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Ⅲ-5.債権者代位権・抵当権と妨害排除

Ⅲ-5.債権者代位権・抵当権と妨害排除

1.case1について

(1)X1→Z1に対する請求

ア 前提

X1とZ1の間には,直接の権利義務関係を基礎づける事実は見当たらない。しかし,X1はYに対して貸金債権を有しているところ,Yには第三者に対する債権以外にめぼしい財産がなく,X1としてはYの有するこの債権によって,Yに対する貸金債権の満足を受けることを考えたい。そこで,X1としては,債権者代位権民法423条)に基づき,YのZ1に対する債権を代位行使することが考えられる。

 

イ 要件論

(A)総論

民法423条1項本文によれば,債権者代位権は,債権者が自己の債権を保全するために必要があるときは,債務者に属する権利を行使することができるとされる。ただし,これについては債務者の一身に専属する権利は行使することはできず(同項ただし書き),被保全債権の期限が到来しない間には一定の制約がある(同条2項)。

また,債権者代位権は,債務者が権利を行使しないことにより債務者の責任財産が減少することを防止するための制度でもあることから,解釈上,債務者が目的となる債権を行使していないことも要件であると考えられる。

(B)自己の債権を保全するため必要がある場合

 債権者代位権の制度趣旨(債務者の責任財産の減少防止)から,自己の債権を保全するため必要がある場合とは,自己の債権として金銭債権が存在することを基礎づける事実であり,代位権を行使しなければ債務者の無資力のために当該金銭債権の弁済が満足に受けられなくなる場合をいう。

 本件においては,X1がYに対して,弁済期を2006年6月8日と定めて100万円を貸し渡したという事実から,X1のYに対する100万円の金銭消費貸借契約に基づく貸金返還請求権の存在が基礎づけられる。

 また,Yにはめぼしい財産がなく,Z1との関係を除くと,Z2に対して乙を120万円で売ったとの事実のほか,財産権の発生を基礎づける事実は見当たらない。他方,YはX2から家具を200万円で買っている。これらの事実からすると,Y には,Z1 との関係以外では,積極財産としてZ2 に対する120 万円の代金債権を有するのみであるのに,消極財産として,X1 に対する100 万円の貸金債務とX2 に対する200 万円の代金債務があり,このままでは,X1 の貸金債権は,全額の弁済を受けられなくなるおそれがあるといえる。

(C)債務者に属する権利

 代位の目的となるYのZ1に対する権利としては,不当利得返還請求権としての甲の返還請求権(民法703条,704条)が考えられる。YはZ1に対し,甲を20万円で売るとの合意をし,これに基づき甲を引き渡している。この契約が無効であれば,甲の不当利得返還請求権が認められる。

 この売買契約の無効を基礎づける事実としては,Yの錯誤(民法95条本文)とZ1の詐欺に対する取消し(民法96条1項,121条)が考えられる。

 まず,錯誤について検討するに,民法95条によると,法律行為が錯誤により無効となるのは,法律行為の要素に錯誤があった場合である。しかし,甲の代金を20万円と定めたことは,内心においても表示においても錯誤はなく,甲の代金決定のための評価という動機に錯誤があるに過ぎない。この法律行為をするに至った動機は,通常は法律行為の要素には当たらない。しかし,表意者によって動機が表示され(信頼主義に基づく),意思表示の内容となったときは,その動機の錯誤は法律行為の要素として錯誤が成立しうると考えられる。

 本件売買契約において,代金額がZ1の評価に基づいて20万円と定められたことからすると,「目的物甲の価額が20万円相当であること」は,YとZ1との間で,代金額決定の同期として表示され,法律行為をするための前提となっていたと考えられる。そして,甲の価額が実際には200万円相当であったことから,代金額決定の主要な動機に錯誤があったことになり,法律行為の要素に錯誤があったということができる。

 では,この錯誤無効をXが主張することはできるのか。この点について,民法95条は表意者を保護するための規定と理解されているため,主張できないようにも思える。判例も,表意者に意思表示の無効を主張する意思がない場合に,第三者が錯誤に基づく意思表示の無効を主張することは原則として許されないとする。しかし,例外として,表意者自らが錯誤を認めており,第三者においては,表意者に対する債権の保全の必要が認められるときは,例外的に第三者が意思表示の錯誤無効を主張できるとしている。これによれば,X1のYに対する債権を保全する必要性は認められるのであるから,YがZ1に対して,錯誤に気付きながらその主張をしていないことがどう評価されるかで,この無効主張ができるかが分かれる。もっとも,気づいていながら主張していないだけで,錯誤を認めていないということにはならないと思われるので,錯誤の主張は認められるのではないかと考えられる。

 詐欺取消しについては,脚注参照[1]

(D)被保全債権の期限

 被保全債権の存在を基礎づける事実中に履行期についての合意が含まれることから,被保全債権に履行期の定めがあることが表れており,X1 としては,その履行期の到来を主張立証しない限り,債権者代位権の行使について民法423 条2 項の制約を免れない。そして,本問においてはその履行期2006 年6 月8 日はまだ到来していない。そこで,X1 としては,民法423 条2 項により,代位権の行使が保存行為になる場合を除き,裁判上の代位によって債権者代位権の行使をしなければならないと考えられる。取消権,不当利得返還請求権の行使は,いずれも,財産の現状を維持する行為の範囲を超え,保存行為とはいえないから,X1 としては,非訟事件手続法72 条の手続により,債権者代位権を行使する必要がある。

(E)小括

 以上の検討によれば,X1としては,Yが本件売買契約について錯誤を認めていると評価できる場合には,甲の返還請求権を,Z1の詐欺が認められる場合には,本件売買契約の取消権と,甲の返還請求権を,いずれも裁判上の代位によって行使することができる。

 

ウ 効果論

 債権者代位権に基づき,給付請求権を代位行使する場合においては,債権者は第三債務者に対し,自らに対する給付を請求することができる。なぜなら,債権者自身に対する給付が認められないと,債務者が給付の受領を拒絶するなどして受領できない場合に,債権者代位権の実効性を欠くことになってしまうからである。

 そこで,X1が甲の返還請求権を代位行使する場合,X1はZ1に対し,X1への甲の引渡しを求めることができると考える。このとき,X1が甲の引渡しを受けても,甲はX1の所有物になるわけではないので,X1としては,別途Yに対する債務名義(民事執行法22条参照)を得たうえで,甲に対する強制執行により被保全債権の満足を得る必要がある。

 

(2)Z1→Xへの抗弁

ア 債権者代位権の消極要件

 Z1としては,債権者代位権の消極要件として,Yがすでに権利を行使していることを主張しうるが,本件ではそのような事実はない。

イ 第三債務者から債務者に対する抗弁

(A)同時履行の抗弁権(民法533条)

 ⇒詐欺の場合に,これが認められるかについて検討。

(B)詐欺取消権行使の期間制限

 

(3)X2 がZ2 に裁判外でα債権の支払を求めてきたので,Z2 はY に事情を問い合わせた。そこで,X2 の代位権行使を知ったY は,自分がZ2 からα債権を取り立てようとした。Z2 はいずれに支払うべきか。

 判例は,債権者代位権が行使された場合において,債務者が,債権者の代位権行使について通知を受けたとき又はこれを知ったときは,以後代位の目的となった権利を処分することができなくなるとしている。これは,被保全債権の履行期到来前に,裁判上の代位が行われた場合においては,非訟事件手続法76条2項によりそのような効果が認められることとの均衡を考慮したものと考えられる。

この理解を前提とすれば,X2が債権者代位権に基づきα債権を代位行使し,Y がそれを知った以上,Y はα債権の処分をすることができなくなる。そうすると,以後,Y に対してα債権の弁済をしても,民法481条1項により,さらにX2に対しても弁済をする義務を免れないことになる。そこで,実体的には,Z2はX2に対して弁済すべきである。

もっとも,Z2がX2に対して弁済すべきなのは,債権者代位権に基づく代位行使が適法に行われている場合に限られるのであり,裁判外で債権者代位権が行使される場合,その要件が充足されているかどうかをZ2において判断することは困難である。そこで,Z2としては,過失なく債権者を確知することができないことを理由に供託をすることができる(民法494条) と考えるべきである。

 

(4)X2がα債権を裁判外で代位行使して,Z2から120万円の支払を受けた場合,X1はX2に対して何らかの請求をすることができるか。

 X2がα債権の代位行使によりZ2から120万円の支払を受けた場合,債権者代位権の制度趣旨が,債務者が権利を行使しないことによる責任財産の減少の防止であることから,X2 には,支払を受けた120万円をYに対し返還する義務が生じる。そこで,X1は,債権者代位権に基づき,YのX2に対する上記返還請求権を代位行使することが一応考えられる。しかし,X2は,Yに対する代金債権を自働債権として上記返還請求権と相殺することが可能であり,X2が相殺の意思表示をすれば,X1の請求は認められない。

 

2.case2について

(1)X1→Yへの請求

ア X1としては,Yに対して,甲及び乙不動産を自己に明け渡すように請求するべく,①BのYに対する所有権に基づく返還請求権をX1が代位行使するか,②抵当権に基づく妨害排除請求権をX1が行使するかということが考えられる。

イ ①の構成による場合

 判例によれば,第三者が抵当不動産を不法占有することにより,抵当不動産の交換価値の実現が妨げられ,抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態があるときは,抵当権者は所有者に対して,右状態を是正し抵当不動産を適切に維持または保存するよう求める請求権( 以下「担保価値維持請求権」という) を有しており,抵当権者は,この担保価値維持請求権を保全するため必要あるときは,民法423 条の法意に従い,所有者の物権的請求権を代位行使することができる,としている。これによれば,Y が甲・乙を占有することにより,甲・乙の交換価値の実現が妨げられ,X1 の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態があれば,X1 はB のY に対する所有権に基づく返還請求権を代位行

使することを考える余地がある。もっとも,上記の構成は,担保価値維持請求権という,上記判決以前に存在しなかった概念や「423 条の法意」を用いている点で難があるほか,本問においては,B とY は乙について賃貸借契約を締結しており,賃借人に対して賃貸人の所有権の主張をしても認められない可能性が高い。そこで,この構成については検討を省略する。

ウ ②の構成による場合

 第三者が目的物を損傷し,又は,損傷する恐れがあるために,抵当権者の権利が侵害され,又は侵害される虞があるときは,抵当権者は物権的請求権により,この侵害を排除することができる。そのための要件としては,①X1が甲・乙の抵当権者であること,②YがX1の上記抵当権を侵害していることが必要となる。

 ①については,X1 がA に対して,弁済期を2006 年6 月30 日と定めて,5000 万

円を貸付け,B・X1 間で上記消費貸借契約に基づく貸金債権を担保するため,甲・乙に抵当権を設定する旨の契約が締結されており,上記抵当権設定契約当時,B が甲・乙を所有していたこと,から認められる。

 ②については,やや詳細に検討を要する。なぜなら,抵当権は,非占有担保権であり( 民369 条1 項),抵当権者は,原則として抵当不動産の使用収益について干渉することができないから,第三者が抵当不動産を占有していることをもって,直ちにこれを抵当権に対する侵害であると評価することはできないからである。しかし,第三者が抵当不動産を占有することが抵当権に対する侵害と評価される場合はある。すなわち,(ⅰ)第三者が抵当不動産を不法占有することにより,抵当不動産の交換価値の実現が妨げられ,抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態があるとき,また,(ⅱ)所有者から占有権原の設定を受けてこれを占有する者についても,その占有権原の設定に抵当権の実行としての競売手続を妨害する目的が認められ,その占有により抵当不動産の交換価値の実現が妨げられて抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態があるとき,である。

本件では,Y は,甲上に立て札をたて,乙の玄関先に高級外車数台を駐車することにより,甲・乙を占有している。B はY に対し,乙を賃貸しており,Y の上記占有は,占有権原に基づくといえる。しかし,上記賃貸借契約は,賃料を1 万円ときわめて低額に,敷金を500 万円ときわめて高額に定める異常なものであり,抵当権の実行としての競売手続を妨害する目的でされたものと推認することができる。そこで,占有により甲・乙の交換価値の実現が妨げられ,X1 の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態があるかどうかが問題となる。占有により甲・乙の交換価値の実現が妨げられ,X1 の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態とは,Y が甲・乙を占有していることによって,甲・乙の抵当権を実行した場合にX1 が得られるであろう配当額が減少し,若しくは甲・乙の抵当権の実行手続が著しく遅延することが予想される場合,または抵当権の実行手続の進行が現に害されている場合をいうと考えられる。本件は,X1 の債権について未だ債務不履行はなく,X1 は未だ抵当権を実行する前の状態であり,現に手続の進行が害されている場合ではない。また,占有権原の設定が競売手続を妨害する目的でなされたものと推認できる事情( 賃貸借契約の内容の異常) がある他は,X1 の配当が減少したり,手続が著しく遅延することが予想されることを基礎づける事実は見当たらない。そうすると,占有権原の設定に競売手続の妨害目的があることの他に,優先弁済請求権の行使が困難となるような状態があることを必要とする趣旨からすると,本件で,占有により甲・乙の交換価値の実現が妨げられ,X1 の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態があると言うことは難しいと考えられる。

エ 効果論

 仮に,本件で,占有により甲・乙の交換価値の実現が妨げられ,X1の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態があることが認められ,X1 のY に対する妨害排除請求権が認められる場合,妨害排除請求権の内容として,X1 に対して甲・乙を明け渡すことを求めることができるかどうか問題となる。

判例は,抵当権に基づく妨害排除請求権の行使に当たり,抵当不動産の所有者において抵当権に対する侵害が生じないように抵当不動産を適切に維持管理することが期待できない場合には,抵当権者は,占有者に対し,直接自己への抵当不動産の明渡しを求めることができるとする。これを前提にすると,本件で,B は行方不明となっており,B において抵当不動産を適切に維持管理することは期待できないから,X1 に対して甲・乙を明け渡すことを求めることができると考えられる。

 

(2)X2→Yへの請求

ア X2 も,X1 と同様に,抵当権に基づく妨害排除請求権の行使として,甲・乙不動産を自己に明け渡すよう請求することが考えられる。X1 とX2 では,X2 が後順位抵当権者である点が異なり,これにより生じるX2 に特有の問題について検討する。

イ 占有により甲・乙の交換価値の実現が妨げられ,X2 の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態があるかどうか

 優先弁済請求権の行使が困難となるような状態があるかどうかの検討に当たって,X2 が後順位抵当権者であることから,X2 が,抵当権の実行により配当を受けることができるかどうかが問題になる。配当を受ける可能性が全くない後順位抵当権者については,配当の減少が生じる余地がなく,手続が遅延しないことについて利益を有しないから,占有により優先弁済請求権の行使が困難になるような状態を観念することはできないと考えられる。

本件においては,甲・乙の合計価額は,5000 万円前後であり,先順位抵当権者X1 の非担保債権の額も5000 万円で,X1 に対する利息の支払が約定通り連帯保証人によってされていることからすると,X2 は,配当を受ける可能性が全くない後順位抵当権者と言うことはできない。そうすると,この要件について,X1 とX2 で異なる点はないと考えられる。

ウ 後順位抵当権者に対する明渡は認められるか

 抵当権者に対する明渡が認められる場合のその根拠は,抵当不動産を適切に維持管理することが期待できないことにある。すなわち,抵当権者に認められる占有は一種の保存行為としての管理占有であり,抵当権者に利益を与えるためのものではない。そうすると,後順位抵当権者に対する明渡を認めたとしても,これによってせん順位抵当権者を害することにはならない,したがって,後順位抵当権者に対する明渡を認めることに支障はなく,この点についてもX1 とX2 で異なる点はないと考えられる。

エ 小括

 以上から,X2においても,他の要件をみたせば,債権者代位権による請求が認められる。

 

(3)仮に,X2 が甲・乙の明渡を受けた場合に,X2 は乙を賃貸して賃料から被担保債権の回収をはかることができるか

 上記の通り,X2 が甲・乙の明渡を受けた場合,保存行為としての管理占有が認められるにすぎず,進んで甲・乙を使用収益することは認められない。そうすると,X2 が乙を賃貸して賃料を得た場合,その賃料収入については,Bに対し,不当利得として返還する義務が生じると考えられる。B・X2 間には債務不履行停止条件とする賃借権設定契約が存在し,賃借権設定の仮登記が備えられているが,この契約は,詐害的な賃貸借契約を排除するためのいわゆる併用賃貸借であると考えられる。判例は,このような併用賃貸借は,目的物の用益を目的とする真正な賃借権と言うことはできないとして,その効力を認めない。そうすると,この賃借権設定契約をもって,甲・乙の使用収益を正当化することもできず,上記の結論に影響はないと考えられる。

もっとも,X2 としては,自らの貸金債権を自働債権として,上記の不当利得返還債務を相殺することができると考えられ,これにより事実上の優先弁済を受けることが可能であると考えられる。

以上

 

[1]仮に,Z1 が甲の価額が200 万円相当であることを知りながら,20万円相当であると評価した旨Y に告げたという事実があるならば,本件売買契約は,詐欺による意思表示として取り消しうると考えられる(民法96 条1 項)。ところが,Y が,本件売買契約を取り消す旨の意思表示をしたならば,本件売買契約は無効になるところ( 民121),そのような事実は見当たらない。そこで,X1 としては,債権者代位権に基づき,Y の取消権をも代位行使して,本件売買契約を取り消すことにより本件売買契約の無効を基礎づけることができると考えられる。この詐欺による取消権,不当利得返還請求権としての甲の返還請求権を基礎づけることができる場合,これらはいずれも財産上の権利であり,債務者が無資力状態において,債権者の利益を害してまで行使するかどうかの自由を保障すべき権利とはいえないから,Y の一身に専属する権利とはいえず,代位の目的となると考えられる。