,具体的主張立証は不要である。

(2)申立てにかかる事実

ここで具体的にXが主張すべき事実は,①排除されるべきZの執行行為としてZが2006年6月3日強制執行の申立てをし,執行官がβ,γを差し押さえたこと,②Bがβ,γをもと所有していたこと,③BはXに対し,①に先立ちβ,γを対象とする譲渡担保権を設定したこととなる。

(3)抗弁

 Zとしては,民法178条の第三者として,Xがβ,γについて対抗要件を具備しない限りXの権利取得を認めないという対抗要件欠缺の抗弁を主張することが考えられる。差押え債権者も譲渡担保権を否定できなければ差押えの効力を否定される立場にあるため,第三者に当たることから,Zもこの抗弁を主張することができる。

 しかし,これに対しては,Xは2005年12月1日に引き渡しを受けているため,これをもって対抗要件を具備したとして再抗弁が成立する。したがって,Xの主張が認められる。

(4)執行異議の訴え

 ZB間で300万円の債権が準消費貸借契約(民法588条)によりもはや売買代金債権ではなくなったとして,動産先取特権が消滅したと主張することが考えられる。しかし,準消費貸借契約においては公開契約とは異なり,旧債務の担保や抗弁は準消費貸借契約による貸金債務にも引き継がれると一般に解されており,動産売買先取特権が当然に消滅したとは言えない。

 また,γについては,加工(民法246条)により先取特権が消滅したと主張することが考えられる。民法321条は先取特権の対象を「その動産」と明示していることから,加工されて社会通念上別のものになれば,もはや先取特権は及ばないという解釈である。しかし,加工について民法247条2項は,物の所有者が加工物の単独所有者になった時は,その物について存する外の権利は以後その加工物について存すると規定する。その趣旨は,加工前の材料につき存する担保権等を保護しようとするものである。そうだとすれば,この趣旨は本件にも妥当する以上,γについても動産先取特権は認められる。したがって,Xは執行異議の訴えによることはできない。

 

 

[1]間接占有者に被告適格が認められることに争いはない。間接占有者が直接占有を始めたとき,請求者が直ちに執行に着手しうるという点でも,執行裁判所が間接占有者の第三者に対して有する返還請求権を差押えその請求権の行使を債権者に許すという強制執行ができる(民事執行法170条)という点でも実益を有するからである。もっとも,Yに対する判決で直接占有者Bに強制執行することはできない。