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Ⅲ-12.債権譲渡Ⅰ-譲渡禁止特約や対抗要件問題を中心に

Ⅲ-12.債権譲渡Ⅰ-譲渡禁止特約や対抗要件問題を中心に

1.X→Y1への請求

(1)前提

 Xは,XA間の金銭消費貸借契約について譲渡担保として譲り受けたAのY1に対する請負代金支払請求権について,Yに支払いを求めたい。ここで訴訟物となるのは,AのYに対する請負報酬支払請求権である。

(2)請求原因

 ここでXとしては①XA間で金銭消費貸借契約(民法587条)が締結されたこと,②AY1刊で請負契約を締結したこと,③②の仕事が完成したこと,④XA間の債権譲渡担保契約の締結を主張立証する必要がある。

本件において,①~③については充足するといえる。問題は④である。

まず,④においてはAが以後3年間に結ぶ請負契約上の報酬債権すべてをXに譲渡するとされていることから,このような将来債権譲渡が許されるかが問題となる。この点については,将来債権を取引の対象とすることは,契約においてそのリスクを当事者間でどう配分するかの問題に過ぎず,リスクが実現した場合は契約責任の追及として事後処理を考えればよい。したがって,将来債権であることから無効ということにはならない。

では,本件の譲渡担保契約締結時においては,Y1という第三債務者が特定されていないがこれはどう考えるべきか。これについては,動産譲渡特例法が認めていることから,その平仄として,特定が必ずしもなされていなくとも許されると解すべきである。

以上から,XA間で締結された将来債権譲渡担保も契約として有効であり,④もみたす。

(3)抗弁

ア 譲渡禁止特約の抗弁

これに対して,Y1はAY1間の請負契約には報酬債権を譲渡することを禁止する特約が付いているとして,この請求を拒む抗弁を提出することが考えられる。本来債権の譲渡は自由である(民法466条1項本文)が,契約自由の原則から当事者間で譲渡を禁止する特約をすることもできる。これは債権者の交換による過酷な取り立てから債務者を保護するためのものである。そしてこの場合は,債権は譲渡を禁止された性質を有するものとして譲渡することはできない(民法466条1項ただし書き)。

これに反して譲渡されたとしても譲渡禁止特約は物権的効果を有するので,無効である。ここでY1は①AY1間で債権譲渡禁止の合意をしたこと,及び②合意についてXが悪意又は重過失であったことを主張・立証する必要がある。②については,民法466条2項ただし書きで善意の第三者に対抗することはできないとされているが,債権譲渡は自由であることが原則であるのであるから,譲受人において善意を立証するのではなく,特約を結んだものが譲り受けたものの悪意またはそれと同視できる重過失を主張・立証すべきとされるから,このようになる。

まず,①についてはみたす。問題は②である。ここでAX間での債権譲渡担保は将来債権の譲渡であるのであるから,Xが悪意であることはありえないとも思える。しかし,悪意は確定的債権についてではなくその種類の債権については債権譲渡を禁止するものであるかどうか程度の認識で足りる。

本件では,これについてはXの悪意又は重過失は不明である。ただ,Y1が市町村であることを考えれば,このような譲渡禁止特約が通常であったことも考えられる。そうすると,悪意ないし重過失が成立することも考えられる。

この場合は,Xとしては民法116条類推によって無効行為の追認としてY1の承認を再抗弁として主張立証する必要がある。

イ 将来債権譲渡の公序良俗違反

 将来債権の譲渡がされることで,譲渡人の営業活動・取引活動の自由が不当に拘束されることとなる場合(将来の一定期間内に発生すべき債権を目的とする譲渡において,期間の長さ等の契約内容が,譲渡人の営業活動・取引活動に対し,社会通念に照らし相当とされる範囲を逸脱する制限を加えるような場合)や,譲受人が譲渡人に対する債権者である場合に,担保目的で将来債権の(包括的)譲渡がされることで,譲受人が,譲渡人に対する外の債権者の引き当てとなるべき財産から,過剰な優先的回収可能性を獲得する場合は,そのような将来債権の譲渡は公序良俗に反し無効とされる。

 しかし,本件では処分権がAに留保されている。したがって,このような公序良俗に反するとまでは言えない。

ウ 債権喪失の抗弁

 Y1としては,Z1による債権の差押えがあることから,これによってXはZ1に劣後することとなり,弁済はできないとの抗弁を提出することが考えられる。ここでは①Z1の差押え,②差し押さえ命令の送達を主張立証することとなる。これについて,譲渡禁止特約はあるが,当事者の合意で差押え禁止財産を作り出すことは許されないため,差押えに当たっては考慮する必要はない。

 本件で,Z1は3月13日に差押えを行っており,その差し押さえ命令の送達が3月14日になされていることからこの要件を充足する。

 そこで,XとしてはXも対抗要件を具備するものとして,AからY1への確定日付のある通知がなされたか,Y1からAに対する確定日付のある承諾がなされたことを主張立証することでY1の抗弁を排斥することができる(民法467条2項)。Xも対抗要件を備えた債権者である場合には,Y1はいずれも債権者として扱わねばならず,Z1からの差押えがあるからと言ってXの請求を拒むことはできないからである。

 本件では,承諾の方は2006年3月15日になされているがこれは確定日付によらない。もっとも,2005年4月3日にAからY1に送付された挨拶状においては,A社のY1の債権をXへ債権譲渡をした旨を内容証明郵便で通知している。したがって,これは確定日付のある通知を行ったといえる。

 これに対して,Y1はXより先に対抗要件を具備したと主張することが考えられる。ここでは差し押さえ命令の送達が確定日付のある通知よりも先になされたことを主張立証することで,Z1はXに優先する債権者だとYは主張することができる。ここで,Xに対する挨拶状は2005年4月3日に送付されており,Z1の差し押さえ命令の送達は2006年3月14日であるから,Z1はXに劣後するように思える。しかし,Xが譲渡を受けた債権は譲渡禁止特約が付いていたのであるから,これは3月15日の承諾によって初めて有効とされる(前述)。そうすると,ここから挨拶状による対抗ができることになり,これを基準とすると差押えは挨拶状による通知より先になされたといえる。したがって,Y1の再再抗弁が認められる。

 以上から,Xの請求は認められない。

 

2.X→Y2への請求

(1)前提

(2)請求原因

 (省略)

(3)抗弁

ア 債務者対抗要件の抗弁

 Y2としては,Xが債権譲渡を受けたことについて対抗要件を備えるまでは,その譲渡があったことを認めないとして債務者対抗要件の抗弁を主張することができる(民法467条1項)。ここではY2は上記の権利主張だけをすれば足りる。

 これに対して,Xは,Y2から2006年3月17日に承諾を受けているのであるから,この再抗弁によってY2の上記抗弁を排斥できる(民法467条1項)。

イ Z2の第三者対抗要件具備の抗弁

 Y2としてはZ2が債権譲渡を受けて第三者対抗要件を備えたとして,Xの請求を拒むことが考えられる(民法467条2項)。要件は,①Z2A間における債権譲渡契約,②確定日付ある通知又は承諾である。これはみたす。

 これに対して,Xは自身も第三者対抗要件を具備するのであるから,Z2と同様に債権者となりえるのであるから,Y2は支払いを拒むことはできないとの再抗弁を主張することになる。ここでの要件は,①確定日付のある通知又は承諾を受けたことである。これもみたす。

 さらに,Y2はZ2がXより先に対抗要件を具備したとして,Z2を債権者と扱うので,Xはこれに劣後するとの再々抗弁を主張することが考えられる。これは確定日付の通知または承諾といった事がなされるのは,債務者をインフォメーションセンターとして債権譲渡の有無を明らかにするためであるから,ここで対抗要件具備の先後は確定日付の先後ではなく,通知ないし承諾の到達の先後であると考えるべきである。

 本件では,Z2の通知は2006年3月17日に到達しており,Xも承諾を同日に得ていることから,Z2はXに先立って対抗要件を具備していない。したがって,Y2はXの請求を拒むことはできない。

 

3.2の場合に,Y2がZ2に弁済していた場合どうなるか

(1)上記の処理の通り,Z2もXも債権者として扱われる以上,Y2のZ2に対する弁済は有効であり,Y2はいずれの債権者に対してでもよいから全額を弁済すれば免責される。したがって,Z2に弁済したY2は免責される。

(2)しかし,この場合にXが全く債権を回収できないというのは公平性を欠く。ここでは各譲受人がその地位に基づき,その内部的関係において,各自の債権額に応じて,当該債権を案分取得し,その分配請求権を有すると解すべきである。

 したがって,XはZ2に対して分配請求をすることができる。

以上