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Ⅲ-4.詐害行為取消権

Ⅲ-4.詐害行為取消権

1.X→Y3への請求

(1)XはY3に対して,XA間で締結された賃貸借契約の賃貸人たる地位がY3にあるとして,その契約に基づく甲の使用収益を求めたい。しかし,Y3がこれを拒んでいるので,Xは賃借権に基づく妨害排除請求権によってこれを実現したい。

(2)ここでXの請求が認められるためには,請求原因として,①XA間の甲賃貸借契約締結,②①についてAが対抗要件具備(民法605条参照),③Y3の甲もと所有としてA死亡,BはAの子,BY1間の甲売買,Y1Y3間の甲売買を主張・立証する必要がある。このような不動産賃借権を直接の契約者以外の者に主張するためには,その賃借権が第三者に対抗できるようになっている必要がある。したがって,③の要件も請求原因で主張立証をしなければならない。

 本件において,①,②は要件をみたすとしても,③についてはXが対抗要件を具備していない以上,これによる請求は認められない。

(3)これに対して,③について,Xの対抗要件具備に代えて,Y3が背信的悪意者であることを主張・立証すれば請求原因が充足するという考え方もありうる。しかし,この考え方は,不動産賃借権は対抗要件を備える以前からある程度物権化していると捉えざるを得ないが,対抗要件を具えない賃借権に物権化の契機はなく,これによる反論は認められない。

 したがって,XのY3に対するこの請求は認められない。

 

2.X→Y1への請求

(1)XはY1に対して,その甲の売買契約によるY3への処分が詐害行為に当たるとして,詐害行為取消権(民法424条1項)により,この詐害行為を取消し,かつ,これによって逸失した財産を取り戻すことをしたい(折衷説)。ここでは,Y1はすでに甲をY3に売却しているため,甲の引渡しを請求することができない。したがって,価額賠償を求めることとなる。

(2)Xはその請求原因として,①被保全債権として原状回復請求権が考えられる。賃料や敷金もその賃貸借契約がその目的物の譲渡によって履行不能となった以上解除することができ,その原状回復請求権も詐害行為と同時に金銭債権となることから,これを被保全債権とすることもできるからである。これについては,AX間の甲の賃貸借契約締結及び敷金契約締結,A死亡,BはAの子,上記契約に基づく賃料及び敷金の支払い,Aによる債務不履行,催告及び相当期間の経過,解除の意思表示を主張・立証する。そして,②財産権を目的とする債務者による法律行為がなされたこと,すなわち,BのY1への甲の売買,③[1]その法律行為が債権者を害するという評価を根拠づける具体的事実,④財産の処分権への介入を許すのであるからその正当化を基礎づけるための債務者の無資力,⑤価額賠償なので逸失財産の評価額を主張・立証する必要がある。

(3)本件では,①が200万円の賃料債権の解除による原状回復請求権[2]と2000万円の敷金返還請求権(敷金契約は賃貸借の適法な開始が解除条件となり,開始されなければ敷金契約は成立せず,不当利得返還請求権(ないし原状回復請求権)が認められる)が被保全債権となる。また,④Bはめぼしい財産がないことから,無資力である。②は上記の通りの法律行為がある以上はみたすものと考えられるし,③については,BからY1への売却がそれすなわち不動産を散逸しやすい金銭に代える売却行為として,共同担保の実質的な削減が生じ,原則として詐害行為として評価される。そして,この売却価額は5億円であるが,全額の取り消しを認めるのは許されず,財産権介入が認められるのは被保全債権の範囲にとどまるから,⑤2200万円である。

 以上から,XはY1に対して,Y1への甲の売却を詐害行為として取消し,そのうち被保全債権額までの2200万円の返還を請求できる。

(4)これに対して,Y1は(ⅰ)Y1はBの詐害行為について善意であった,(ⅱ)Bは資力を回復した,(ⅲ)詐害行為取消権は時効にかかっている(民法426条),(ⅳ)解除ついて,帰責事由が不存在,などを抗弁として主張することが考えられる。

 そして,(ⅰ)Y1はBの詐害行為について善意であったことから抗弁が認められる。したがって,XのY1への請求は認められない。

 

3.X→Y3への請求

(1)XはY3に対して,BY1間の甲・乙の売買[3]を取消し,Y3のもとにある登記名義をBの下に移転させるために詐害行為取消権を行使することが考えられる。このとき,2で述べたように介在者であるY1がすでに善意ではあるが,悪意の転得者は保護する必要性がなく,仮に取消債権者と転得者の間で詐害行為として取り消されても,その効果が受益者には及ばないのであるから,善意受益者は悪意転得者から責任追及をされる虞もない。したがって,このような場合でも詐害行為取消権の行使は認められる。

(2)請求原因は,①Xの被保全債権の存在,②債務者の無資力,③財産権を目的とする法律行為が債務者によってされたこと,④当該法律行為が債権者を害するという評価を基礎づける具体的事実,⑤Y3が転得者であることとしてY1Y3間の甲・乙売買,⑥Y3の甲所有権登記名義保持である。

 (あてはめ省略)

 

(3)抗弁としては,Y3の善意の抗弁が考えられるが,これについては(あてはめ省略)。

 

4.X→Y2への請求

(1)XはY2に対して,BがY2に行った弁済を詐害行為として取消し,その弁済された金銭について,直接引き渡すように請求することが考えられる。

(2)ここではこの弁済行為が詐害行為になるかどうかを検討するが,債権者が弁済期の到来した債務の弁済を求めるのは当然の権利行使であり,債務者は本旨履行をする義務を負うのであるから,原則としてこれは詐害性を有さない。しかし,一般債権者と債務者が通謀して,他の債権者を害する意思を有しながら弁済したような場合には例外的に詐害性が認められる。

 本件では,Y2が暴力団との関係がうわさされる高利貸しで,相当厳しく取り立てをしていたことから,Xがその意思でY2との間で通謀的害意をもって弁済したとは考えにくい。したがって,請求原因が認められず,Xの請求は認められない。

以上

 

 

[1]かつては、客観的詐害行為と主観的詐害意思とを分離し、客観的詐害行為に対応するものとして責任財産の計数上の減少、主観的詐害意思に対応するものとして債権者を害することの認識とする考え方が通説であった(二元説)。しかしこれでは、偏頗(代物)弁済など、主観的態様によっては取消を認めた方がよい行為についても類型的に詐害行為取消権成立が否定されてしまうことになり、妥当な解決を導けない。ゆえに、詐害行為に該当するか否かについては、相関的に考えていくべきである(相関関係説)。すなわち、行為類型によって、客観的詐害性が強く認められるような類型の行為(贈与など)においては、主観的詐害意思は害することの認識程度で充たされるとし、弁済のように客観的詐害性が強くない類型の行為においては通謀が要求されることになる。

 

[2]これについては,「判例は、詐害行為取消権行使時点で金銭債権に転化していることを条件に、特定債権を被保全債権とする詐害行為取消権の行使を認めている。特定債権も究極において損害賠償債権に変わりうるので、債務者の一般財産によって担保されなくてはならない点で金銭債権と同じであることがその理由である。他方で、債務者の責任財産を引き当てとできるのは金銭債権だけなので、詐害行為時には金銭債権に転化していなくてはならないとする説もある。しかし、特定債権も究極的には債務者の責任財産を引き当てにすることになる以上その必要はなく、ただ、詐害行為取消権が共同担保の保全のための制度であることから、権利行使時までには転化が生じている必要がある、ということになる。この立場に立つと、Xは、200万円の損害賠償請求権を、詐害行為以前から存在した賃貸借契約の履行請求権が転化したものとして被保全債権とすることができる。」という考え方も。これは詐害行為時に損害賠償請求権に転化しているのではなく,権利行使時に転化していればいいというもので判例の射程を広くとらえるものであると考えられる。

[3]甲だけを取り消すことができるかどうかは,契約(法律行為)の内容次第なところはある?