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Ⅲ-6.抵当権と利用権

Ⅲ-6.抵当権と利用権

1.RからM1~M4,Sへの請求について

(1)請求原因

 Rは,引渡命令(民事執行法83条1項)により,M1~M4・Sに対して本件土地・建物の明け渡しを求めることになる。これは本件マンションを売却した執行裁判所に対して申出をすることによって行う。事件の執行記録によって,①Rが代金を納付したマンションの買受人であること,②M1~M4・Sが本件マンションを占有していること,が明らかになれば,Rに対して明け渡すべき旨の決定がなされることになる。

(2)反論

ア Sの反論

 Sは本件マンションの所有者であって,Rに対向可能な占有権限を有していない(民事執行法83条1項ただし書き参照)。したがって,Sに対するRの請求は認められる。

イ M1~M4の反論

 M1~M4は賃借権がRに対抗できることを反論として主張しうる。これが認められれば,その者に対する引渡命令の決定がなされないからである。M1~M4は,債務者以外の占有者であるので,引渡命令の決定をする場合に裁判所によって審尋される(民事執行法83条3項)。その際に重ねて主張することが可能である。

 そこでは,①賃貸借契約の締結,②当該賃貸借契約に基づく引渡し,③対抗要件の具備(借地借家法31条1項),④対抗要件を具備したのが抵当権設定登記具備より前であること,が必要となる。

 本件では①~③はM1~M4において充足する。しかし,抵当権設定日である2004年4月15日より前に対抗要件を具備したのは,同月4日に西棟の部屋の引渡しを受けたM1だけであり,M2は同月17日,M3は東棟について2005年4月6日,M4は同月6日以降であるから,④を充足しない。したがって,M1の反論だけ認められ,M2~M4は引渡しを行わなければならない。

 これはたまたまM1より後になったにすぎないという点で疑問も提起しうるが,画一的な処理のためにはこのような結論になることも仕方がない。したがって,④について,別個特別の扱いを検討する必要はない。

 もっとも,M2~M4においては,民法395条1項より明渡し猶予の反論をすることはできる。

 

2.M1~M4のRに対する敷金返還請求

ア M1について

 M1についてはその賃借権がRに対抗できる結果,賃貸人たる地位がSからRに法律上当然に移転する(状態債務論)。なぜなら,賃借物を使用収益させる義務は,所有権者であればだれでも履行できる性質のものであり,賃借権は所有権と一体となる状態債務となっていると考えられるからである。かく解することは,賃借人の利益にも資する。

 このとき,賃貸人の地位がRに移転する結果,敷金もRに当然移転する。敷金は賃借人の賃貸人に対する賃貸借契約から発生するあらゆる債務を担保するものであり,賃貸人の地位の移転が生じれば敷金も移転すると考えるべきであるし,賃貸人においても差引検査員の利益を奪われることは妥当でないからである。

 このとき主張立証すべきは,①M1・S間の賃貸借契約の締結,②①に基づく引渡し,③M1・S間の敷金契約の締結,④対抗要件の具備,⑤対抗要件具備が抵当権設定登記具備の日より前であること,⑥Rの競落,⑦賃貸借契約の終了と退去である。

 本件において①~⑦いずれも充足する。したがって,M1はRに敷金の返還を求めることができる。

 

イ M2~M4について

 M2~M4はその賃借権をRに対抗できない。したがって,Rは「売買は賃貸借を破る」の原則により,賃貸人たる地位を承継しない。そうすると,敷金の返還義務も承継しないのであるから,M2~M4はRに対して,敷金返還を請求することはできない。

 

  1. 問題文中(2)の策の問題点と対応策

(1)問題文中(2)の策をとる場合,Rが順次取得していく賃借権はLの抵当権に劣後するという問題点を有している。Lが抵当権を実行して,他の買受人が登場するとRの賃借権は消滅し(民事執行法59条2項),明け渡さねばならないからである。

(2)これに対する対応策としては,賃借権に優先する抵当権者の同意を得ることが考えられる(民法387条1項)。そこでは,①賃借権の登記,②すべての抵当権者の同意,③同意の登記を行うことによって,その賃借権を抵当権者に対抗することが可能となる。

 しかし,本件ではマンションを分譲という形ではなく,賃貸という形で占有させていることから,区分所有をしているのではないものと考えられ,そのときはマンション1棟が登記の対象となる。そうすると,登記をすることが難しいといえる。また,②については,Lが同意をすることは考えがたく,この対応をすることは困難であると思われる。

 

4.Lの抵当権を抹消させる方法

(1)Lの抵当権を抹消させるために,Rは抵当権消滅請求民法379条)をすることが考えられる。Rが競落等によって,本件マンションを買い受ければ,Rは抵当不動産の第三取得者となるので,抵当権抹消請求をすることができる。そこでは,RはG及びLに対して,一定事項を記載した書面を送付し(民法383条1項),G及びLがともに代価・金額につき承諾をし,かつ,Rがその代価を払い渡すか供託をすれば,抵当権は消滅する(民法386条)。②はできるとして,①はLが承諾するかが問題となる。

しかし,この書面受領後2か月間何もしなければ承諾したものとみなされるし(民法384条1号),競売を申し立てた場合は,本件ではGの抵当権額に鑑みれば,Lの申立ては無剰余競売として,競売の手続きを取り消す旨の決定がなされると考えられるから(民事執行法63条2項),やはり承諾したものとみなされる(民法384条4号)。したがって,Lの対応にかかわらず,本件では抵当権を抹消することができる。

以上