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Ⅱ-5.賃貸借契約における地位の移転と対抗

Ⅱ-5.賃貸借契約における地位の移転と対抗

第1 XのBに対する甲土地明渡請求

  1. 訴訟物

 Xは甲土地の所有権に基づいて,Bに対して所有権に基づく返還請求権としての土地明渡請求権を訴訟物とする建物収去土地明渡請求をしていくことが考えられる。

  1. 請求原因

(1)Xは甲土地所有権に基づく物権的請求権を行使しているものと考えられる。すなわち,Bは甲土地上に乙建物を所有することで土地を占有して,Xの所有権を侵害しているのであるから,これを除去・回復することが物権的請求権の内容である。そうすると,そこでの請求原因は①Xの甲土地現所有,②甲土地上に乙建物存在,③Bの乙建物現所有である。

(2)本件では請求原因が認められることに問題はない。

  1. 抗弁

(1)BとしてはXに対して,対抗要件の抗弁による物権的請求権の阻止の抗弁と占有正権原の抗弁による物権的請求権の障害の抗弁で反論していくことが考えられる。しかし,対抗要件の抗弁については,すでにXが甲土地についての所有権移転登記を具備しており,再抗弁が成立することが自明である。したがって,ここでBとしては占有正権原の抗弁を主張していくことが考えられる。

(2)Bの占有正権原の抗弁とは,Bは乙土地の敷地として甲土地を占有しており,かかる占有について正権原を有しているというものである。つまり,Bは敷地の賃借人となっており,かつ,民法177条にいう正当な利益を有する第三者に当たり,民法605条,借地借家法10条等の対抗要件を備えたものであるから,その賃借権を賃貸物件の譲受人たるXに対して主張していくことができると主張するものである。賃借権は債権であるため,AX間の賃貸物売買をされると,Xにはその賃借権を主張することができないのが原則である(「売買は賃貸借を破る」のルール)が,対抗要件をそなえた賃借権は債権であっても他者に主張していくことができるので,それが占有正権原を基礎づけると考えるのである。

そこでの要件事実は①AY間甲土地賃貸借契約の締結(民法601条),②①に基づく甲土地引渡し,③①の契約は建物所有目的(借地借家法2条),④Yの乙建物もと所有,⑤YB間乙建物売買契約締結(民法555条),⑥⑤に基づく乙建物引渡し,⑦⑤についてAの承諾,AX間甲土地売買契約の締結,⑨AX間の売買契約締結時に,乙建物にBが登記名義保有(借地借家法10条1項)となる。

(3)このような整理となるのは,以下の理由による。まず,甲土地のBの占有正権原を基礎づけるべく①,③ないし⑤,⑦の主張を必要とする。ここではAY間の甲土地賃貸借契約に基づく甲土地の占有権原があり,それがYB間の乙建物売買契約によってその敷地として移転していることを基礎づけている(民法87条2項類推)。⑦の要件が必要となるのは,賃貸借契約が人的信頼関係に基づく契約であることから,原則として当事者以外に対する賃借権の譲渡は予定外として有効ではなく(民法612条1項),例外として承諾があるときに賃借権の譲渡が有効となるから有効と主張する者が主張しなければならない要件として必要となる。また,上記占有権原に基づいて,Bが甲土地を占有していることとして,②と⑥を必要とする。ここでは⑥をいうことで甲土地の占有も同時にBに移っていることを主張していることとなる。そして,⑨は対抗要件を備えた賃借権となることで不動産譲受人等の第三者に主張できる賃借権となるため,これも必要となる。

(4)本件において,〔あてはめ省略〕。

本件では認められる。

  1. 再抗弁

(1)Xとしてはこれに対して,乙建物はいまだYが使用しており,これは甲土地賃借権の移転を乙建物の引渡時まで留保するとの特約があったのであり,Bに甲土地賃借権の占有はないと再抗弁で反論することが考えられる(民法176条,91条)。

(2)本件において,〔あてはめ省略〕。

本件では認められない。

 

第2 XのYに対する甲土地明渡請求

  1. 訴訟物

 Xは甲土地の所有権に基づいて,Yに対して所有権に基づく返還請求権としての土地明渡請求権を訴訟物とする建物退去土地明渡請求をしていくことが考えられる。ここでYに対して建物収去ではなく建物退去としているのは,Yは建物の所有者でないことから収去権限を有していないため,退去を求めることができるにとどまるからである。

  1. 請求原因

(1)Xは物権的請求権に基づいて自己の所有権を侵害する占有の除去・回復を図ることができる。そこでの請求原因は,①Xの甲土地現所有,②甲土地上に乙建物存在,③Yの乙建物現占有である。

(2)本件では問題なく認められる。

  1. 抗弁

(1)これに対して,Yは対抗要件の抗弁と占有正権原の抗弁を主張していくことが考えられる。しかし,対抗要件の抗弁に対しては対抗要件具備の再抗弁が当然に予定されていることは前記の通りなので,ここではYの占有正権原の抗弁に絞って検討する。

(2)ここでいうYの占有正権原とは何か。YはBから乙建物を使用貸借(民法593条)している。これを捉えてYはBから甲土地賃借権の転貸借を受けている(民法612条)とみて,この占有権原をもって占有正権原とみることができると考えることができる。

(3)そうすると,ここで抗弁として必要となる要件事実は,Bの甲土地占有正権原を基礎づけるために,①AY間の甲土地賃貸借契約の締結(民法601条),②①は建物所有目的であった(借地借家法2条),③Yの乙建物もと所有,④YB間の乙建物売買契約の締結(民法555条),⑤甲土地賃借権の譲渡についてのAの承諾(民法612条1項)を必要とし,それに基づく占有として,⑥①に基づく甲土地引渡し,⑦④に基づく乙建物引渡し,が必要となる。そして,Bの賃借権がXに対抗できることを主張するため,⑧AX間の甲土地売買契約締結時に,Bが乙建物の登記名義保有(借地借家法10条1項)を必要とし,さらにそこから有効な転貸借が成立していることとして⑨YB間の乙建物の使用貸借契約の締結(民法593条),⑩⑨に基づく乙建物の引渡しが必要となる。

(4)本件についてみるに,〔あてはめ省略〕。

本件では認められる。

  1. 再抗弁

(1)甲土地賃借権留保特約の抗弁

上述故に略

 

第3 XのBに対する賃料請求

  1. 訴訟物

 XはBとの賃貸借契約(民法601条)に基づく賃料支払請求権を訴訟物として,Bに賃料の支払いを求めていくこととなる。

  1. 請求原因

(1)賃料請求が認められるためには,Xが賃貸人であるということ,Bが賃借人であること,使用収益が可能になってから一定期間の経過があったこと,支払時期の到来が要件となる。それぞれを主張するにあたっての要件事実は以下のように整理される。

(2)すなわち,Xが甲土地の賃貸人であるというためには,①Aが甲土地もと所有,②AY間の甲土地賃貸借契約の締結(民法601条),③AX間の甲土地売買契約の締結(民法555条,民法176条)が必要となる。ここで①の要件が必要となるのは後述するように,Aの賃貸人たる地位は対抗要件を備えた賃借人に対しては所有権に付随して移転することとなるため(状態債務論),Aが甲土地の所有権者であったことを示すために必要な要件となる[1]。そして,Bが賃借人であることをいうためには,④②が建物所有目的であること,⑤甲土地上に乙建物存在,⑥Yの乙建物のもと所有,⑦BY間の乙建物売買契約の締結(民法555条),⑧⑦についてのAの承諾(民法612条1項)が必要となる。そして,使用収益は引き渡しを受けた時から可能となるのが一般であることから,⑨②に基づく甲土地引渡し,⑩⑦に基づく乙建物引渡しが必要となる。さらに,先に述べた様に状態債務となっていることをいうために,Bが対抗要件を備えたこと,すなわち⑪乙建物にBが登記名義保有(借地借家法10条1項)していることが必要となる。その上で,民法614条の特約(民法91条)として,⑫来月分を当月25日に支払うとの合意及び⑬履行期の到来をいえば,XはBに対して賃料請求を行っていくことができる。

(3)本件についてみるに,〔あてはめ省略〕

本件では認められる。

  1. 抗弁

 要件MAP参照

 

第4 YのXに対する敷金返還請求

  1. 訴訟物

 YとしてはXに対して,甲土地賃貸借契約に伴う敷金交付契約に基づく敷金返還請求権を訴訟物として,敷金の返還を求めていくことが考えられる。

  1. 請求原因

(1)敷金とは,賃貸借契約に付随して行われる敷金契約に基づいて交付される金銭であり,賃貸借契約から発生する一切の債務の担保のために交付されるものであって,明渡後ないし賃貸借契約から離脱後,残額が生じればそれを賃借人に返すものとされる。

(2)そうすると,ここでの請求原因は①AY間の賃貸借契約の締結,②AY間の敷金契約の締結,③②に基づく敷金の交付,④Aの甲土地もと所有,⑤AX間の甲土地売買契約の締結(民法555条,176条),⑥①が建物所有目的,⑦甲土地上に乙建物存在,⑧Yの乙建物もと所有,⑨YB間の乙建物売買契約の締結(民法555条,176条),⑩被担保債権の存在,⑪弁済後も残額,⑫YからBに甲土地賃借権が移転した時点での甲土地賃借人がXであったこと,が必要となる[2]。⑨によってYが賃貸借関係から抜けることとなり,敷金の返還請求権が発生することとなる。敷金は新たな賃借人に承継されるとすると,敷金交付者は第三者の債務の負担を負うことにもなりえるため妥当でないことから,離脱時に返還請求が認められる。そして,⑫は敷金返還請求権発生時の賃貸人を相手方にして請求をすべきであるため,要件として必要となる。

(3)しかし,本件では甲土地賃借権の移転時にはAが賃貸人であったため,この要件をみたさず,請求は認められない。

 

第5 YのAに対する敷金返還請求

  1. 訴訟物

 YのAに対する敷金交付契約に基づく敷金返還請求権を訴訟物とする敷金返還請求をしていくことが考えられる。

  1. 請求原因

(1)請求原因は上記のXに対する者に準じて考えればよい。すなわち,①AY間の甲土地賃貸借契約の締結,②AY間の敷金交付契約の締結,③②に基づく敷金の交付,④①が建物所有目的,⑤甲土地上に乙建物存在,⑥Yの乙建物もと所有,⑦YB間の乙建物売買契約の締結(民法555条,176条),⑧被担保債権の存在,⑨弁済後も残額,⑩YからBに甲土地賃借権が移転した時点の甲土地賃貸人がAであったこととなる。

(2)本件についてみるに,〔あてはめ省略〕。

本件は認められる。

 

以上

 

[1]講義ではAの甲土地もと所有をいってなかったけど,潮見イエローも要件MAPもいれていたのでいれることにしました。理由はこんな感じかなという私見です。他人物賃貸借とか念頭に置くとこちらの方がスムーズなのかな?だれかわかれば教えてください。

[2]YBの売買についてのAの承諾がいるとなっていたけど,承諾あってもなくても同じじゃないのかな…?とおもって要件事実から抜いたんだけどどうなんでしょうか?誰か教えてください。